
青山「RED BAR」「AOYAMA TUNNEL」、渋谷「OATH」の系列として誕生した「黒蜥蜴」。三島由紀夫監修、美輪明宏主演の映画『黒蜥蜴』から着想を得た妖艶な空間が広がるミュージックバーだ。踊る系列店に対し、ここは着席して音と酒を愉しむ大人の隠れ家。店長のIsaoさんに、五感を刺激する新たな聖地を紹介してもらった。
映画『黒蜥蜴』をオマージュしたミュージックバー


店名の由来は、三島由紀夫が監修し、美輪明宏が主演を務めた名作映画『黒蜥蜴』にある。40〜50年前に公開されたその作品の、昭和の舞台装置を思わせる耽美な世界観が着想の源だ。オーナーが店づくりの最中に映画と再会し、そこに流れる「妖艶でクリエイティブなイメージ」が新店舗の構想となったという。
この空間は、デザイナーの樋口泰輔とアーティストの白井淳による共同作業によって生み出された。最も目を引くのは、店内を大胆に横断する巨大なソファだ。これは店名の通り、トカゲがとぐろを巻いてる形になっている。入り口近くの広々としたスペースがトカゲの頭をイメージしており、そこから曲線を描いて伸びるラインが、尻尾に見立てたバーカウンターへとつながっていく。



カウンターには約6メートルもの迫力ある一枚板が採用され、木目を生かした加工が施されている。空間は角のないRデザインを大切にしており、空間全体に艶やかな柔らかさを与えている。
さらに、グループ店の歴史を引き継いでいる空間を彩るディテールにも注目したい。天井から吊るされたシャンデリアや店内の雑貨は、系列のRED BARのルーツでもある渋谷の古着屋「NUDE TRUMP」や、かつてのクラブ「TRUMP ROOM」から譲り受けたものだ。
音楽に酔い、振動に身を委ねる

激しく踊る既存のDJバーとは異なり、ここは落ち着いた雰囲気のミュージックバー。立ち飲みが中心のRED BARに対し、着席スタイルを採用し、ゆっくりいい音楽を聞きながら美味しいお酒を飲んで過ごせる。
黒蜥蜴が提供する音楽体験は、単に聞くだけにとどまらない。音響の要となるのは、1970年台に製造されたKlipsch製のスピーカー「ラ・スカラ」。計4台設置されたこのスピーカーは、もともと渋谷にあり、現在はお茶の水に移転した名門レコード店「Lighthouse Records」で長年愛用されていたものを譲り受けたという。音質については、「音が柔らかく温かい。クリアに綺麗に出してくれるので、生音が映える」と教えてくれた。希少価値も高く、店長が知る限り同じスピーカーを使っている人は見たことがないという。

DJブースには、イギリスのUnion Audio製のロータリーミキサーがインストールされている。名機「ALLEN&HEALTH」を手がけたエンジニアたちが立ち上げたメーカーで、「日本で導入しているのはここだけ」だという。
さらに特筆すべきは、ソファに隠された仕掛けだ。店内にある特定のソファに腰掛けると、ダイレクトに重低音が体に響いてくる。実は、ソファの内部に低音に反応して振動する「ボディソニック」というシステムが組み込まれているのだ。
「この振動をより強く感じたいならスピーカー前のソファ席、会話を楽しみつつ音楽に浸りたいなら少し離れた席をおすすめします。席の作りが段々形状になっているので、好きなところを選んで座ってもらえます」

グループ4店舗を回遊できるシステム
「敷居が高いのでは?」と身構えるかもしれないが、特筆すべきルールはない。店長は「いい音楽を聴きながら美味しいお酒を飲んで、ワイワイ喋ってもらいたい」と話す。
店内に流れるのはジャズやソウル、BPM遅めのハウス。客層はさまざまだが、DJがその場の雰囲気に合わせて曲を選んでいるという。音量も会話を邪魔しない塩梅に保ち、ダンスパーティーのような騒がしさにはならないよう、ほどよい距離感のケアも欠かさない。
このゆったりとした空間で、黒蜥蜴特製のドリンクも飲んでほしい。自家製生姜を煮立たせて作るモスコミュールや、燻製塩をあしらったスモーキーレモンサワー。さらに、徳島県産100%果汁を使った柚子のカルガリータなど、細部にまでこだわりぬいた一杯が揃っている。

渋谷の喧騒を離れ、至高の音響と極上のカクテルに身を委ねる。黒蜥蜴が提案するのは、単なるバーを越えた五感の没入体験だ。しかし、この夜の楽しみはここだけで終わらない。特筆すべきは、グループ4店舗(RED BAR、AOYAMA TUNNEL、OATH、黒蜥蜴)を自由にハシゴできるエントランスフリーの回遊システムだ。
一度どこかの店舗でエントランスを済ませれば、その夜は系列店を自由に行き来できる。例えば、一軒目の「OATH」や「RED BAR」でビートに身を任せて踊り明かし、二軒目として「黒蜥蜴」のソファに深く腰掛け、カクテルとともにクールダウンする。そんな、気分や時間帯に合わせて音を巡る遊び方が、ここでは日常となっている。
食事の後の心地よい余韻とともに、あるいはお気に入りの音を探して。このフランクな大人の遊び場を自由に回遊しながら、自分だけの特別な渋谷の夜をデザインしてほしい。

黒蜥蜴(くろとかげ)
東京都渋谷区渋谷2-12-12 三貴ビル 地下1階
Instagram: @kurotokage_tokyo