渋谷のレコードカルチャーから生まれたバー 「RECORD BAR analog」

かつて渋谷は、200店以上のレコードショップが軒を連ね、世界一レコードショップが多い町としてギネス世界記録に認定されるほどのレコード街だった。現在はデジタルDJが主流だが、アナログDJが主流だった2000年台初頭までは世界中からコレクターたちが訪れた「レコードの聖地」だった。

渋谷百軒店商店街にある「RECORD BAR analog」は、そんな渋谷のレコード文化を味わえるこの土地ならではのレコードバーだ。

レトロフューチャーなスナックのような空間

2018年にオープンして以来、音楽好きの大人たちから支持を集め、今や海外の音楽好きの間でも広く知られている。客層は日本人と外国人が半々、週末にはウェイティングが出るほどの人気ぶりだ。

店内のインテリアはネイビーとコッパーで統一されていて、落ち着いた間接照明のあかりがコージーな空間を作り出している。広すぎない店内、大きすぎない音、眩しすぎない光。全てが大人に「ちょうどいい」。

スナックのような親しみやすさを感じさせながらも、ETROやGUCCIといったファッション性の高い壁紙、Tom Dixonのペンダントライトなど、随所にセンスが光る。

「昭和のスナックというか、ちょっとレトロフューチャーな感じを意識しています。スピーカーも60〜70年代ぐらいのアメリカのスピーカーです。」

インテリアのコンセプトについて尋ねると、オーナーの松鶴氏はそう答えた。

松鶴氏は、2022年に惜しまれながら閉店した渋谷最大級のクラブSOUND MUSEUM VISIONの店長兼ディレクターを務めていたこともある人物だ。出店に際しこの百軒店を選んだのも渋谷をよく知る彼だからこその選択だった。

「知り合いも多いですし、人を呼びやすいというのもありました。あと、この百軒店のエリアがめちゃくちゃディープで面白いじゃないですか。こんな雰囲気ある場所、なかなかないですよね。」

百軒店には独特の「いかがわしい」雰囲気がある。
戦前、同じく渋谷は道玄坂上から松濤の方まで広がる円山町は花街で、そこに隣接する商店街として栄え始めた歴史を持つからだろうか。今でもこの界隈は渋谷のラブホ街として有名だし、大人向けの看板もたくさんある。ここ数年、徐々におしゃれな居酒屋や飲食店がオープンし、今では以前と比べ物にならないくらい開けた場所になったものの、一歩足を踏み入れればその時代の空気を確かに感じることができる。

レコードショップを体験できるバー

analogの店内にはレコードラックがあり自由に手に取ることができる。聞きたいレコードが見つかったら、席に置いてある缶バッジと一緒にカウンターに持って行くとリクエストができるシステムだ。ヒップホップ、R&Bや、シティポップから懐かしの歌謡曲も豊富で、思い入れのある曲を見つけては、その都度会話が盛り上がる。

別のグループが自分の好きな曲をリクエストすることもあり、そんな時にはついキョロキョロしてしまう。自分がリクエストする時には、前後の流れを気にしたり、他のお客さんが盛り上がるかどうかドキドキしながら選曲するのも楽しい。そして何より、レコードショップに訪れた時のようにレコードを「掘る」ことができるのが、他にはない魅力だ。
レコードショップで思わぬお宝を見つけた時の高揚感を味わってほしくて、店内のレコードラックを自由に漁れるようにしたのだという。

缶バッジは一人につき一つなので、基本的には一人一曲のリクエストが可能だ。オープン直後は無制限だったが、全てのお客さんに楽しんでもらえるよう制限を設けたという。

「一曲って言われると、みなさん真剣に考えてくださるんですよね。それで選んだ曲って、やっぱり人の心を動かす素敵な曲が多いんです。お客さん同士が共感し合う様子は、店に立ってる自分から見てもおもしろいと思うし、嬉しいですよね。」

レコードは松鶴氏が選んだものや、音楽好きのスタッフたちの意見を取り入れたもの、リクエストが多かったものなどを取り入れているのだそう。Instagramのハイライトでアーティスト一覧を公開しているので、席に座ってからでも訪れる前でもゆっくりチェックできる。

https://www.instagram.com/recordbar_analog/

肩肘張らずに好きなものを飲める

ドリンクメニューは定番のものから、ウイスキー&ソーダに生クリームを合わせた「Princess Highball」や、ホワイトチョコレートリキュールに自家製のイチゴのコンポートをあしらった「Strawberry Milk」など、個性的なカクテルも幅広く揃える。

「有名なカクテルバーに行くと、せっかくだからオリジナルのカクテルを頼まないと、という気になるかもしれませんが、ここだとのびのびと好きなもの飲んでいただけるようで、海外の方からは、山崎のロングエイジなどジャパニーズウイスキーの要望も多いですね。」と松鶴氏はいう。

メニューはテーブルのQRコードからスマートフォンで注文するスタイルで、全て簡単な英語表記となっておりベースの種類ごとにタブが分かれているのでわかりやすい。

メニュー画像

analogには海外からのお客様も多いため常時1名は英語対応が可能なスタッフを配置しているそうで、初めてでも安心して訪れることができるのも人気の理由ではないかと思う。システムも非常に明快なので、怪しげな町にありながらも安心して夜遊びができる。

私がはじめてanalogを訪れた夜、隣の席どうしの外国人のグループが意気投合している姿も見かけた。知らない人に気軽に話しかけられる日本人は多くないと思うが、自分がリクエストした曲で他の人が盛り上がっているのを見るだけで、不思議な満足感がある。スナックで誰かがカラオケに入れた曲に共感するような感覚と、レコードショップの喜びを味わえる新しくも懐かしいバー。夜遊びの選択肢として、ぜひ一度体験してほしい。

RECORD BAR analog
時間:1組90分制
チャージ料:1人900円 スナック付き
オーダー:QRコードから注文
リクエスト:テーブルの缶バッジ(1人1つ)と引き換え
営業時間:(月~木) 20:00〜3:00、(金~日) 19:00〜3:00
Webサイト:https://analog-recordbar.com/
Instagram:@recordbar_analog

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。なんでもかんでもチンパンジーに例えて考える癖がある。

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