
現代アート界で革新を続ける「ペロタン」。その日本拠点「ペロタン東京」は、六本木でギャラリーの枠を超えた文化発信を続けている。30年以上の歴史を持つグローバルな視点と日本文化が交差する地で、今どのような物語が紡がれているのか。ペロタンの日本社長、ステファニー・ヴァイヨンの言葉を交え、ペロタン東京の進化と現在を紐解いていく。
パリの小さな出発から世界のメガ・ギャラリーへ

ペロタンの日本社長、ステファニー・ヴァイヨン
ペロタンの歴史は、1990年のフランス・パリで幕を開けた。創設者のエマニュエル・ペロタンは、当時わずか21歳。若き情熱から始まったこのギャラリーは、30年以上の歳月を経て、パリ、ニューヨーク、香港、ソウル、東京、上海、ロサンゼルス、ロンドン、ドバイといった世界各地の主要都市に展開する、現代アート界を代表するメガ・ギャラリーへと成長を遂げた。
ペロタンの最大の特徴は、単なる作品の展示・販売に留まらず、境界を越えて「アートの可能性」を探求し続ける姿勢にある。その進化の形は日本でも明確に示されていると、ヴァイヨンは語る。
「『アートの可能性』を分野を超えて探求したいという情熱から、私たちはより多様な体験を提供できるよう日本での活動を拡大してきました。2020年には『ペロタン東京 ブックストア』をオープンし、2024年には『ペロタン・サロン』を始動。観客の皆様にとって、真にボーダレスな環境を創り出しています」

ペロタンサロンは、アーティスト、クリエイター、コレクターなどの交流の場として機能している
六本木、そしてピラミデビルという選択
ペロタン東京が拠点を構えるのは、六本木のランドマークである「ピラミデビル」だ。多くのアートギャラリーが集まるこの場所を選んだ背景には、都市の文化的な文脈を捉える視点があった。
「ペロタン東京が約10年前にピラミデビルにオープンした当時、このエリアはアートにとってまだ未知数な部分もありましたが、私たちにとっては根を下ろすのに理想的な場所でした。六本木の中心という立地は、森美術館、サントリー美術館、国立新美術館という、いわゆる『六本木アート・トライアングル』を形成する名立たる美術館に囲まれていたからです」
その後、六本木のアートシーンは急速な進化を遂げ、ピラミデビル周辺は東京を代表する文化的集積地となった。
「それから10年、他のギャラリーと共に地元のシーンに深く関わる中で、ピラミデビルやコンプレックス665、21_21 DESIGN SIGHT、そして麻布台ヒルズなどが、街に新鮮なクリエイティブ・エネルギーをもたらしました。今やピラミデビルは独自の流動的なエコシステムを築き上げ、東京の広大な文化的景観において欠かせない存在となっています。私たちペロタン東京は、このビルの歴史と未来を共に見守り、貢献できることを誇りに思っています」
メガギャラリーとしての哲学

メガ・ギャラリーとして世界を牽引するペロタンだが、その哲学の根幹にあるのは「自由」だ。ペロタン東京は、専門家や権威だけのための、敷居の高い場所ではない。予期せぬ出会いに満ち、訪れる人々を驚かせ続ける「開かれたハブ」でありたいという願いが、そこには込められている。
「私たちは、アートとの接し方に正解やルールを設けるつもりはありません。むしろ、誰もが作品との個人的なつながりを見つけられるような環境を提供することを目指しています。多様なレイアウトを採用しているのは、それぞれの空間に独自の個性を持たせ、来訪者が自分に合ったスタイルで、アーティストや他の愛好家との対話に加わることができるようにするためです」
「エクレクティック」なキュレーション
ペロタンが扱うアーティストのラインナップは、驚くほど多彩だ。村上隆、加藤泉、タカノ綾といった日本の重要作家をはじめ、ジャン=ミシェル・オトニエル、ソフィ・カル、ピエール・スーラージュ、マウリツィオ・カテラン、エマ・ウェブスターといった、世界を舞台に活躍する巨匠から新鋭までが名を連ねる。現在、76名のアーティストを擁し、さらに37名のアーティストやエステートとも提携している。

ミニマルながらも木材の温かみを取り入れることで、作品を際立たせている
ヴァイヨンは、ペロタンのキュレーションの核にあるのは、創設者の「折衷的(エクレクティック)」な視点だと説明する。
「私たちは、さまざまなバックグラウンド、年齢、キャリアステージを持つアーティストたちと歩みを共にし、その表現手段や素材も多岐にわたります。創設者のエマニュエル・ペロタンが自らの好みを『一貫してエクレクティック(折衷的)』と評するように、ペロタンは特定の運動や世代、あるいは一つの美学に縛られることはありません。複数の大陸にまたがるグローバルなネットワークを活かし、数十年にわたり歩みを共にしてきたアーティストを大切にしながら、同時に現代の若き才能も積極的に支援しています」

この多様な視点は、観客に対して単なる「美」以上の体験を提供することを目指しているという。
「多様なアーティストを紹介することは、私たちにとって不可欠な使命です。なぜなら、多様性こそがペロタンのDNAだからです。多彩な作品を通じて、観客が共感したりインスピレーションを得たりできるような、『新しい視点』を提供できると信じています。世界中から、独自のアイデンティティや考え方を持つ方々が訪れるからこそ、私たちは異なる言語や物語を語りかけるアートを提供したいと考えています。これは単なるアートの域を超え、人と人のつながりを築き、人間の創造性の真の可能性を世に示していくことこそが、私たちの願いです」
アンドレ・フーが手掛けた空間

一面ガラス張りのため、外からでもギャラリーの中が見えやすい
展示空間そのものも、ペロタン東京のアイデンティティを語る上で欠かせない要素だ。その内装を手掛けたのは、香港を拠点に活躍する著名な建築家、アンドレ・フーである。彼はアジアにおける他のペロタンのギャラリーも担当しており、ブランドの美学を熟知している。
「アンドレのデザインは、入りやすさを考慮して通りに面したエントランスを設けるのが特徴です。また、日本の伝統的な茶室から着想を得た『導入空間』を経て、展示室へとつながる構成にすることで、より没入感のある鑑賞体験を創り出しました。また、床から天井まで届く大きな窓も意図的なもので、街を歩く人々が、外からでもアートと関わりを持てるようにデザインされています」

また、デジタル化が加速する現代において、ペロタンはあえて「物理的な空間」の価値を再定義している。ギャラリーを単なる『ホワイトキューブ(白い箱)』ではなく、人とアイデアが交差する場所と捉えているからだ。ヴァイヨンは「人々が画面から離れ、五感を通じたリアルな体験としてアートとつながれる場所を守り続けることは、私たちの責任であると考えています」と話した。
マティルド・ドゥニーズ日本初個展「Time and Light」



最後に、ペロタン東京に足を運びたい人に、現在会期中のマティルド・ドゥニーズによる日本初個展を紹介する。「Time and Light」は、断片を編み直し、異質なものの連続性を探究する彼女の最新の到達点である。
新作《Contours》シリーズでは、過去の「コスチューム・ペインティング」に見られた彫刻的・身体的経験を絵画の伝統的形式へと再注入している。映画の廃塗料から生まれる色彩は、ソニア・ドローネーのシムルタニズムやマラルメの詩的構造と共振し、空間に音楽的なリズムと重層的な時間を生み出す。絵画を固定されたイメージではなく、光や知覚と交わり変容し続ける「出来事」として捉え直す本作は、観る者に静止することのない流動的な風景を提示している。
2027年、ペロタン東京は設立10周年という大きな節目を迎える。ヴァイヨンは、これまでの歩みを振り返りながら、未来への展望を語った。
「私たちの目標は、展覧会やイベントを通じて、現地のアート界に有意義な対話を生み出すことです。コレクターやキュレーターから、美術学生、そしてご家族連れまで、誰もが独自の体験ができるオープンな対話の場を提供したいと考えています。ペロタン東京は、異なる文化や地域の文化機関とのつながりを強め、より活気ある多様なアートシーンの創出に貢献することを目指しています」
ペロタン東京
住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル1階
開館時間:11:00~19:00
休館日:日、月、祝