小原晩【たましいリラックス】vol.20 ついでに海へ

 朝七時くらいに起きて、電車に乗って海浜幕張駅へ向かう。ラジオの生放送に出演するのである。久しぶりの早起きに緊張して、ぜんぜんねむれなかった。電車のなかですやすやしようと思ったけれど、今度は生放送への緊張でねむれない。瞳、ぎんぎらぎん。
 はじめて会うラジオのひとたちはとてもやさしく、あたたかく、たのしげに迎え入れてくれて、やさしすぎておどろいた。話すことはとても下手なのだけれど、こうして呼んでもらえるときは、できるかぎり行ってみようと思った。やさしくされると、うれしいからだ。
 ところで放送局からは富士山と海が見えた。終わったら、あの海を見に行こうと決めていたので、マップをひらいて、歩いていく。

 歩いていった先に公園があり、どうやら有料だけれど、ここをまっすぐ通ったほうが近そうだったので、お金を払って、なかにはいる。しずかな、しずかな、公園である。鳥の声がよく聞こえる。
ベンチに髪の柔らかい金髪のひとが座っているだけで、他には誰もいない。しばらく進むと、あるはずの出口が見当たらない。ひととおりたのしんでから、入り口まで戻り「海への行き方って」と聞いてみると「あっちをぐるんと回っていくしかないの、ごめんなさいね」と教えてもらう。
 あっちをぐるんと歩いていく。平日の午前中、ぜんぜんひとが歩いていない広い道をずんずん歩く。とても気持ちがよい。ZOZOマリンスタジアムなどを横目で見ながら、海までつづく道をいく。目の前に、細い海が見える。進めば進むほどにまばゆい海である。

砂浜にはわたしの足跡がひとつ、ふたつと残されてゆく。海の近くへ、近くへと、風のつよすぎるために髪をうわあっと吹かれながら気にせずすすむ。誰も見ていないのであれば丁寧に固めた前髪がどうなろうがほんとうにどうでもいいものね。いまだけはカチューシャで前髪をガッとあげてしまいたい。海の近くには座りよさそうな丸太がひとつあり、そこに腰掛け、海をながめる。急に波の音を録りたくなって、ボイスメモで録音する。いま、東京の部屋でひとり聞いてみた。風の音しかしなかった。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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