日本橋・人形町で『SOIL Nihonbashi Hotel』が耕す、新しい街の滞在価値

日本橋・人形町に立つ「SOIL Nihonbashi Hotel」。運営の株式会社Stapleは、兜町のホテル「K5」やコワーキングスペース「Soil work」、ワインバー「timsum」などを徒歩圏内に展開し、人形町のまち全体をひとつの拠点のように育てている。その流れに最後に加わったピースが、このホテルだ。

大規模な開発とは一線を画し、路地の文脈を活かした場を耕す。ここは旅人を街の良き隣人へと変えていく土壌だ。飲食開発マネージャーの沼田恵梨子さんと、フロントスーパーバイザーの落合乃彩さんに、SOILが提案する新しい滞在体験について話を伺った。

コミュニティの土壌を耕す

SOIL Nihonbashi Hotelがある人形町・横山町周辺は、日本橋エリアの中でも大手デベロッパーによる大規模な開発エリアとは少し距離を置いた、問屋街の路地や古い商店が今も息づく場所だ。既存の建物や文脈を活かしながら価値を生み出すことを得意とするStapleにとって、昔ながらのまち並みと暮らしの時間が残るこの場所にこそ、地に足のついた滞在体験を丁寧に積み上げる余地があったという。

SOIL Nihonbashi Hotelが掲げるコンセプトは「ローカルのルーツは土壌(SOIL)から見つかる」。周辺にはコワーキングスペース「Soil work」やホテル「K5」、中華料理が楽しめるワインバー「timsum」など、Staple系列の施設が複数立ち並んでおり、徒歩圏内で泊まる・食べる・飲む・働く・遊ぶ・語らうが交差する場をつくることで、街の新しいコミュニティの土壌を耕している。

多様なものが混ざり、発酵し合うような密度を持つこと。それこそが、これからの「まち」の豊かさになるとStapleは信じているのだ。

生地の「タネ」が繋ぐ、街の循環

武田清明建築設計事務所が手がけたこのホテルは、「路地裏園芸」をコンセプトに、1階にピザスタンド「Pizza Tane」がある。ホテルのロビーの境界をあえて曖昧にする意図から、外観を覆うルーバーと植物が路地の風景を店内へと誘い込み、まるで道の一部であるかのような開放感を創出している。ここは宿泊者だけの場所ではなく、近隣のワーカーや住民が日常的に行き交う、街の窓口だ。

店名「タネ」には、3つの想いが込められている。一つは、姉妹店「Parklet Bakery」から継承した15年ものの天然酵母を使う「生地(ドウ)」としてのタネ。2つ目は、土(SOIL)から新しい文化が芽吹く「芽吹き」のタネ。そして3つ目が、人と街を繋ぐ「会話のタネ」だ。単なる飲食店ではなく、この場所が街のコミュニティを耕す起点となることを意図している。

Taneの生地へのこだわりにも注目したい。効率的なドライイーストとは異なり、天然酵母を使い、1.5日かけてゆっくりと発酵させる。この時間がデンプンを分解して乳酸菌発酵を進め、噛むほどにジューシーな甘みを引き出すのだ。さらに、高タンパクの小麦粉を選定し、形を保てる限界まで加水率を高めることで驚きのモチモチ感を実現した。

あえてテレビを置かない、街へ飛び出すための設計

SOIL Nihonbashi Hotelが掲げるのは、滞在が館内だけで完結しない「街ごと滞在する」というあり方だ。旅の体験をホテルの中で閉ざすのではなく、この街を一緒に楽しんでほしい。そんな想いから、街に馴染み、宿泊者がチェックアウトする頃には日本橋の“良き隣人”になっているような「街の入り口」としての場づくりを目指している。

客室は「自分の家のようにくつろぎ、かつ非日常を感じる」空間デザインを採用。一見相反するようだが、どちらも「自分のペースで過ごせる」という感覚に帰着するという。そのため、空間にはあえて「使う人が決める余地」が残された。

テレビを置かないのは、デジタルな娯楽に触れない代わりに、街に出てほしいという想いがあるからだ。アメニティ一つとっても「日本橋の路地に暮らす人が使いそうなもの」という基準で選定されており、地元の文脈が入り込んでいる。また、SOIL Nihonbashi Hotelが提案するのは、点在するネットワーク施設を巡る「回遊型」の滞在だ。

徒歩圏内にStaple系列の施設が複数ある。施設を回遊することで、宿泊者には“街の隣人”となってもらいたいという想いがある。

「昼は『Soil work』で作業をし、夕方は『timsum』でワインを一杯。夜は『Pizza Tane』でディナーを楽しみ、翌朝は少し歩いて『Parklet Baker』へ。良き隣人になってほしいという想いがあるので、周辺の施設を自然に回れるルートをご案内しています。また、周辺には江戸時代からの老舗商店や問屋街の路地が残っているので『地図に載っていない角を曲がってみてください』という案内も大切にしています」

街に溶け込むホテル

SOIL Nihonbashi Hotelが大切にしているのは、宿泊者だけでなくスタッフ自身も街の一員になることだ。実際に開業の1年以上前からこの街に移住し、自治会や祭りに参加して街の息子のような信頼を築いてきたスタッフもいるという。地元の人に「あそこのホテルの子だ」と親しまれる関係性があるからこそ、ゲストにも自信を持って路地の奥の魅力を案内できる。スタッフが街の日常を共に生きることで、ホテルと街の境界線は溶け、旅人は安心して地元の日常へと溶け込んでいくのだ。

この「街との境界線のなさ」を象徴するのが、ホテルを彩る植物たちだ。実は、ここに置かれた植物の多くは、近所の人たちから譲り受けたものだという。一つの施設が完結した世界を作るのではなく、街の人々と植物を持ち寄り、みんなで共に育てていく。こうした光景こそが、新しい文化が芽吹く「SOIL(土壌)」というコンセプトを体現しているといえるだろう。

また、このホテルが目指しているのは「日本橋に行くから泊まる」のではなく、「このホテルに泊まるために日本橋へ行く」という目的地の在り方だ。大規模再開発が街の骨格を変えていく中でも、路地裏のひとつひとつに多様な人の気配を宿し、10年後、20年後も変化の中に静かに居続けること。ファサードの植物が育ち、店に集う人々が代替わりしても、街の欠かせないピースとして「出会いの土壌」を積み重ねていくことが、Stapleが考える街への貢献だ。

この「土地に根ざす」姿勢は、Stapleに共通する哲学だ。どこへ行っても同じ体験を提供するのではなく、その土地の歴史や産業を丁寧に編集し、宿泊体験へと落とし込む。それが、チェックアウト後も「あの場所に帰りたい」と思える感覚を育み、多様な営みが混ざり合う豊かな土壌となっていく秘訣だ。

SOIL Nihonbashi Hotel
東京都中央区日本橋人形町3-2-4
Webサイト : https://soilis.co/nihonbashi/
Instagram : @soil_nihonbashi

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Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を拠点にGOGOダンサーとして活動。 フリーマガジン『ビアンマップ』制作/連載newTOKYO「私とアナタのための、エンパワ本」執筆

Photo by Rina Amagaya

1992年、吉祥寺生まれ。2023年より福岡市に移住。 広告・PR・広報の仕事を軸に、企画やディレクション、撮影、執筆を行っている。 大手人材会社での営業、ライフスタイル系WEBメディア編集部での経験を経て、2024年に「fiilter株式会社」を設立。

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