
歌舞伎町のホストが日本舞踊を披露ーー。この情報を手に入れ、2026年6月、『好色一代男』の第3回目となる舞ざらえを観に行った。本公演を開催するのは、ホストクラブを運営する「Smappa!Group」。
Smappa!Groupは、歌舞伎町で日本文化を耕して育てようと、飲食展の運営だけでなく、日本文化に根差した活動を行っている。以前、ZEROMILEで紹介した春画展、読書会、ホスト歌会の開催など、さまざまな活動をする中、歌舞伎町で所有する能舞台での日本舞踊が開催された。
「ホスト×日本文化」という未だかつてない切り口を大切にする理由とは何か。Smappa!Groupの会長・手塚マキさん、ホストであり本公演に出演した唄さん、陽糸さんに話を伺った。
ホストが日本文化を学ぶ理由

好色一代男メンバー・陽糸さん
ーSmappa!Groupはホストの運営だけでなく、日本文化に精通した活動をされていますよね。
手塚:
統一されたマニュアルに沿うのではなく、お客様それぞれのニーズに寄り添い、一緒にサービスを作っていく「プロフェッショナルサービス」を軸に置き、活動しています。このプロフェッショナルサービス従事者に必要なものとして、日本文化や芸術など、教養を身につけることから始めました。
ーなぜ、日本文化なのでしょうか?
手塚:
「地元意識(カルチュラル・コンピテンシー)」という考え方に基づいています。グローバル化によって、あらゆる価値が均一化する現代において、その地域に行かなければ体験できない価値が重要です。私たちは、歌舞伎町という場所で活動するにあたり、その根底にある日本文化を理解し、体現することを意識しています。
これは、現場で働くスタッフのアイデンティティ形成にも言えることです。例えば、大手企業の社員であれば、所属組織を誇りに思いアイデンティティを確立できるかもしれません。しかし、水商売やサービス業に従事する人が、同じような帰属意識を持つことは簡単なことではないと思います。
そのためSmappa!Groupでは、「日本人としてのバックグラウンドがあること」「日本文化に精通していること」という心の安定を作り、自身のアイデンティティを確立するための指標をつくりたいと考えました。
ホストという産業を文化へ昇華させる挑戦

公演中には、ホストならではのパフォーマンスも
ー日本文化を体現する一環として、今回、日本舞踊の公演がありました。開催のきっかけはありますか?
手塚:
歌舞伎町に能舞台を所有しているのですが、そこで何かを発信したいと思っていた時に、上方舞山村流師範の山村若静紀先生とご縁をいただいたのがきっかけです。実は、以前は私自身、1年半ほど能のお稽古に通っていました。
当初はスタッフにも能を経験してもらおうと考えていたのですが、能はとてもハードルが高く、会社全体に浸透させるのは難しかった。そんな時に出会ったのが、山村若静紀先生の上方舞でした。上方舞は、我々ホストとも馴染みのあるお座敷の文化なので、マッチしています。
私が常に考えているのは、ホスト産業をいかに文化にまで昇華させるか。例えば、神楽坂や向島の芸者さんと我々は何が違うのかと考えた時、その決定的な差は芸事があるかないかだと思うんです。お酒を飲む場に、洗練された芸事が加わることで、それは一気に文化へと変わります。日本舞踊を通じて芸を磨くことで、ホストという存在が新たな文化の担い手になっていけるのではないか。そんな想いでこの取り組みを始めました。
ーホストの方に日本舞踊に興味を持ってもらうのはハードルが高いように感じます。最初はどのようにアプローチしたのでしょうか?
手塚:
興味を持ってもらうというのは、今でも難しさを感じている部分です。始めた当初は半強制的に参加してもらっていました(笑)。日本舞踊は、一朝一夕で楽しさがわかるものではありません。続けていくうちに少しずつ体に馴染んでいき、ある時ふと続けてきた意味を実感できるようになります。
時には、やはり人参をぶら下げることも必要です。スタッフに、日本人として文化に触れることは、長期的に見て人生のプラスになることを、私自身が何度も繰り返し伝え続けていかなければならないと思っています。

ー今回、出演されたお二人はどのようにして日本舞踊を始めましたか?
唄:
内勤の方に「今、日本舞踊のお稽古やってるから、よかったらやってみない?」と誘われたのがきっかけです。僕はもともとダンスをやっていたので、体で表現するという意味では共通していると感じ、参加してみました。最初は気軽な気持ちで始めたのですが、やってみたら「日本人なのに日本の良さが何も伝えられてないな」と思うようになって。今は、日本舞踊を通じて日本文化を体現できる人になりたいという想いがあります。
陽糸:
Smappa!Groupへの入社を決めた理由は、ホストをしながらワインソムリエの資格取得を目指せるという点に惹かれたからでした。入社後、内勤の方から福利厚生として日本舞踊や短歌の活動もあると聞き、興味を持ちました。その時、すでに先輩の唄さんが一期生として日本舞踊のお稽古を始められていて。僕も「試しに一度行ってみようかな」と参加してみたのですが、気づけばトントン拍子で今日まで続いています。もともと日本料理の世界にいたことも大きいかもしれません。当時から「日本人として日本文化が好きだ」という想いで和食の道を選んでいたので、日本舞踊を始めることに対しても、全く抵抗はありませんでした。
日本舞踊を通じてホスト業界のイメージを変える

Smappa!Group会長・手塚マキさん
ー実際に日本舞踊を始めてみて感じたことはありますか?
唄:
現代的なリズムよりもしなやかなので、今まで早すぎて自分の中で意識しきれなかった指先の動きなど、今一度自分の中で見つめ直すことできました。
陽糸:
お稽古で先生に姿勢や「すり足」について教わりました。現代はどうしてもデスクワークやスマホの影響で、巻き肩や前傾姿勢になりがちですが、お稽古を通じて本来の骨格の位置やすり足を学んでいくと、それが楽なわけではないんですが、日本人として本来あるべき姿勢なんだと肌で感じます。先日のSmappa!Groupの読書会でセバスチャン高木氏の『日本文化POP & ROCK』という本を読み、そこで語られている身体論と先生から教わっているすり足や姿勢の話が自分の中で合致して。点と点がつながったのも嬉しかったです。
ー日本舞踊がホスト業に活かされた経験はありますか?
唄:
所作や佇まいといった品の部分は活かされていると感じます。あとは、初回(来店)で初めて来てくださるお客様に日本舞踊のお話をしていると、普段は着物を着て接客していないので、興味を持ってもらうこともあります。今、「ホスト」という言葉を聞くだけで、風当たりが強い時代です。ですが、「日本舞踊をしているホスト」と聞くと、これまでの印象を覆させられるというか。自分の品性を向上させてくれるものにもなっていると感じます。
陽糸:
ホストとして「仕事を頑張る」と言うと、どうしても他のお客様との会話や接客が中心です。それをそのままお客様に伝えると、複雑な思いをさせてしまうこともあります。でも、日本舞踊というホストのイメージとは少し離れた芸事に打ち込んでいる姿は、どのお客様に対しても自信を持って話せますし、人としてリスペクトをいただけるんです。「夜遅くまで営業したのに、昼からお稽古に行っていて偉いね」と、一人の人間として信頼してもらえる。それは、お客様との関係を築くうえでも、自分の心を楽にしてくれる大きな支えになっています。
手塚:
日本舞踊の効能でいえば、観察力が高まることも大きいです。日本文化は説明を削ぎ落とした「余白」の文化です。先生の教えを1聞いて、自分なりに10解釈して表現しなければならない。そのために、先生の指先ひとつひとつの動きまで細かく観察する必要があります。この「人を深く見る」という経験は、接客における観察力に直結します。
日本人としての礼儀や所作を学ぶ

好色一代男メンバー・唄さん
ー今回、3回目の舞ざらいです。1回目、2回目と比較し、ご自身の中で日本舞踊との向き合い方に変化を感じますか?
唄:
1回目と2回目の大きな違いは、ファンクラブが設立されたことです。応援してくれる方々の存在を肌で感じる中で、「恥ずかしいものは見せられない」「期待に応えたい」という想いが個人的に強く芽生えました。それまでは、どこか「やるからにはお粗末にならないよう、最低限のことをきっちりやろう」という受動的なスタンスだった部分があったかもしれません。でも今回は、「もっと良くするにはどうすればいいか」と、日々新しいことにトライし続けることができました。「まずはやってみて、ダメなら直そう」という試行錯誤を毎日繰り返せたことが、大きなやりがいに繋がったと感じています。
陽糸:
僕は2回目の舞ざらいからの参加でした。当時は数人で舞う群舞で、振りも比較的覚えやすく、難易度もそれほど高くありませんでした。でも今回は初めてのソロで、もし振りが飛んでしまったら、そこで全てが終わってしまう。そのプレッシャーは想像以上に大きかったです。ただ、ファンクラブが設立されたことで、この活動に対する見方は大きく変わりました。自分たちの活動には継続性があるんだと確信できた。それが「好色一代男」というプロジェクトをもっと盛り上げていこうという、強いモチベーションに繋がりました。
手塚:
私自身、改めて感じるのは、日本舞踊を通じて学ぶ礼儀や所作、挨拶といった基礎を、一からやり直すことです。日本の伝統文化には、師弟制度という上下関係があります。それは単なる契約ではなく、情のシステムなんですね。お師匠さんや兄弟子との関係性、その中で自分を律すること。こうした伝統的な秩序を重んじることは、茶道や他の芸事とも繋がっています。日本舞踊という経験は、実は私たちの日常生活や、人間関係の根幹に密接に関わっているのだと、最近改めて実感しています。

ー今後のSmappa!Groupのグローバルな発信や展望があれば教えてください。
手塚:
好色一代男の定期公演を、東急歌舞伎町タワーで開催する予定です。500人規模という大きな会場なので、海外の方にも広く知ってもらいたいと思っています。また、日本舞踊をツアーとして組み込む構想も進めています。例えば、メンバーが日本舞踊を披露し、その後食事を楽しみ、最後はホストクラブへ……という流れです。
現在も、ガイドが街の歴史を解説しながらゴールデン街や飲食店を巡る「歌舞伎町ホッピングツアー」を実施していますが、そこへ英語のできるメンバーがガイドとして加わり、自ら舞も披露できたら最高ですよね。ホストという存在が、街の文化を案内するコンシェルジュのような役割を担っていく。そんな新しい観光の形を提案していきたいです。
もう一点、「好色一代男」のメンバーが和服姿で店員として立つ店舗の案を検討しています。海外からの観光客の方々が、気軽に着物姿のホストと接することができる場を作りたいと考えています。もっと深く街を楽しみたい方には、ホストクラブやお勧めの飲食店へとご案内する——そんな役割を担ってもらえないかというのが今のアイデアです。彼らが歌舞伎町のアンバサダー的な存在になっていく、という未来も視野に入れています。
【好色一代男今後の予定】
■定期舞会
2026年8月12日(水)&8月19日(水)
時間:17:00開演 ※60分ほど
会場:東急歌舞伎町タワー 2階 新宿カブキhall内「FIRST STAGE」
(東京都新宿区歌舞伎町1-29-1)
入場無料&予約不要 ※着席の場合1オーダー/先着順・自由席
https://note.com/smappa_jpnbunka/n/nd6b56bc9fa2

■2026年8月14日(土)
会場:シネシティ広場(東京都新宿区歌舞伎町1丁目20)
参加無料
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000147394.html

写真提供:Smappa!Group
ホスト×日本舞踊「好色一代男」@Smappa!Group
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