小原晩【たましいリラックス】vol.23 朝食

仲良くなるには夕食をともに。
仲良くなったら朝食をともに。
それっぽい言葉を頭に思い浮かべて、帰りの電車のなか、ひとり愉しむ。

イラストレーターの友人である竹井晴日さんと京都で展示をしている。その設営とオープニングイベントなるもののために、二泊三日で京都に行った。展示会場がホテルだったので、そのままそこに泊まらせてもらった。
わたしたちは設営でつかれたからだに鞭をうち、隙を見ては、京都のまちへとうまいものを食べに出かけた。中華を食べた、蕎麦も食べた、寿司も食べた。

設営も、イベントも無事に終わり、わたしたちはホテルをあとにした。晴日さんが、京都に来るときは必ず寄るのだという、「イノダコーヒー本店」に向かう。行列ができることが多いのだと、晴日さんに聞いて、わたしはちょっとおびえながら、烏丸御池で電車を降り、5分ばかり歩いた。4月のくせに、日ざしはすっかり夏である。
すんなり、入れた。平日の、午前中だからだろうか。通されたのは、窓際のテーブルだった。ぴいっ、ぴいっと鳥の声がした。わたしは高校生のときの修学旅行を思い出す。行き先の京都の旅館で、朝ごはんをたべる部屋に行くと、そこではずっと、スズムシの鳴き声がしていた。スズムシにしては、やけに規則正しいな、と思った。音は、きちんと間をあけて、きちんと繰り返されていた。何かがおかしい。わたしは部屋の隅を見る。するとあったのだ、スピーカーが。子どもだましもいい加減にしてほしい、とそのときは、はっきり思った。
また、あれかもしれない。あまり気にしないことにしよう、もう大人だし、これは大人による大人のための演出なのだし、とひとり胸のなかでしゃべればいいものを、つい晴日さんに言ってしまう。晴日さんはそのとき、どんな顔をしていたかあまり思い出せない。

気を取り直してメニューをえらぶ。ふたりしてさんざん迷って、京の朝食セットとミックスサンドをはんぶんこしようではないか、とわたしが誘うと、いいね、と晴日さんは答えてくれる。

届いた朝食を、ふたりで半分ずつ食べる。朝食セットのにんじんはひとつだけだったので、晴日さんにあげる。晴日さんは、これトマトかな、とにんじんをフォークで刺しながら言っていた。わたしは、にんじんだよ、と言いながら、心の中で、ほんとトマトみたいにあっかいにんじんだよねそれ、と思っていた。言えばいいことほど言っていないのはどうしてなのだろう。

そのあと、お手洗いに立つと、外廊下に、本物の鳥が鳥籠のなかにいた。本物の鳥の声だったのだ。これはまた、失敬、失敬。

店をでて、すぐにおそろしいほど眠くなり、つかれはどさっとやってきて、はやばやと帰りの電車のなかである。仲良くなったから朝食をともにしたのである。となんとなく胸を張る思いである。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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