クリエイティブな仕事に携わっている人はどんな場所でインスピレーションを得ているのだろう。彼らに町案内をお願いしたら、まだ知らないおもしろい場所が見つかるかもしれない。
トレンドやカルチャーなど日頃から感度の高いクリエーターたちにお気に入りの場所を紹介してもらう連載企画第3回目の案内人は東京のブティックホテルを牽引するTRUNK(HOTEL)のチーフクリエイティブオフィサー木下昌之。
パーク ハイアット 東京、パークハイアット 上海にて営業職のホテルマンとして従事。その後アンダーズ 東京の開業に携わり、さらにその後アンダーズ マウイに赴任するといった経歴を持つ。
これらの経験から、TRUNK(HOTEL) CAT STREETの開業時に声をかけられ、ホテルマネージャーとして入社するも、クリエイティブの才を見出され、現在は株式会社TRUNKのクリエイティブワークを統括するチーフクリエイティブオフィサーとして各分野の専門家15人から編成された社内クリエイティブチーム「TRUNK アトリエ」を率いている。
ホテルマンからホテル作りのクリエイティブに抜擢されたという異色の経歴の持ち主だ。
Courtesy of TRUNK
Photo by Tomooki Kengaku
今年9月1日に開業したTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARKが位置するのは春には桜の名所としてもローカルに人気がある代々木公園のすぐ隣だ。インフィニティプールからは代々木公園の緑が一望できる。このあたりは海抜30メートルの高台にあり、原宿や渋谷駅の周りと比べると標高差が10~15メートルほどもある。だから緑の向こうにビルがほとんど見えない稀有な眺望なのだ。
代々木公園には興味深い歴史がある。戦後、アメリカの進駐軍の兵舎や駐留軍人やその家族が暮らす住居「ワシントンハイツ」が建てられていたが、1964年にオリンピックが東京で開催されることになり、これらの土地が返還され選手村や競技場が整備されたのだという。
この渋谷の奥にあたる、代々木公園、代々木八幡、富ヶ谷周辺は、通称、”奥渋(オクシブ)”と呼ばれ、近年注目を集めているが、約70年ほど前にはアメリカのカルチャーが凝縮したアメリカンビレッジがあったのだ。
クリエイターが選ぶ町、奥渋
木下氏(以下敬称略):僕もこのあたりに10年以上住んでいます。結構クリエイティブ系の人が多く住んでますね。そういう人たちって、住む場所だから落ち着きが欲しいけど、常にインスピレーションを受けていなきゃいけないし、刺激がなきゃいけない。このエリアはその「くつろぎと刺激」がうまく混在しているから好まれるんだろうなと思います。
だからこのホテルのコンセプトは「Urban Recharge」。
代々木公園の自然と都会ならではの刺激、そのくつろぎと刺激を両方味わって、それを明日の活力、エネルギーに変えて行こう、という意味をこめています。
木下:衣食住の全てのライフスタイルが集約しているホテルづくりは本当にやりがいがあります。もともとデザインにも興味あったし、食べることも飲むことも好きだし、趣味の延長みたいな感じです。
—自分のライフスタイルが詰まったホテルを作ったみたいな?
木下:完全に自分の趣味が入ってます。基準は僕と社長の野尻さんですね。2人とも世界中を旅していて、お互いの趣味嗜好も知りつくしているから「2人が行きたくなるところや好きなものを作れば、絶対に成功するよ」って社長が言ってくれて。だから自分の感性を信じてクリエーションをしています。
—神宮前、代々木公園、そして道玄坂にもホテルプロジェクトが進行中ということで、TRUNKは渋谷カルチャーの発信基地みたいですね。
木下:今ラグジュアリーの定義って変わってきてるじゃないですか。ファッションでいえばルイ• ヴィトンがメンズ部門のアーティスティックディレクターにヴァージル・アブローやファレル・ウィリアムズを選んだり。ただゴージャスとか高級であればラグジュアリーっていうところから、もうちょっと本質的なところに向かっていっているような気がしています。だから我々TRUNKは今注目されている原宿、表参道、渋谷で我々のラグジュアリーを追求したいと思っています。
東京は歩いて楽しむ街。その楽しさが凝縮しているのがまさにこの”奥渋”だ。
木下:僕が定期的に顔を出したくなるのがThe Monocle Shop Tokyoです。ロンドンの雑誌MONOCLEの東京支局長のフィオナに会いに来るのが目的です。雑談をしたり情報交換をしたり、いつも元気をもらっています。彼女も奥渋の住人で、いち早くこのエリアの魅力に惹かれて住み始めた人のひとりです。日本のことならなんでも知っていますよ。
フィオナ・ウィルソン氏:MASA(木下氏)はよく顔を出してくれますよ。いつでもウェルカムです。この辺りに住み始めてもう12年になりますね。いろんなクリエーターが住んでいたり仕事をしていたりするこの町はてとても刺激的ですね。
MONOCLEはQuality Print Media(印刷媒体)をモットーにロンドンで創刊されたライフスタイルマガジン。独自の視点でカルチャー、デザイン、旅、ビジネスの情報を発信しており、起業家や国際派ビジネスマンをターゲットにするグローバルメディアだ。
入り口にはオリジナルのグッズからコラボアイテムなど感度の高いアイテムが揃ったショップがあり、その奥に編集部のオフィススペース、さらにその奥にはモノクルラジオの収録スタジオがある。
The Monocle Shop Tokyo
〒151-0063 東京都渋谷区富ケ谷1-19-2
Monocle Web Site : https://monocle.com/
ネオ・町中華 REI
木下:次に紹介したいのが、代々木上原の中華「REI」です。家族でもよく利用していますし、仕事でも使える重宝するお店です。ひとりでも来やすいのが気に入っています。
高島氏(REIオーナーシェフ):ハーフポーションもできますので、ひとりでいらっしゃるお客様も多いですよ。テレビ東京の「ワカコ酒」って知ってますか?「孤独のグルメ」の女性版みたいなやつなんですけど、あれに先日出演させていただいたんです。その時はエビマヨとピータンを出しました。
木下:このお店は正に町中華と高級中華の良いとこ取り。僕のお気に入りはよだれ鶏、エビマヨ、香港風真鯛の強火蒸し。あとは麻婆豆腐もここのが一番美味しい。そういえばビブグルマンに掲載されたの早かったですね。
高島:コロナ禍の新規出店の少ない時期だったからラッキーだったのかな。
木下:この辺りはビブグルマンに掲載されているお店多いよね。安くて美味しいお店がいっぱいある。
ホテルの中華レストランから広東料理の巨匠・周富徳の愛弟子の店で修行をした幅広い経験を持つオーナーシェフの高島氏と、一流イタリアンレストランで経験を積んだメンバーが迎えてくれる。食事に合わせて様々なイタリアワインが頂けるのもこの店ならでは。
「よだれ鶏”REIスタイル“」自家製のラー油が後を引く。「香港風 真鯛の強火蒸し」干しエビの出汁とナンプラーが効いたソースは、麺を入れたくなるほどしっかりしたコクがある。 「エビマヨネーズソース」小ぶりな俵形が女性の口に優しい。オーナーシェフ高嶋さんの師匠から譲り受けた形だという。
REI Chinese restaurants 〒151-0062 東京都渋谷区元代々木町10-8 関ビル Instagram : @rei_yoyogiuehara
大人のためのミルクシェイク LIQUID FACTORY
ホテルから歩いて5分ほどの路地にあるLiquid Factory(リキッドファクトリー)。こだわりのコーヒーとカクテルを提供するバーだ。
木下:ここの”大人のミルクシェイク”が病みつきになるんです。最近ダイエットをしていたので来ていなかったですけど(笑)。渋谷で飲んだ帰りにこのお店に寄って一人でミルクシェイクを飲んで帰るんです。絶対に太りますよね(笑)。
齋藤氏(LIQUID FACTORY):ミルクシェイクのカクテルです。シーズンごとに変えていて、今は「Pear Compote」。和梨をシェリーとアニスでコンポートにして、それをアーモンドと合わせ、コニャックを入れてシェイクにしています。
木下:このお店の雰囲気も落ち着くし良いんです。
齋藤:僕は横浜の出身で、最初に就職した会社が1階にダイナーとアパレル販売、2階が自動車のパーツ屋さんだったんですよ。横浜って結構アメリカのダイナー文化が盛んなので、その影響があったのかな。いつかダイナーやりたいなって思うようになったんです。ミルクシェイクってまさにアメリカンカルチャーって感じでしょ?
LIQUID FACTORY
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町42-12 SALON渋谷 1F
Instagram : @liquid.factory
—渋谷を海外の都市に例えるとしたらどこが一番近いと思いますか?
木下:渋谷ほどカオスな街ってないなぁ…駅前に再開発のビルがドカーンとあって、でもすぐそのふもとにはローカルの八百屋さんとかまだあるし、風俗街やら横丁やらもあるし。こんなカオスな街ないんですよね。それが魅力というか。失われつつありますけどね。再開発で同じような複合ビルばっかり作ってたら、なんも面白くないのに。
大規模なファッションビルが立ち並ぶ活気のある渋谷駅周辺から少し歩いただけで、別の町に来たかのような変化が味わえる。独立系のアパレルショップやカフェ、飲食店が集まるのんびりとしながらもエッジの効いた奥渋エリアは、まさにくつろぎと刺激を同時に感じられる東京ならではの”良い塩梅”な空気感を感じられる場所だといえる。ぜひ歩いて訪れてほしい。
TRUNK(HOTEL)
日本発のブティックホテルブランドとして、2017年 5 月、「一人ひとりが日々のライフスタイルの中で、自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」という「ソーシャライジング」 をコンセプトに掲げ、渋谷区神宮前にオープン。2019 年には、神楽坂に元芸者の稽古場をリノベーションした一棟貸しのエクスクルーシブな宿泊施設 TRUNK(HOUSE)を開業。そして、2023 年 9 月、TRUNK(HOTEL) YOYOGI PARK を開業した。ロケーションごとにコンセプトの異なるホテルづくりを目指し、唯一無二のラグジュアリーな宿泊体験を提供する。
TRUNK(HOTEL) YOYOGI PARK HP: https://yoyogipark.trunk-hotel.com/ Instagram: @trunkhotel_yoyogipark