
東京でのナイトライフとして近年ポピュラーな選択肢となってきているリスニングバー。仲間と気軽に訪れられて、リラックスしながら上質な音楽を楽しめる空間は、ミレニアル世代を中心にますます支持を集めている。本連載【OFF THE RECORD(オフ ザ レコード)】では、空間、サウンド、人々、物語にスポットライトを当て、さまざまな場所を紹介していく。
第11回は、恵比寿の路地裏に佇むBlack Music Bar QBへ。90年代・2000年代のヒップホップとR&Bの音が満ちるこの店には、常連、DJ、初めての客が自然と集まってくる。

バーのロゴはヒップホップデュオGang Starrの象徴的なエンブレムをモチーフにしている。
恵比寿駅の西口エリア、居酒屋や小さなバーが密集した路地の一角にBlack Music Bar QBはある。控えめに掲げられたロゴに導かれ細い階段のぼると、街角の溜まり場のような空間が広がっている。
オーナー・中野真男(なかの まさお)氏は、DJ QBとしても活躍する人物。店名にもなっている「QB」は、かつて実家で飼っていた愛犬「きゅうべえ」にちなんでいるのだという。

オーナー 中野真男氏 (DJ QB)
個人の空間に宿る、粗削りな魅力
店内には空間を横断するように延びた長いウッドカウンターが設られている。レンガ柄のクロスで覆われた壁が、ストリート感を醸し出している。
「ブルックリンの裏路地に潜む隠れ家みたいな感じにしたかった」と語る中野氏。
『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画やフィギュア、ポスターなどが散りばめられ、店に生活感と個性を与えている。「ジョジョは不屈の精神が響くんです。ジョジョファンはいつでも歓迎です」と彼は言う。



黄金時代の90年代、クロスオーバーの2000年代
QBのコアとなっているのは「ブラックミュージック」。ヒップホップ、ソウル、R&Bなどのアフリカン・アメリカンのカルチャーに根ざした音楽全般を指す言葉だ。特に焦点を当てるのは、90年代と2000年代のヒップホップとR&B。前者は地域ごとの個性と影響力あるアーティストたちによってジャンルが形成された黄金時代、後者はヒップホップとR&Bがメインストリームへと躍り出て、チャートやラジオ、ポップカルチャーを席巻した時代だ。

壁に並ぶ1,200〜1,300枚のレコードの多くがその年代の音楽だという。「最初は自分が聴きたいものを流すことが多いけど、夜が進むにつれてその場の客に合わせて選曲を変えていきます」と中野氏。基本的には洋楽中心だが、週を通じて4人のレギュラーDJが店の空気を形づくっている。60代後半のベテランセレクターも在籍しており、ソウル、ファンク、ディスコを専門としているそう。

中野氏が個人的に愛聴するのは、アリーヤの『I Care 4 U』、NasとSnoop Doggのデビューアルバムなど。
音を届けるのは、DJ文化に根ざしたセットアップ。TechnicsのターンテーブルとPioneerのミキサーを組み合わせ、BOSEのスピーカーとヤマハのサブウーファーを配置している。世界中のDJブースで定番とされてきたこの組み合わせは、レコードとパフォーマンスによって形づくられた空間にふさわしい。


QBは、オーディオマニアのための厳かなリスニングバーではなく、90年代・2000年代の音楽がもともと体験されていた場所の空気感を提供してくれる場所だ。ハウスパーティ、バー、クラブ、寝室。深夜にレコードをシェアしながら新しい音を発見していた、あの夜の感触が蘇ってくる。
オリジナルカクテルとこだわりのスピリッツ
音楽が主役であることは間違いないが、ドリンクも決して添え物ではない。カウンターの背後には幅広いスピリッツとリキュールが並び、リクエストに応じてクラシックカクテルなども提供される。「メニューはないので、お客さんはその日の気分や好きなリキュールで注文することが多いですね」と中野氏。さらにアーティストやレコードからインスピレーションを得たオリジナルカクテルもラインナップされており、季節の食材を使ったものが定期的に加わることで、ドリンクリストにさりげない季節感が生まれる。


店のサインボードにはオリジナルカクテルとおすすめドリンクが掲げられている。人気の一杯は「Illmatic Bloods」。四川山椒を漬け込んだジンにクラマトジュース、トマトジュース、ブラックペッパーを合わせた、スパイシーで旨みのある一杯だ。
カクテルに加え、ラムとウイスキーにも力を入れている。定番から希少なボトルまでを取り揃える。中野氏は、フォーマルなオーセンティックバーで働いた経験を持つミクソロジストでもあり、ラムコンシェルジュの資格も保持している。カジュアルで飾らないスタンスを保ちながらも、実践的な知識に裏打ちされた品質がQBの奥深さを作っている。


中野氏が個人的に好むのは、すっきりとした飲み口のシャマレルラム。一方、店で最も人気のボトルはトリニダード・トバゴ産のクラーケンラム。豊かな甘みと飲みやすさが支持される理由だという。
DJとブレイキン、そして音楽プロモーションへ
中野氏は20代を広告代理店の音楽プロモーション部門で過ごした。しかし音楽との繋がりは幼い頃から始まっていた。「姉がブリトニー・スピアーズやバックストリート・ボーイズを好きで、家でMTVを一緒に見ていたんです。そこからヒップホップに自然とハマっていきました」と中野氏。
自分の店を持つことを夢見始めたのは、三重県での大学時代だった。「ずっとやりたかったんです。大学時代に三重のクラブでDJをしながらアルバイトでドリンクを作っていて、すごく楽しくて、いつか自分の店を持ちたいと思うようになりました」と振り返る。音楽プロモーションの仕事と、恵比寿の別の店でのバーテンダー経験を経て、その夢はBlack Music Bar QBとして結実した。


部屋に流れる時間
客層は、仕事帰りに立ち寄り、2〜3杯飲んで帰る30〜40代の男女が多いという。金曜は特に賑わい、海外からの訪問者も多く訪れるそう。言葉の壁があっても「音楽は共通言語」と中野氏がいうように、アーティスト名や曲名、文化を共有しているもの同士の間には、言葉など不要なのかもしれない。



恵比寿の路地の上に佇むBlack Music Bar QBは、音楽を中心に据えながら、中野氏という人間がこれまで積み重ねてきた体験と関心が交差する場所だ。90年代・2000年代のヒップホップとR&Bが空気をつくり、空間の細部にはその背後にいる人物の個性が滲む。ふらりと訪れた人でもあたたかく迎え入れる、彼の人懐っこさがそのまま表れたような場所だ。
Black Music Bar QB
住所:〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西1-4-8 2階
instagram:@nakano_masao