もう三年も前のことになるのか、それとも四年か。女三人で暮らしていた時期があった。
解散してからも、ひとりずつとは、ごはんを食べたりしていたけれど、三人でそろうことはなかった。もともと休みの曜日もちがっていたし、そういうものかもしれないと思っていたのだ。
そんななか、ひとりはドイツへ行くことになり、もうひとりは結婚することになった。ふたりとも、めでたいことだった。(ひとりと、もうひとりという呼び方ではややこしいので、ドイツへ行くほうをりんごちゃん、結婚するほうをめろんちゃんと呼ぶことにする)
りんごちゃんがドイツへ発つ前の晩、友人の店に立つと聞いたので、めろんちゃんをさそって、その店へ夜ごはんを食べに行くことにした。
ふたりに会う前に、伊勢丹へ寄る。プレゼントを買うためである。伊勢丹で人に贈るものを選ぶようになるなんて、自分もずいぶん大人になった気がする。お金も、あのころよりはある。
あのころ、というのは三人で住んでいたころで、めろんちゃんの言い方を借りれば「うだつもあがらず、だらだらしていたあのころ」のことである。
まずは、めろんちゃんへの結婚祝いを選んだ。いくつか目星をつけていた店をまわり、これだ、と思ったマグカップとカップを買う。包んでもらっているあいだに、りんごちゃんのぶんを探す。
旅立つ前夜のひとにものをあげるのはよくない。でも、なにか小さくて、よいものがあれば渡したいと思いながら伊勢丹をくるくるまわっていたら、猫の顔のかたちをしたお香たてが目に入った。
りんごちゃんは猫が好きだ。だからといって、猫のモチーフを好むとは限らない(じっさい、わたしは猫が好きだけれど、猫モチーフはそうでもない)。でも、このお香たては、猫が好きでなくても、ただかわいい。これにしようと決めて、小さな箱に包んでもらった。
それを待つあいだ、また伊勢丹を歩いた。ふと目についたものがあり、それを三つ、買った。
包装を受け取ると、三軒茶屋へ急いだ。
改札前でめろんちゃんと顔を合わせる。おたがいの近況や、結婚の顔合わせとはどんなものかを聞きながら歩く。店に着くと、りんごちゃんが高らかな声で言った。
「うわー! ひさしぶりー!」
りんごちゃんは、うれしいときにはうれしさが、いらいらしているときにはいらいらが、体じゅうからにじみ出る。そういう素直なたちなのだ。
席について、注文をすませ、料理を待つあいだに、ふたりにプレゼントを渡す。ついでに、最後に買ったものも手渡した。
「これね、三人おそろいのポーチ」
わたしが言うと、めろんちゃんはカッハッハと笑い、
「ポーチのおそろいは、高一までなのよ」
と、ひとこと言った。
りんごちゃんは、忙しさにのみこまれながらも、
「わあ! ありがとう!」
と、やはり高らかな声を出した。
それから、たくさん飲んで、たくさん食べた。
最初に開けたワインのラベルが、結婚祝いにふさわしいかんじで、たいへんよろしかった。
ふたりには、しあわせでいてほしい、そう思いながら飲んで食べたら、調子に乗って飲みすぎた。反省。でも、ふたりの門出に、かんぱい。すごく、すごく、かんぱい。
