いのちの輝きを見つける宿「森のスープ屋の夜」鳥取

心が温かくなるものを届けたい──その一心を携え、人々に愛されるスープをご馳走に据えた1日1組限定の宿がある。場所は鳥取県の西部、伯耆富士とも呼ばれる大山(だいせん)の山懐。まるで絵本の世界を映し出したように、静かな森のなかに小さな小屋が点在する。

ダイニング棟となる「森のスープ屋」、宿泊するのは「森の休憩室」、朝の瞑想に使われる「草屋根の教会」や心と体を洗う「クロモジ風呂」、薬草を保管する「森のお薬箱」、樹々が結界となった「瞑想室」など。簡素で清潔な建物はテーマパークのような造作とは一線を画し、どの小屋にも魂が宿っているようだ。

宿を営むのは、マスターこと藤川知也さんと、スープ創作人かつアーティストでもある“かずぅ”さん(藤川和恵さん)。この森でスープを振る舞う場をスタートし、2026年で10年の歳月を迎えた。節目の年となるこの春には、火を囲む原始的な小屋「フィナベル」が新設。訪日外国人向けの宿泊プランも登場し、小さな森が世界に向けて扉を開かれた。

森の移ろう時間を舞台に、ここでは樹々の神秘を全身に取り込みながら、心と身体をゆっくりと解放するメニューに添って過ごす。15時のチェックイン後、まずは精神の“源への旅”をコンセプトに、新設された「フィナベル」での火の儀式からスタート。物語の中に舞い込んだような小屋は、大山周辺で採取した石、竹、ヨシを使い、古民家解体時に出た柱を再利用。土に真菰を混ぜて発酵させた土壁や茅葺屋根など、日本の古の技法に基づいて造られている。古来、日本で神聖な植物とされているクロモジやクマザサ、サカキで薬草のブーケを作り、お祓いのように身を撫でる。そのブーケを季節の植物やスパイスの香りと共に燻らせ、バックミュージックに太鼓とマントラの音を響かせる。目を閉じてゆったりと呼吸を繰り返すと、自分の生命が目覚めた時空へと旅するような気持ちが湧き上がる。聖なる煙に包まれた後は、クロモジの枝葉を一晩煮込んだバーガンディ色の薬草風呂へ。日頃から纏っている鎧までも洗い流されるようだ。

待ちかねた夕食は、「森のお手当スープ」と称したコース仕立て。一皿一皿が一編のポエムのように感じられる前菜を五感で味わったあと、主役となるスープが登場する。屋外に設えた竈に薪をくべ直火で煮込むスープには、約20種類ほどの野菜に加え薬草や木の実が調和。わずかに素材の食感を残した食べごたえのある一皿である。味わいが単調にならないように、グリル野菜をトッピングすることでスパイシーな変化も生まれる。手製のデザートや酵素ドリンク、自家焙煎の珈琲やクロモジ茶まで、森の闇に包まれながら祈りにも似た食の時間が流れてゆく。

翌朝は、「草屋根の教会」での瞑想からはじまる。朝の森の空気を深呼吸とともに身体に満たし、カードリーティングで森からのメッセージを受け取る。森の中で土の上を裸足で歩いたり、寝転がったり、お気に入りの木を見つけて触れてみたり──心のままにアーシングを楽しんだら、出発の日の“朝のスープ”で、心と身体を慈しむ。野菜に玄米クリームを合わせたものに、エディブルフラワーや豆乳クリームを用いて、旅人に合わせたイメージがスープに描かれている。まるで魂のオーダーメイドのスープのよう。

森で過ごした時間は日常という現実に戻った時に、その瑞々しさが一層の輝きを増す。一般的なリトリートとも違う、森から大いなる愛情を受けとったような根源的な時間の密度。けして気を衒ったわけではない、深く豊かな時間を味わってはいかがだろう。

写真提供:森のスープ屋の夜、千葉裕子

森のスープ屋の夜
住所: 鳥取県西伯郡伯耆町真野649-19
Webサイト:https://cinemavalley.net/
instagram:@soupyanoyoru

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

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