春画は実物で見るべし!「歌川国貞・歌川国芳」展で驚く江戸の超絶技巧

新宿・歌舞伎町で開催されている「新宿歌舞伎町春画展WA」。第4回となる今回は、江戸時代後期を代表する浮世絵師、歌川国貞と歌川国芳の作品にフォーカスした内容となっている。
(*展示詳細はこちら)

今や歌舞伎町の新たな名物になりつつある「新宿歌舞伎町春画展WA」シリーズ。筆者が足を運ぶのは今回が3回目だ。春画のユーモアや江戸の人々の性に対するおおらかな感覚については以前にも紹介したが、何度か訪れるうちに確信したことがある。

浮世絵は、写真ではその魅力の半分も伝わらない。

私のように、ツルツルのコート紙に印刷された中学の資料集や、Web画像でしか浮世絵を見たことがないと、なぜこれほど世界で評価されているのかを理解することは難しいだろう。今回は、浮世絵の驚異的な技術に注目してみたい。

写真では伝わらない、浮世絵の本当の凄さ

例えば、今回の目玉のひとつともいえる、歌川国貞の『花鳥余情 吾妻源氏』。これだけでも絵としての美しさを感じることはできるのだが、よく近づいてそのディティールを観察すると、驚くほど細かな技巧が施されているのがわかる。

ピンク色の桜の花の輪郭は、凹凸で表現されており、花びらがふっくらと膨らんで見える。これは「空摺(からずり)」と呼ばれる技法で、今でいうエンボス加工が施されているのだ。左下の猫も、柄とは別に毛並みが空摺で表現されている。

浮世絵は、一般に初摺りに近いものほど高く評価されるという。摺りを重ねるうちに版木が摩耗し、細かな線が失われたり、後の版では一部の技法が省略されたりすることもあるためだ。

会場で我々が目にするこの春画たちは、世界でも有数の浮世絵コレクター、浦上氏の所蔵するもの。その品質は最上級レベルだ。「周りにロープとかかけて警備員立たせておいたほうがいいんじゃないの?」と心配になる。もっとも、これほど間近で見られるからこそ、浮世絵の本当の凄さに気づけるのだが。

名もなき職人たちが支えた、江戸の大衆文化

浮世絵といえば、北斎や広重など、絵師の名前ばかりが知られている。しかし、1枚の浮世絵が作品として完成するには、絵師以外にも、版を彫る「彫師」、印刷する「摺師」などの技術がそれぞれ必要だ。

傑作と呼ばれる作品たちは、当時おそらく随一の腕を持った一流の職人たちが、己の持てる技術の限りを尽くして生み出したものなのだ。どんなに優れた技巧を凝らしても、彼らの名が絵師のように後世に残ることはない。何をモチベーションにしてそこまでがんばれたのだろう?

しかも、宗教画や権威を示すための絵画ではなく、人々が楽しむためにつくられた作品に、これほどの技巧が注ぎ込まれていたというのだから驚く。日々の仕事を職人として全うすること。昨日よりももっといいものを作ること。そして、手にした人を「あっ」と言わせたいという、ちょっとしたサービス精神。

もちろん、当時の職人たちが何を考えていたかはわからない。それでも、そんな仕事への誇りや遊び心が、この豊かな文化を支えていたのではないかと想像すると、なんだかじーんとくる。

今回の展示では、絵師だけでなく、職人たちの飽くなき品質への執着に、とにかくシビレたのだった。

浮世絵に詳しくない人ほどおすすめ

私は、美術館などにいくときは「教養モード」のスイッチをキリッと入れているようなかんじで、見終わると疲れていたりするのだが、春画展はあまりそれがないので、知り合いにもおすすめしまくっている。

というのも、「この空摺すごいな…うわ、こんなところまで…」と真剣に浮世絵として鑑賞をしていると、ふと気を抜いて遠目で見た時に「いや、どういう状況…そうはならんやろ!」と笑える絵が目に飛び込んできたりして飽きないのだ。

「俗」と「高尚」、「知的好奇心」と「性的興味」がごちゃまぜになって何が何だかわからなくなった果てに、ああ、そういえば人間って最初からこういうもんだよな。という納得に辿り着く。清濁併せ呑むこの歌舞伎町という街ほど、この展覧会に適した場所はないだろう。

専門家も唸るほどの貴重な作品が並ぶこの展覧会。けれど、浮世絵の知識なんてなくても十分に楽しめる。むしろ、今まで浮世絵に興味がなかった人にこそ、実物を間近で見て、その凄さを体感してほしい。

「歌川国貞・歌川国芳ー新宿歌舞伎町春画展WA」
https://www.smappa.net/shunga/ticket.html
会期:2026年10月3日(土)〜11月29日(日)
前期:10月3日(土)〜11月1日(日)
後期:11月3日(火・祝)〜11月29日(日)
※11月2日(月)は展示替えのため休館

時間:11:00〜21:00(最終入場20:30)
会場:新宿歌舞伎町能舞台/ホストクラブBOND
出展作品:歌川国貞・歌川国芳の春画・浮世絵 約100点
料金:一般 前売1,900円/当日2,200円、学生 前売1,200円/当日1,500円
※18歳未満入場不可
※音声ガイド無料、日本語・英語対応

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

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