旧横浜市庁舎行政棟に泊まり、街の文化と名建築を味わう、「OMO7横浜 by 星野リゾート」の魅力とは

2026年3月にオープンした「BASEGATE(ベースゲート)横浜関内」。すぐ目の前にはJR関内駅、そして横浜スタジアムとも直結し、ホテル、オフィス、商業施設が一体化したこの大規模街区は、横浜の新たな魅力の発信地として話題を呼んでいる。ここにはかつて旧横浜市庁舎があり、60年以上にわたって市民に愛され、生活に欠かせない場所でもあった。建物は建築界の巨匠・村野藤吾の設計によるものである。その歴史的建造物を継承し、宿泊施設として蘇ったのが「OMO7横浜 by 星野リゾート」(以下「OMO7横浜」)である。

建物が醸す、横浜の歴史と文化を肌で感じる

星野リゾートが展開する都市ホテルブランド「OMO(おも)」は、「テンションあがる『街ナカ』ホテル」をコンセプトに、現在は北海道から沖縄まで全18施設ある。旅の目的に合わせて5つのタイプに分かれており、「OMO7」はカフェ、レストラン、ビュッフェスタイルの朝食などを備えたフルサービスタイプ。横浜では、2026年1月にオープンした「OMO5横浜馬車道」に続く2拠点目だ。

市民に長く利用されてきた旧横浜市庁舎であり、昭和を代表する建築家・村野藤吾が建てた戦後モダニズム建築の名作となれば、建築ファンならずとも一度は泊まってみたいと思うことだろう。

村野藤吾(TOGO MURANO:1891~1984)
1959年 「旧横浜市庁舎」設計・施工
2025年 「旧横浜市庁舎行政棟」は戦後建造物で初めて「横浜市認定歴史的建造物」に認定された。
広島世界平和記念聖堂、日生劇場等、古典様式からモダニズム、和風まで様々な建築様式の手法を取り入れた独自の作風で、300を超える個性豊かな建築を設計。

戦後の横浜は街の大部分をGHQに接収されていたが、1950年以降に順次返還され、復興が本格化した1959年に、市制施行以降7代目の横浜市庁舎として完成。横浜開港100周年を記念して建てられたという歴史がある。

横浜には戦前に建てられた装飾的なデザインのレトロな洋館も多いが、それらに比べると戦後の建築は実用性や機能性を優先したデザインで一見シンプルで地味のようにも見える。しかしこの時代の建物は建築家の個性が強く反映されており、復興の気運高まる当時の横浜の雰囲気を感じさせる文化的価値のある建物として専門家に高く評価されている。

エントランスを抜け、すぐ目を惹かれるのは「OMOベース」と呼ばれるロビーの真ん中で大きな存在感を放つ、吹き抜けの大階段だ。かつて、旧市庁舎のメインスペースともいえる「市民広間」に設置されていた階段を移設・再現し、新たにホテルのシンボルとして甦った。多くの人に使われていた階段は老朽化により復元された部分も多いが、1階の床から8段目までは当時の階段をそのままを利用。また、“手すりの名手”ともいわれた村野の美学が詰まった手すりはそのまま使用されている。優美で繊細な曲線を描く美しい手すりは村野の真骨頂。ぜひ注目して欲しい。

ホテルは旧行政棟だった建物。以前と同じ位置で、暗褐色のレンガタイルを使った外観は当時の面影を残している。壁と窓とバルコニーをランダムに組み合わせた不規則なリズムが、独特のモダンな印象を与える。横浜を愛する市民のために建てられたという、白い姿がシンボリックな愛市の塔も健在だ。かつて塔の中に吊るされていた愛市の鐘は、尾上通り沿いにモニュメントとして移設・設置されている。

旧市庁舎の「市民広間」は市民のために開かれた場所だったそうで、大階段では時々音楽の演奏などが行われていた。その文化を継承し、「OMO7横浜」でも大階段を昇り降りできる2階まではパブリックスペースとして一般に開放。宿泊者でなくとも自由に見学できるようになっている。この日の夜は特別に大階段でジャズの演奏が行われ、大いに盛り上がった。

床、壁、家具など、細部に至るまで宿る美を鑑賞する楽しみ

改めて館内を見回すと、建物や什器のディティールには、旧横浜市庁舎時代を彷彿させるデザインや、かつて使われていたものを再利用するなどして、ホテルとの融合を試みながら継承していることが分かる。

旧市会棟本会議場の照明を再解釈したというUFOのようなユニークな照明が、エントランスロビーをふわりと照らし、独特の雰囲気を醸し出している。柱に設置された大時計は市民広間で使われていたものを再活用している。床の拍子木タイルも多くは旧行政棟のものをそのまま保存して使用し、一部分の新しいタイルもこの雰囲気に合わせて作られている。

1階2階のエレベーターホールには、旧市庁舎で使用されていた、青い陶磁器のタイルをそのまま使用。扉まわりにある白い大理石の三方枠も当時のままである。上部に設置された昇降インジケーターは、当時のものをベースにデザインを起こして新規に作ったそうだが、雰囲気が統一され、レトロな味わいがある。

2階にある「OMOベーカリー」の壁面には、彫刻家・辻晋堂氏によるタイルレリーフ「海・波・船」が、当時のままの位置で保存されている。京都の「泰山製陶所」で大正から昭和にかけて作られた建築用の装飾タイル、泰山タイルが作品に使われている。清水焼をベースに、手作りであることが特徴的なタイルだ。立体感のある作風も面白く、独特の色合いに温かみや親しみやすさを感じる。壁の反対の面には、市民広間で使われた泰山タイルの廃材なども組み合わせた新たな作品「このさき、ゆくさき」が設置されているので、合わせて鑑賞したい。

「OMOベーカリー」は宿泊者でなくても利用可能。パンのおいしさに定評があり、味わいやスパイス使いの異なる5種類のカレーパンは特に人気である。さらにナポリタンをはじめとする洋食や中華など、横浜らしいディナーを楽しめる「OMOダイニング」もある。

ロビーの窓側に設置されているのは、旧市会棟本会議場にあった議員席用の椅子だ。脚と張地を新たにし、生まれ変わった。旧本会議場をイメージしたというスモーキーなダークグリーンカラーがシックで落ち着いた雰囲気を醸し出している。市会議員になったつもりで座ってみるのもいいのでは。

2階のライブラリーラウンジのドアに取り付けられた取っ手も、旧市会棟本会議場の扉に付けられていたものを移設。さり気ない意匠だが、無駄のないシンプルな曲線が美しい。細部まで手を抜かない村野の美学が刻み込まれた取っ手が、大切に継承されている。

名建築に浸り、建物が歩んだ道に思いを馳せながら、ホテルライフを楽しむ

客室は全部で276室。部屋の広さやタイプの違いも個性豊かに揃え、愛犬と泊まれるドッグフレンドリールームも用意している。旧横浜市庁舎内で使用されていた、赤・青・緑の3色をテーマカラーとして、それぞれ客室に落とし込んでいる。赤は旧議長室の絨毯、青は旧市庁舎内の陶磁器タイル、緑は旧市会棟本会議場の絨毯や議員席の色をそれぞれイメージしている。どれも柔らかな落ち着いたトーンで、リラックスして過ごせそうだ。

しかし、もと市庁舎だったこともあり、実際にはホテルに改修することは相当な困難があったという。
「例えば躯体のコンクリート柱は動かすことができません。5m間隔で設置されており、ホテルの部屋に当てはめるにはとても難しいサイズなんです。そこをどう工夫して落とし込むか、デザインには相当苦労したと聞いています」と話すのは総支配人を務める羽毛田実さん。さらに建物を造った70年前は、現在と比べるとどうしても設計図の精度が甘く、実際の建物と数センチのズレがあるなど、必ずしもピッタリ図面通りではなかったそうだ。そこで最新鋭の3D計測器で全部屋を採寸し直し、改めて一部屋ずつ図面を書き起こすなど、気が狂いそうなほど緻密で手の掛かる作業が必要だった。

「改修工事は、最初はもう本当に何もかも不可能なことだらけだったようです。でも、知れば知るほどこの建物への敬意と価値の深さを感じました。横浜市庁舎としては7代目の建物であり、それまでの6棟は災害や戦争などで跡形もなく消えてしまったものもあります。しかし、この建物は約70年間、災害や戦争もなく、民主主義の平和な世の中で生き残った。その歴史を物語る存在として、保存する意味は大きいと思っています」

1階の「OMOベース」の一角には、「ハマイズムコレクション」と名付けたミュージアムスペースを設けている。横浜の歴史や文化をイラストや写真を交えて親しみやすく展示し、建築家・村野藤吾についても紹介されている。

「建物は完成しましたが、次は私たちのオペレーションでホテルとしてどう快適に機能しながら、どうやって歴史的建造物の魅力を伝えるかが課題です。当時のままのものを利用している場所もあるため、例えばエレベーターが狭かったり、廊下が長かったり、ホテルとしては少し不便かもしれない点も、それがこの建物の魅力として楽しめるようにしていきたい。そこは目下試行錯誤中です」と羽毛田さん。

OMOブランドでは「Go-KINJO」というサービスがあり、「OMOレンジャー」と呼ばれる街をこよなく愛するスタッフによる街の魅力プレゼンテーションや街歩きガイドツアーなどが行われている。建築好きならぜひ「横浜レガシーウォーク」へ。横浜は、歩けばついキョロキョロせずにはいられないほど、名建築に溢れているのだ。OMOレンジャーが見どころのポイントを愉快に伝えながら、丁寧な解説をしてくれるので、建築にあまり詳しくない人でも建物巡りを楽しめる。同時翻訳機が使用できるので、海外ゲストも一緒に参加が可能だ。最後は「OMO7横浜」内のディティールを深掘りして解説し、村野建築の魅力を改めて感じることができる。

JR関内駅からすぐであり、中華街や野毛、横浜赤レンガ倉庫などにも便利なアクセスや、実は横浜スタジアムが屋上から見渡せるユニークな眺めなど、他にもまだ書ききれない魅力が多々ある「OMO7横浜」。名建築に泊まることで、その建物が持つ歴史や文化をより深く体感できるのはもちろん、建物の維持や保存に貢献していることにもなる。なんとなく日帰りで通り過ぎてしまうことも多い横浜だが、ゆっくり滞在することで知らなかった新たな風景に出会えるかもしれない。

OMO7横浜 by 星野リゾート
TEL: 050-3134-8095 (OMO予約センター)
住所:神奈川県横浜市中区港町1丁目1番1
Webサイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo7yokohama/

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Kaori Ezawa

ライター、エディター、プランナー。食や旅、クラフト等を中心に雑誌、WEB、広告等で執筆。企業や自治体等と、観光促進コンサル、地域の文化を深掘りするツアー開発なども行う。著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』(マイナビ)等。

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