小原晩【たましいリラックス】vol.11 午前の散歩

午前中に目が覚めるとなんだか所在なくて、家を出る。
髪はぼさぼさ、半分部屋着、裸足にサンダル。とぼとぼ、曇り空のしたを歩く。

なんとなしコンビニに入ってみるけれど、ここにも居場所は見当たらない。私はいったいどこへいきたいのか。なはんてことを問いたくなるほど、ぼんやり不安、ぼんやりしあわせ。荒井由実の「やさしさに包まれたなら」が頭のなかに流れてくる、ということはどちらかというとしあわせということでよろしいのか。そんなふうに自分のことばかり考えていると、自分の気持ちがわからなくなるのは当たり前であって、心の中心に置いているもののことほどわからないのは世の常であるよなア。てきとうに生きることこそ、実にむつかしい。何も買わずにコンビニを出る。小雨が降ってくる。気にならないほどの小雨である。
ゆるい坂の上を歩く。大きな車がふたつ、みっつ、通り過ぎる。

誰かに褒めてもらっても、そういう嘘だろうな、とつい思ってしまう。卑屈が癖づいているのだな。憧れの人に目の前で褒めてもらっても「そんなこと本当は思ってないだろうな」と心で真っ直ぐ迷いなく感じたときなどはもう清々しかったもの。春の風がひゅうと通り抜けたみたいだったよ。そういう自分につかれたり、呆れたりするのもこりごりなので「心のクッションとしての卑屈は、なかなかに有用なのである!」と、こうして、ひらきなおってしまえば、意外とこれが、明るさを呼ぶ。
地下にもぐり、地下のマクドナルドへ入る。

「マックシェイクのバニラ味Sサイズをひとつください」

カウンターに腰かけて、むうーっと吸えば、ほてった体の汗もひく。窓ガラス越しに人が流れる様子を見ていると心がおちつく。人はそれぞれ。

立ち上がり、店を出る、地下を出る。すると、じゃーじゃー降りの雨が降っている。走って帰ろうとしたらサンダルがすべって転びかける、が、なんとか持ち直したので濡れる覚悟でゆっくり歩く。どうせお風呂で一日に一回は濡れるのだから、そう焦ることもなし。濡れてしまえば気持ちよし。雨もまた一興である。じゃーじゃー濡れながらどっぷり歩いているさまを、ちいさな女の子にじっと見られる。ほほえみかけるが、無視される。お嬢ちゃん、こんな大人になってみませんか。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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