マドモアゼル・ユリアの 【語るキモノ】 Vol.12 青花小慢 Tea Experience

DJとしてファッションシーンで活躍しながら、着物のプロデュースも手掛けるなど多彩な顔を持つマドモアゼル・ユリアさん。アートや建築にも精通したユリアさんが、お気に入りのスポットを訪ね、その場面と響き合う着物のコーディネートを語る連載。
Vol.12は、情緒漂う木造建築で台湾茶を楽しむ空間「青花小慢 Tea Experience」。シノワズリーの要素を小粋に散りばめた着物の物語と合わせてご覧いただきたい。

昭和ノスタルジーに満ちた静謐な茶空間

初夏の風に誘われてユリアさんが訪れたのは、神楽坂で誕生した「青花小慢 Tea Experience」。入り組んだ路地裏に佇み、そこだけ時が止まったような鄙びた木造家屋の1階に目指す茶空間はある。建築好きで知られるユリアさんも初めて訪れたという、穴場の名建築といえる。

「一水寮」と呼ばれるその建物は、1951(昭和26)年の築。近隣の旧高橋建築事務所(国登録有形文化財)の大工の寮として建てられたもので、隣接する高橋の居宅であった鈴木家住宅とともに全て建築家・高橋博(1902~1991)により設計された。戦後まもない時期に建てられ、大工の宿舎および作業場を目的としていたゆえ、贅を凝らした建材が使われているわけではない。だが、ふと目に入る格子や意匠梁などに、さりげなく鑿(のみ)や手斧の技が垣間見られる。当時の大工の技能の高さが奥床しい美意識となって映し出された“清貧”の風格が漂う空間といえる。

時代の流れと共に寮という役割を終えた建物は、建築家で後に髙橋氏の娘婿となった鈴木喜一氏の事務所スタッフや学生など、縁者のクリエイターの住まいへと転用。2013年には国登録有形文化財に指定され、その3年後に耐震補強を含めた改修工事が徹底して行われた。錆びたトタン材を纏った外観や内装の空気感を損なわないよう、水回りや床、柱に至るまで新たな建材をできるだけ目立たないように補強。年月を重ねた木製の窓枠や硝子を活かしながら、隙間風ひとつ通らない“生きた” 木造建築へと蘇り、現在は手工芸を主体に据えた工房や事務所が入居している。

そんな歴史的建造物の1階に、穏やかな新風が吹いたのは2026年3月のこと。台湾茶ファンの間で、その名が深く浸透している台北出身の謝小曼(しぇ・しゃおまん)さんが主宰する茶空間「青花小慢 Tea Experience」として幕開けた。小曼さんの真骨頂は、日本の工芸と台湾茶の融合である。約20年前に台北に築いた「小慢 Tea Experience」で、日本の工芸作家の茶器を積極的に取り入れ、日本の工芸と台湾茶のフュージョンを試みたことで知られる。

「実は小曼さんの台北のお店を訪れたことがあります」と語るユリアさん。「工芸好きの仲間と台北を巡る旅程のなかで、友人がレコメンドしてくれたのが小慢 Tea Experienceでした。ノスタルジックな空間と洗練された茶器に惹かれ、阿里山の紅茶を求めたことが思い出されます」。

嬉しい偶然を胸に、ユリアさんはさっそくお茶をいただくことに。この日のお茶は「安徽(あんき) 野放野蘭香緑茶」。中国は長江の南に位置する山岳地帯・皖南(わんなん)で、30年以上に渡り肥料や農薬を使わず、自然のままの環境で茶木を育てている茶園で、小曼さんが選び抜いた緑茶である。「こちらは土の中へ深く根を伸ばした老茶樹の茶葉です。土壌のミネラルや養分をしっかり吸い上げ、茶湯に豊かな奥行きがもたらされ、約十煎ほど楽しめます」と、店長の齋藤りょう子さんからの説明を受けながら、まずは一煎。口に含むやいなや「いつも飲んでいる緑茶とはまったく違い、刺激がなく優しい味わいですね」とユリアさんの声が弾む。香りが最も楽しめるという二煎目を味わい「先ほどより味が締まったように感じます」と、風味の変化を満喫。台湾茶の世界に開眼したユリアさんが、茶葉を求めたのは言うまでもない。

アジアの工芸美を、深淵な色彩で装う

この日、ユリアさんが侘びた木造建築と台湾の茶芸の空間へ込めた物語のテーマは、“静けさの宿るシノワズリ” 。「訪れる場所を聞いて真っ先に思い浮かんだのが、水の流れのようにも見える立涌の地紋と瀟洒な透け感が美しい汕頭刺繍の着物。経暈しに染められた奥行きが、建物の陰翳礼讃な雰囲気に寄り添うと思いました」。シックな着物に軽やかな遊び心を添えるのは、「時代布 池田」で求めたジャワ更紗の帯。前帯とお太鼓で、色味や柄の密度が異なり躍動的な表情をなす。さらに、杯を模した帯留めで、茶空間にふさわしい物語をあしらった。

清らかなお茶を飲み重ねたことで、一層の透明感を増したユリアさん。スモーキーな暈し染めの着物を纏った姿が、お茶の余韻のなかで一幅の水墨画の中から抜け出たように映った。

MADEMOISELLE YULIA
(マドモアゼル・ユリア)

10 代から DJ 兼シンガーとして活動を開始。DJ のほか、着物のスタイリングや着物 教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活躍中。2023年には友人と着物ライフをお洒落に彩るブランド【KOTOWA】を立ち上げる。YOUTUBE チャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。
OFFICIAL SITE :https://yulia.tokyo
Instagram : @MADEMOISELLE_YULIA

今回訪れた場所はこちら
青花小慢 Tea Experience
所在地:東京都新宿区横寺町31 一水寮101
Instagram:@seika_xiaoman

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

Photo by Natsuko Okada

広告制作会社・出版社の写真部門を経て、(株)Studio Mug を設立。和の文化・ファッションを中心に、マガジン、広告問わず活動中。ライフスタイルから派生するジャンルの撮影を得意とする。2019年より写真専門学校で未来のフォトグラファー育成の講師を担当

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