ナイトクラブという非日常の空間において、フロアの視線を一身に浴びて舞う存在――。それがGOGOダンサーだ。
ライターであり、現役のGOGOダンサーとして活動する筆者、山﨑穂花の視点から、夜の社交場を取材する連載「NIGHT OUT THEORY」がスタートする。第一回は、夜の華でありながら、意外にもその実態が知られていない「GOGOダンサー」について。

一見するとキラキラした存在に見えるが、実は華やかな舞台の裏では知られざるシビアな現実がある。彼女たちはどのように夜の世界で過ごしているのか。GOGOダンサーのリアルに迫る。
GOGOダンサーのルーツと、そのアイデンティティ

「GOGO」という言葉の由来は、1960年代にアメリカ・ロサンゼルスで一世を風靡したナイトクラブ「ウィスキー・ア・ゴーゴ(Whisky a Go Go)」にまで遡る。当時の流行語で「勢いがある」を意味する「Go-Go」の名を冠したこの店で、天井から吊るされたケージの中で踊る女性たちが、そのルーツとされている。
そして、日本では1970年代〜80年代のディスコブームを経て、90年代に「ゴーゴーダンス」の原型とも言える独特の文化が花開く。ジュリアナ東京に代表されるバブル末期のディスコでは、お立ち台に上がって扇子(ジュリ扇)を振って踊る女性たちが現れた。ここでの主役はあくまで一般人であったが、「高い場所で、露出の多い服を着て、フロアを煽るように踊る」という今のGOGOダンサーの視覚的フォーマットはこの時期にできたと言える。

2000年には、クラブシーンを盛り上げるダンサーズチーム「CYBER JAPAN DANCERS」が誕生し、日本のクラブ業界におけるGOGOダンサーという存在を確立してきた。今では、GOGOダンサーといえば、クラブや音楽フェスでフロアを盛り上げる存在として知られているが、混同されがちなバックダンサーやショーダンサーとは明確な違いがある。
大きな違いを一つ挙げるとするならば、GOGOダンサーは振り付けが一切ない。つまり、即興でその場の音楽、客層、フロアの雰囲気に合わせて踊るのだ。あくまで主役はお客様であり、GOGOダンサーはフロア全体のボルテージを上げるための触媒のようなものとして存在している。
「見られる存在」から「支配する存在」へ

私がもともとGOGOダンサーとしての道を選んだきっかけは、ドラァグクイーンのバックダンサーを務めていたことだった。その縁でGOGO文化が根付くゲイシーンのイベントに誘われ、そこからレズビアンイベント、そしてメインストリームのクラブイベントへと活動の場を広げていった。
もしかしたら、多くの人は「なぜあえて肌を露出し、人前で踊るのか」と疑問を抱くかもしれない。確かにこの業界には、ダンサーを「商品」として扱う側面があることは否定できない。特に大規模なクラブでは、年齢や身長、体型のバランスでキャスティングが行われることも珍しくない。こうした実態を、外部からは「記号化」や「性的搾取」と捉える向きもあるはずだ。
しかし、実際に現場に立つなかで感じたのは、GOGOダンサーは単に消費される存在ではなく、その空間を共に作り上げる「表現者」であるということだ。箱(クラブ)が求める理想像に応えることは、その場所が持つ独自の世界観を体現するための、プロとしての役割である。

何より大切なのは、一方的に枠に当てはめられるのではなく、多種多様なダンサーがいる中で「自分の個性を最も発揮できる場所」を自ら選び取る権利がある、ということだ。例えるなら、就活生が自分の強みや価値観に合う企業を吟味し、自らの意思でキャリアを切り拓いていくプロセスに近い。
また、GOGOダンサーとしてステージに立って踊ることは、肉体一つでいかにして空間を支配するか、ということでもある。ステージに上がり照明を浴びた瞬間、「見られる客体」から、フロアを「コントロールする主体」へと変わる。一つの動きで、何百人の視線が動き、フロアが沸く。その瞬間を密にそしてタイムリーに感じられるのが、この職業の醍醐味だ。
遊び慣れた大人の嗜み方

GOGOダンサーを愉しむうえで、避けては通れないのがマナーとチップの文化だ。まず、鉄則としてお触りは厳禁。 撮影に関しても、局部を狙うようなマナー違反は、現場の品格を損なうだけでなく、その場の空気を一瞬で冷めさせる野暮な行為だ。クラブカルチャーに深く根付くチップは、夜の社交における醍醐味の一つ。チップとは、決して単なる金銭の授受ではない。それは「あなたのパフォーマンスを肯定する」という感謝の意思表示であり、ステージとフロアをつなぐコミュニケーションでもある。
「スマートにチップを渡したい」という方に向けて、実践的な渡し方を伝授する。基本的にチップは千円札が多い。これを縦に細長く、三つ折りか四つ折りにしておく。くしゃくしゃのまま渡すと、ダンサーが衣装の間に挟みづらいので、挟みやすい形状にしておくのがベストだ。チップを渡すタイミングは特に決まりはないが、ダンサーと目があった瞬間が渡しやすいだろう。そこで、ダンサーが手を出してくれたら手元へ。そうでない場合は、衣装の縁など、差し込みやすい場所へ。この時、肌には直接触れないのがマナーだ。
もちろん、ダンスを見て何を感じるかは、ゲストそれぞれの感性次第。しかし、もし何か心を動かされる瞬間があったなら、さっとチップを差し出してみてほしい。これが遊び慣れた大人の粋な愉しみ方なのである。
Night Side Glossary
最後に、現場で飛び交う業界用語をいくつか紹介する。これを知っているだけで、あなたの夜の視界はさらに広がるはずだ。

クリアヒール/サイハイブーツ
GOGOダンサーの足を極限まで長く、美しく見せるための大事なヒールだ。衣装に合わせて、クリアヒールかサイハイブーツのいずれかを選ぶことが多い。「クリアヒール」、は透明タイプのヒールで、脚との境界線を消し、膝下を長く見せる効果がある。一方、太ももまで覆う光沢のある「サイハイブーツ」は、力強さを強調する。いずれも16cm以上のハイヒールが主流だが、厚底でヒールの太さがあるものが多く、少しでもパフォーマンスが安定しやすいように作られている。
上手(かみて)/下手(しもて)
ステージ用語で、客席から見て右側を「上手」、左側を「下手」と呼ぶ。一見自由奔放に踊っているように見えるダンサーも、常にこの位置関係を意識し、左右のバランスを保ちながらフロア全体の視線をコントロールしている。
バミリ
ダンサーが自分の立ち位置を確認するための目印のこと。ステージ上では、暗闇やスモーク、激しい照明が交錯するため、ダンサーは足元に貼られたわずかなテープを頼りにフォーメーション(位置)を維持する。
お立ち台
フロアの中に設置された、ダンサー専用のステージ。90年代のディスコブームを象徴する言葉でもあるが、現代のナイトアウトにおいても一般的に使われている。

GOGOダンサーというフィルターを通して覗く夜の景色は、いかがだっただろうか。本記事で紹介した夜のセオリーは、私が現場で体感したほんの一部に過ぎない。だが、GOGOダンサーという存在の裏側、そしてその背景にある歴史やルールを知ることで、これまで目にしていたナイトクラブの景色は少し違って見えるはずだ。