五感で味わう日本茶。南青山「櫻井焙茶研究所」が提案する現代の茶体験

コーヒーショップが街に溢れる中、日本茶の新たな価値を提案する「櫻井焙茶研究所」。日本の四季を巧みに取り入れたローストやブレンド、酒と融合した茶酒など、新たなお茶の価値を提案している。

五行思想を取り入れた空間に漂うのは、心地よい緊張と緩和。一歩足を踏み入れれば、茶の道の真髄に触れながら、心の底から癒やされる至高の一杯に出会える。日本茶の概念を覆す櫻井焙茶研究所の取り組みとは何か、代表の櫻井真也さんに話を伺った。

なぜ「茶屋」ではなく「研究所」なのか

南青山にある櫻井焙茶研究所。12年前、西麻布にオープンした時は、サードウェーブコーヒーブームの真っ只中で、街中にコーヒーショップが立ち並んでいた。櫻井氏は、和食料理店「八雲茶寮」、和菓子店「HIGASHIYA」に携わる中、日本茶業界の衰退を感じていたという。

それと同時に、日本茶のポテンシャル(可能性)にも目を向けていた。「お茶の生産者さんが良いものを作っても出口がない。誰かが何かアクションしないといけない」との想いから櫻井焙茶研究所が誕生した。

「研究所」という名前には、日本茶の価値を高め、新しい茶の愉しみや可能性を研究し、創造する場所でありたいという想いが込められているという。

「お茶の伝統を受け継ぐだけでなく、ローストやブレンド、茶酒といった新しい手法を通して、日本茶の新たな魅力を探求し、現代の暮らしに合ったかたちで提案しています。そうした、常に探求を続ける姿勢を表す言葉として、茶屋ではなく研究所という名前を選びました」

心を整える、五行思想が息づく茶房

世界的にマインドフルネスへの関心が高まる今、櫻井焙茶研究所でのお茶の体験は、まさに瞑想に近い役割を果たしている。お茶を淹れる所作、湯の音、立ちのぼる香り、器の手触りなどに意識を向けることで、現代社会の喧騒の中で浅くなった呼吸が自然と整い、心に余白が生まれる。

櫻井焙茶研究所が大切にしている「茶は養生の仙薬なり」という考えは、身体だけでなく心を整えること。一杯のお茶を介して呼吸を整え、緊張をほどき、心に余白を生み出す。そうした心身を整える時間を提供することこそが、現代におけるお茶の役割であり、同研究所が「研究」し続ける日本茶のあり方だ。

店内は、その精神性を具現化したかのような、研ぎ澄まされた空間が広がる。茶房へと続く狭い通路と、足元にある一段の段差。茶室の「躙り口(にじりぐち)」を彷彿とさせるその設計は、日常から非日常へと意識を切り替え、お茶と向き合うための心地よい緊張感を生む仕掛けとなっている。

わずか8席のカウンターは、中国茶盤の見立てやバーカウンターの要素を取り入れつつ、椅子に座って点てる「立礼式(りゅうれいしき)」を採用。伝統的な茶道の所作を重んじながらも、現代の暮らしに馴染む機能美が追求されている。

さらに空間を構成するのは、万物の組成を表す五行思想だ。流れる水の音、釜で揺らめく火、木の自然な美しさ、土の温もりを宿す茶器、そして経年変化の美しさを湛える銅の壁。木・火・土・金・水が調和するこの場所で、客人は五感を解放し、張り詰めていた心をゆっくりとほどいていく。

五感で楽しむお茶の体験

櫻井焙茶研究所が追求するのは、お茶を特別なものに仕立てることではない。味覚、香り、音、器の手触り、空間、所作——。お茶が本来持つ魅力を最大限に引き出し、五感で深く感じられる体験を提供している。

ストレート・ブレンド・ローストという3つのアプローチに加え、茶と酒を融合した「茶酒」を通して、日本茶の多様な魅力や季節の移ろい、焙煎が生み出す新たな可能性を提案。
また、季節のコースでは、玉露、ブレンド茶、焙じ茶、抹茶に和菓子を合わせ、産地や焙煎による多様な魅力を一杯ずつ丁寧に味わえる。夏季には、氷だしや炭酸抽出といったさまざまな技法を駆使し、旬の果実とともに涼やかに仕立てた一杯が楽しめる。

夜のバータイムに提供される茶酒のコンセプトは「洋酒から和酒への転換」。ジンに煎茶、ラムに焙じ茶など、18種類にも及ぶお茶と酒の組み合わせをベースに、マティーニやネグローニといったクラシックカクテルを再構築した和のカクテルが楽しめる。

取材当日は、季節のコースを提供してもらった。玉露、桃のブレンド、ほうじ茶、抹茶の4種と、和菓子から構成されている。洗練された落ち着いた空間でお茶を淹れる様子を見つめていると、自分自身の内面までがスーッと整い、静かに研ぎ澄まされていくような感覚を覚えた。

「研究所」として歩んできたこれまでの道のりの先に、櫻井氏が見据えているのは日本茶文化の確かな継承と創造である。コーヒーショップが街に溢れる現代だからこそ、一杯のお茶が持つ深い精神性や多面的な魅力を、現代の感性に変換して伝えていく。その積み重ねこそが、日本茶を未来へとつなぐ力になると信じているからだ。

その想いは、櫻井氏が「お茶に関わる人々をしっかりと守り、次の世代へとつないでいきたい」と語るように、茶葉を育てる生産者、器を焼く作家、和菓子を仕立てる職人といった、お茶の文化を支えるすべての人たちへの敬意へとつながっている。

伝統を守りながら、常に新しい愉しみを研究し続ける。櫻井焙茶研究所は、これからも日本茶の奥深い世界と出会う入り口であり続け、ここから生まれる新たな価値は、海を越え、時代を超えて、日本文化の誇りを未来へと繋いでいくに違いない。

櫻井焙茶研究所
東京都港区南青山5-6-23 スパイラル5階
HP: https://sakurai-tea.jp/
Instagram: @sakurai_tea_shop

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Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を拠点にGOGOダンサーとして活動。 フリーマガジン『ビアンマップ』制作/連載newTOKYO「私とアナタのための、エンパワ本」執筆

Photo by USHUN

東京を拠点に活動するドキュメンタリーフォトグラファー。人・文化・街並み、その場所に流れる空気まで写真に残すことを大切にしています。一瞬ではなく、その土地の記憶に残る物語を撮影します。

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