海外旅行の目的のひとつは、その国の文化や魅力を理解、体感することにある。日本人が海外に行き、その町の中心であり、人々の心の拠り所である教会を訪れるように、外国人が神社を訪れるのは、日本の文化や日本人の精神性を理解するうえで、”神道”が切っても切れないものだからだろう。近年は、神社を訪れて自然の中に身を置き、和の雰囲気を味わうだけでなく、参拝したり伝統的なお祭りや儀式に参加したいという人が増えている。今回、その儀式のひとつである神前式を通して、そこに込められた日本の文化や日本人の精神性について考えてみたい。
神前式の花嫁衣装といえば、白い「綿帽子」をかぶり、全身真っ白の「白無垢」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか?
白無垢
そもそも着物は染めや織り、刺繍など、日本の職人技が凝縮された日本の伝統文化そのもの。一生に一度の晴れの日である婚礼の衣装となれば、そこには最高峰の技のみならず、伝統的なルールやしきたりもしっかり込められているに違いない。綿帽子とは、白無垢とは何を意味するのか。花嫁和装専用レンタルサロン「CUCURU」に話を聞いた。
「和装の花嫁衣裳は白無垢だけでなく、色打掛、引き振袖の3つの種類があるんです」とスタイリストの似田貝智美氏は言う。
白無垢は全身を純白で統一する装いで、和装の中ではもっとも格調が高く、室町時代頃から武家社会で用いられるようになった古式ゆかしいもの。その白さは、花嫁の純潔を表すとともに、「嫁ぎ先の色に染まる」という意味も込められていた。
色打掛は、小袖や振袖の上から重ねて着られていたもので、江戸時代には大奥(*注1)の女性の正装にもなっていた。豪華絢爛な刺繍が 施されたものから、友禅染めで仕上げたエレガントなものまで、柄や色合わせが多彩で華やか。日本古来の美意識を反映した格調高い装いで、コーディネートの幅が広く、披露宴のお色直しで人気が高い。
色打掛
引振袖は、おはしょりをせず、裾を引きずって歩くことから「引振袖」と名前がつけられ、江戸時代から続く婚礼衣装の代表格。なかでも黒の引振袖は、「あなた以外の誰の色にも染まらない」という決意が込められているとも言われ、クラシカルで正統派の装いとして今も昔も人気だ。
引振袖
白無垢の髪型は、もともとは「文金高島田」と呼ばれる鬘が基本だが、最近は地毛で結った日本髪や洋髪に合わせる人も多い。頭にかぶっている白い袋状の布は髪飾りで「綿帽子」と呼ばれるもの。奥ゆかしく初々しい雰囲気があり、「花嫁を魔や厄災から守る」という意味と「挙式が終わるまで新郎には顔を見せない」という意味が込められ、ウェディングドレスのヴェールと同じ。白無垢専用で、挙式のときのみ合わせるのがルール。
白無垢のときの髪飾りにはもうひとつ、挙式と披露宴の両方に合わせられる「角隠し」がある。凛とした強さがあり、「怒りを隠して従順な妻になる」という解釈が広く知られていて、白無垢だけでなく、色打掛や引き振袖にも合わせることができる。
胸元にはさんでいるのは、もともとは江戸時代の女性が化粧筆や紅を入れ ていた化粧ポーチ「筥迫(はこせこ)」や武家の女性が護身用(*注2)として持ってい た短刀の「懐剣」で、「末広がりでおめでたい」という意味を持つ扇子「末広」なども花嫁衣裳ならではの装飾小物だ。
左から:末広、懐剣、筥迫(上)、半襟(下)、草履
「CUCURUでは、一生に一度の特別な日だからこそ、お仕着せではなく、花嫁の個性に合わせて自分らしく着こなしてほしい。そんな思いから、日本の伝統的なルールやしきたりも踏まえつつ、着物や小物をオリジナルで制作しています。日本の花嫁さまはもちろん、世界中の花嫁さまに、日本の花嫁衣裳を楽しんでいただきたいですね」(似田貝氏)
*注1 江戸城に存在した将軍家の御台所(正妻)・子女・側室(正妻以外の妻)・奥女中のみが住まう居所で男子では将軍だけが足を踏み入れられる場所)
*注2 女性であっても自分の身は自分で護るという意味と、いざというときに誇りをもって自害できるようにするための2つの意味があった。
写真提供:CUCURU
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