北海道で堪能する雪上スプリングセッション

photograph NEIL HARTMANN
text TAKASHI OSANAI

都心では20度超えの日がやってきて、桜の開花予想のニュースも流れている。
それでも北海道には十分な積雪があり、パウダーやフィルムクラスト、雄大な山々をのぞみながらの滑走など、“春ならでは”の時間が待っている。

雪化粧をした美峰を堪能しながら滑走。春の楽しみの一つだ。

春も楽しい「北海道パウダーベルト」

 3月に入ると東京では20度を超える日が度々あり、日中はTシャツ姿で十分な初夏とさえ思える日もあった。そんな暖かな陽気に「今年も冬が終わってしまったか」と嘆く雪山ラバーの声が聞こえてきそうだが、何もスノースポーツの醍醐味はパウダーだけに限らない。
 確かに「JAPOW(ジャパウ)」と呼ばれるフワフワの深雪は世界に誇る日本の至宝だ。コロナ禍となる前、海外から多くのスノーボーダーやスキーヤーがウインターリゾートに長期滞在をしていたのは、このワールドクラスのパウダーを求めたからなのである。もちろん欧州やアメリカにも雪山はあり、パウダーを楽しめるリゾートはある。それでも日本の雪山には安定感があり格別とされる。たとえ暖冬といわれるシーズンでも、毎冬北国には十分な降雪があるのだ。

山肌に見られる多彩な滑走ライン。さあ、どこを滑ろうか?
雄大な景色を楽しみつつハイクアップできるのも春ならでは。
ただ季節を問わず山岳エリアにはリスクが潜む。リスクを回避するための準備は忘れずに。
姿をあらわした沢地形。バンク型の地形を狙って当て込みにいく。

 たとえば12月から2月末までのミッドシーズンに、1週間ほど滞在すればストームが一度はやってくる。数日の間ドカッと雪を降らし、ストームが去った後には晴天下のパウダーデイが訪れる。これこそ待望の至福のとき。北海道ニセコ、長野・白馬、新潟・上越、群馬・谷川岳などを国内外の滑り手が目指す理由である。
 そう考えてみると、3月に入って春となり、多くの人が「また来年に!」と考える気持ちはわからなくもない。ただ、確かにグッドパウダーをヒットさせる確率は低まったもののパウダーを楽しめるチャンスは今もあり、それと同時に、この季節だからこその楽しみが雪上にはある。春は高気圧と低気圧が交互に訪れ天候が不安定になる季節。初夏を思わせる陽気の日があれば、アウターが必要になる日もあり 、それは北国も同じこと。特に標高の高い地域では寒さが戻ったタイミングで降雪になることがある。好例は「北海道パウダーベルト」と呼ばれるエリアだ。

誰も滑っていないノートラックの雪面に滑走痕を残す。
2度目はない一発勝負。それは書道と向き合う心象にも通じる。

春の恵み、それはフィルムクラスト

 「北海道パウダーベルト」は北海道の中央に位置し、世界有数のパウダーが楽しめることからこのような名称がついた。スノーリゾートが点在し、山岳スキーへのアプローチも可能とするエリアだ。もし旭川を拠点としたなら、大雪山国立公園の北側に位置する旭岳にアクセスしやすくなる。旭岳にはロープウェイがあり、終着駅「姿見駅」から先は山の中となって、ハイクアップをしてノートラックと呼ばれる未滑走ラインを探し続けることもできる。そんな旭岳は2000m級の山々が連ねる大雪山系の主峰であり道内で最も標高の高い山。春でも冷え込む可能性は高く、そのような日に訪れれば、ハイシーズよりも遥かに人影が少ない状況で滑り倒すことができる。

旭川の市街地からのぞむ大雪山。アクセスは1時間ほどのドライブとなる。
旭川の市街地から30分ほどのドライブで着けるスキー場のカムイスキーリンクス。
アクセス至便ながらスケールは道北エリア最大級。パウダーにも期待できる。

 同じ大雪山系にあるのが十勝岳連邦だ。主峰は標高2077mの十勝岳で、他にも富良野岳、前十勝岳といった山岳スキーに適した山々がある。内陸に位置するためドライスノーと呼ばれるサラサラに乾いた雪が魅力で、やはり冷え込んだタイミングで狙いたい。オススメの拠点は富良野。今年は5月上旬までの営業を予定(3月10日現在)している富良野スキー場もあり、その日のコンディションに応じて、山を滑る、スキー場を滑る、といった選択が可能となる。

朝一は固く締まっている雪面も時間の経過とともに緩んでいく。
転んでも痛くなく、スピードも出る。春の滑走はファンなのだ。

 そしてパウダー以外にも“春ならではの楽しみ”があるというのは、同地で多くの時間を過ごすプロスノーボーダー、“オレンジマン”の愛称で国内外のスノーボードフリークに知られる山内一志だ。

「滑り手にとっての春ならではの楽しみ、それはフィルムクラスト。ザラメ状となった雪面が凍り、薄い氷の膜を張ったような状態のことで、スピードを出しやすく、独特のシャリシャリ感を味わいながら高速ライディングを楽しめるのです。しかしフィルムクラストは、春になればいつでも出会えるわけではありません。むしろ遭遇確率は冬にパウダーを当てるよりも低いでしょう。夜のうちに冷え込み固く締まった雪面が、太陽の日差しで緩んでいく過程で生まれるのですが、緩みすぎると雪は水分を多く含んでしまい、失速するコンディションに。いわば春の一瞬だけ楽しめる雪。それがフィルムクラストなんです」

スプリングスノーをクルーズする“オレンジマン” ©KAZUSHI YAMAUCHI
吹き溜まったセクションを見つけて当て込む。これも春のワンシーン。

5月上旬頃まで“春ならではの滑走体験”が楽しめる

 パウダーとフィルムクラストが同時に楽しめる。北海道のスプリングシーズンには、そんなチャンスが待っている。加えて、春の山岳エリアでの滑走はハイシーズンに比べローリスクになることや、たとえ雪が降らなくてもポカポカ陽気のなかピクニック気分で滑走できることも魅力だ。そして雪解けによって姿を見せる“地形”も見逃したくはない。ハイシーズン中は雪に埋もれて隠されていた豊かな起伏があらわれ、そこを活用して当てこんだり、ジャンプをしながら1本のランを楽しむことができる。
 春の雪は冬とは違い、山の姿も違う。今冬は例年同様の降雪量があり積雪量も十分。先述したエリアでは5月上旬頃までグッドスノーを満喫できる。そして春のバケーションも日本の北国へ。そう気づき始めた人も、すでに生まれ始めている。

都心に桜が咲いても、まだ北国に雪はある。あとはそのフィールドへ行くだけだ。

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Takashi Osanai

1971年、東京都生まれ。編集者、ライター。大学卒業後に勤めた出版社で2誌の編集長を経験。2003年に独立。以降フリーランスとして取材・執筆、編集活動を続ける。男性ライススタイル雑誌での企画取材や企業タイアップ、自動車会社や生命保険会社のオウンドメディア制作、デジタルマーケティング会社の会員誌制作、沖縄県・座間味に設立された「慶良間諸島国立公園座間味博物展示施設」のグラフィック制作に参加するなど、多様な案件に携わる。現在、雑誌「オーシャンズ」での連載THE SEAWARD TRIPの書籍刊行(6月予定)に向けて編集作業中。

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