京都市営地下鉄・鞍馬口駅から西へ歩くこと約20分。住宅街の中に、唐破風の屋根を掲げた一軒のカフェが現れる。「さらさ西陣」は、1930年に建てられた銭湯「藤ノ森湯」を改装したカフェだ。店内には銭湯時代の面影が色濃く残る。


1930年築の銭湯をカフェへ。「さらさ西陣」のはじまり
取材に対応したのは、尾崎友哉さん。さらさ西陣を含め、5つの店を経営する株式会社サラサの代表取締役社長だが、物腰は柔らかく、気さくな方。さらさ西陣には、20年ほど前にアルバイトとして勤め始め、この店のことを誰よりも知り尽くしている。
京都では、古い町屋を改装したカフェが増えたが、廃業した銭湯をカフェへと生まれ変わらせたお店は珍しい。尾崎さんはその来歴を語る。
「この近くに、1923年創業で今も現役の船岡温泉があります。そのオーナーが、1930年に作った藤ノ森湯という銭湯でした。長く近隣住民に親しまれてきましたが、時代の流れもあり、1999年に営業を終えました。解体されず残りましたが、サラサの当時の代表が、『建物が本当に素晴らしい。この空間を生かして、カフェにしたら面白い』と考え、DIYであちこち改装したのが、さらさ西陣の始まりです」

株式会社サラサの代表取締役社長 尾崎友哉さん
かつて、日本人にはなくてはならない存在であった銭湯の数は、1968年にピークを迎えた。しかし、この頃から浴室つきの住宅が増加し、銭湯に通う人は減少。今では、全国で1500軒弱と最盛期の10分の1に満たない。他地域に比べ銭湯の利用者が多かった京都でも、20世紀の終わりになると廃業が相次いだ。それをカフェとして再利用することで、かつての銭湯の面影を現代に伝えている。
マジョリカタイルもそのまま。銭湯時代の面影をそのまま残す店内
店内を見渡すと、ノスタルジックな調度や意匠が目に飛び込む。カフェの運営に支障ない範囲で、銭湯時代のものをそのまま流用しているという。特に印象的なのが、壁面を覆う和製マジョリカタイルだ。マジョリカタイルとは、19世紀のイギリス発祥のタイルで、彩色されたレリーフ模様が特徴。明治時代に日本に伝わり、独自のデザインのタイルが無数に作られた。防水性があるため、昔の銭湯でもよく使われた。それがそのまま残っている。

上を見ると、吹き抜けのガラス張り天井があった。銭湯は、湯気がこもるのを防ぐため天井を高くする。ガラスを通して淡い日の光が、幻想的な雰囲気を店内に放っていた。
「今では建物そのものが観光地みたいになっています」と、尾崎さんは言う。国の登録有形文化財に指定されているのも、うなずける。

名物はトルコライス。さらさ西陣での懐かしい洋食
筆者が訪れた日は、ランチタイムということもあってほぼ満席。観光の中心地から離れていても、元銭湯という物珍しさが、多くの人を引き寄せるのだろうか。
「でも、最初からこうではありませんでした。勤務し始めた20年前は、来店客が少なくて、暇を持て余すほどでした」と、尾崎さんは当時を回想する。
注目の店となった転機は、2009年のアニメ番組『けいおん!』の一舞台として描かれたことであった。熱心な視聴者たちから、アニメの聖地巡礼の一目的地とみなされ、多くの人が訪れた。それがメディアの目を引いて、記事や番組などで取り上げられ、アニメファン以外の人たちも呼び込むという好循環が生まれた。

もちろんそれだけでは、一過性のブームとして終わったであろう。尾崎さんは、メニューや店内の雰囲気も改善するなど地道な努力を続け、今の人気店へと道をつないだ。また、新たな取り組みとして、「さらさの朝ごはん」がある。これは、土日の朝限定で肉丼を提供するというもの。580円とリーズナブルな価格で、 温泉たまごやみそ汁もある。休日の午前を、レトロな店で昔ながらの食事でスタートするのも一興だ。
店で一番の名物をうかがうと、「トルコライスです」と答えが返ってきた。トルコライスは、もともと長崎県のいわゆる“ご当地グルメ”(歴史の新しい郷土料理)で、トルコ料理とは関係がない。地域や店によってバリエーションがあるが、ご飯にトンカツやエビフライが乗り、デミグラスソースがかけられ、スパゲティが添えられるのが基本形。さらさ西陣の場合、半熟卵焼きと自家製タルタルソースも加わり、かなり濃厚な見た目だ。

さっそく1皿注文。予想はしていたが、濃厚さにさらに輪をかけた濃厚な味わい。しかし、胃がもたれるような重たさではない。揚げたてでサクサクのカツとエビフライが、いいアクセントになっている。食べているうちになぜか懐かしさを覚えたが、記憶をたどっても、いつどこで食べた料理と似ていたのかは、ついに思い出せなかった。
近くの席から、談笑とともにコーヒーの香りが漂ってくる。ゆったりとした時の流れに身を任せると、ふだん緊張しがちな内面もほぐれてくる。銭湯でなくなって、立ち昇る湯気は消えたが、心がいやされるような雰囲気がそこにはあった。日常に疲れたら、訪れてみるといいだろう。
さらさ西陣
住所: 京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
営業時間:
日曜~木曜 11:30~21:00 (20:15 L.O.)
金曜 11:30~22:00 (21:00 L.O.)
土曜 7:00~10:30(朝ごはんメニュー)および11:30~22:00 (21:00 L.O.)
定休日 : 水曜日
ウェブサイト: https://www.cafe-sarasa.com/shop/nishijin.html
Instagram: @sarasa_nishijin
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