
渋谷・円山町にオープンしたミュージックバー「Hi-Fi Disco Bar Chaos(ハイファイディスコバー カオス)」。70年代のキューブリック映画を彷彿とさせる鮮やかな空間に広がる「カオス」とは?「ここでハッピーになってもらいたい」と語る店主の松鶴隆弘さんに話を聞いた。
渋谷に佇むカオスなレコードバー


2026年4月、渋谷・円山町に誕生した「Hi-Fi Disco Bar Chaos(以下、Chaos)」。姉妹店の「RECORD BAR analog」「MUSIC BAR BOUNCE」に続く3店舗目となる。レコードのA面、B面をなぞるように、次なる「C面」の構想を練る中で辿り着いたのが、この「Chaos」という名前だった。
その由来は、店主の松鶴さんがかつて過ごした、あるアパートでの原体験にまで遡る。
「昔、山手線のチャイムが聞こえる恵比寿駅前のアパートに住んでいたんです。当時、渋谷にあったクラブ『VISION』の店長をしていたこともあって、音楽やファッション好きの仲間がいつも遊びに来ていました。服やレコードが所狭しと並ぶ部屋に、いろんな人がひしめき合っている。そんな溜まり場のような状態を、みんな『カオス』と呼んでいたんですよね。今回、3店舗目を出すにあたってその頃のことをふと思い出して、『Chaos』という名前にしました」
70年代のキューブリック映画をサンプリングした空間

店内は、ビビッドなオレンジと赤が彩る異空間が広がる。スペースエイジやミッドセンチュリーの感性が息づくこの場所について、松鶴さんは「70年代のスタンリー・キューブリック監督の映画をサンプリングしてつくりました」と語る。
壁面を彩るアートピースのようなレコードの中には、アンディ・ウォーホルが手がけたジャケットや、特定の時代のディスコシーンを象徴する希少な盤も並ぶ。この独創的な空間は、オープンまでの2年間、松鶴さんが自身の理想を形にするために準備を進めてきた集大成だ。
「飾ってあるレコードのジャケットや、個性的な椅子は、どれもヴィンテージ品ばかりです。欲しいと思ってすぐに手に入るものではないので、2年前の構想段階から、古着屋やアンティークショップ、フリマアプリなどを巡って、コツコツ買い集めてきました」


AI時代にあえてアナログを選ぶ理由
「壁の絵にも描かれているDavid Mancuso(デヴィッド・マンキューソ)というDJは、”世界一つながないDJ”と呼ばれていました。自身が主催する『The Loft』という招待制パーティでは、曲をミックスせずに1曲1曲をていねいに鳴らし切るというスタイルでプレイしていた。そのスピリットに惹かれて、70年代後半のニューヨークのディスコのような、多幸感あふれる空間をつくりたいと思ったんです」

Chaosの音楽的なルーツは、70年代ニューヨークの伝説的なクラブ「The Loft」の主宰者・David Mancusoにあるという。
壁面に埋め込まれたかのように設置されているのは、70年代後半の名機 「JBL 4350」。決してシャープに迫るのではなく、滑らかに包み込んでくれるような音を出してくれるスピーカーだ。そこから、当時のディスコやハウスから、最新のニューディスコまで、年代を問わず流れている。

壁に埋められたスピーカーは、店の奥と手前に、DJブースを挟むよう設置されている
そして、レコードプレーヤーにはTechnicsの「SL-1200G」と、ヴィンテージの「Garrard 301」を採用。現役でも使えるようメンテナンスを重ねているというミキサーはBozakの「CMA-10-2DL」。世界初の商業用ミキサーとして展開され、松鶴さんが知る限り他に置いている店はないという。
デジタル全盛の時代に、あえてアナログで鳴らす意味を松鶴さんはこう語る。
「最近はAIが勝手にミックスしてくれる時代ですが、アナログレコードを通すだけで、音に深みと価値が生まれます。時にはレコードに傷があって針飛びすることもありますが、その偶然も含めて味わい深い。」
ルールは「ハッピーであること」

レコードバーと聞くと、静かに音と向き合う厳格な空間を想像する人も多いかもしれない。しかし、Chaosが目指すのは、それとは対照的な「ゆるくて自由な」空間だ。
「ハウスとディスコという音楽には、人をハッピーにする力があります。今の世の中はどこか暗いニュースも多いですが、ここに来て音楽を浴び、最高にハッピーな気分になって『明日から頑張ろう』と思えるような、そんな場所にしたいです」


トイレの入り口の壁紙もウォーホールの『Flowers』。個室は清潔感と落ち着きのある空間。
多くのミュージックバーで禁止されているフラッシュ撮影も、Chaosでは自由。周囲の迷惑にならなければ会話のボリュームも制限なく、音楽に乗って軽く立ち上がったり、時には踊り出すのもOKなのだそう。
70年代ディスコを彩るカクテル


1枚目:70sニューヨークのディスコシーンでは、縦に長いグラスが流行していた。(China Blue ¥1,600)
2枚目:レコード盤をイメージしてつくられたメニュー。中には本物のレコードが入っている。
Chaosのこだわりは、空間や音だけでなく、ドリンクまで及んでいる。70年代ディスコシーンを彷彿とさせるコリンズグラスやフルーツ系のカクテルなど、当時の流行を再現している。
提供しているのは、かつてニューヨークの伝説的クラブ「Studio 54」で人気を博した日本生まれのメロンリキュール「MIDORI」を使ったカクテル「Meron Ball」、伝説のDJ・Larry Levan(ラリー・レヴァン)の名を冠したカクテル「Larry’s Horn」など。クラブカルチャーの歴史を知る音楽ファンなら思わずニヤリとしてしまう遊び心が随所に散りばめられている点にも注目したい。
レジェンドの魂がそこにある

松鶴さんおすすめの富家哲『Tears』
最後に、松鶴さんに「おすすめの一枚は?」と尋ねると、迷いなく一枚のレコードを手に取ってくれた。それは、1989年にニューヨークで誕生した日本人ハウスアーティストの金字塔、富家哲のデビュー曲『Tears』だ。
「富家さんは昔からお世話になっている最も影響を受けた方。この曲は、今も世界中で愛され続けているレジェンドの代表曲です。」
Chaosの扉を開けると、そこには驚くほど多様な人たちが入り混じっている。SNSを見て訪れる20代の若者から、かつてのディスコシーンを知る50代のベテランまで。70年代、80年代の音楽文化をただ懐かしむだけではなく、現代のフィルターを通して再構築する。それがChaosの真骨頂だ。
Hi-Fi Disco Bar Chaos(ハイファイ ディスコ バー カオス)
東京都渋谷区円山町9-3 NEXUS MARUYAMA 2階
Instagram @hifi_disco_bar_chaos