小原晩【たましいリラックス】vol.10 日光浴

確定申告が終わり、解放感と達成感を胸いっぱいに抱えていた私は、駅前のブックオフに入り、漫画を三冊購入した。腹ごしらえにはなまるうどんに入り、塩豚おろしぶっかけ中と、今日は豪華にとり天もたのんだ。
店員のお姉さんは働き始めたばかりのようで「塩豚おろしぶっかけは、レモン入れますよね?」と先輩の店員さんに聞いている。そうだよ、レモン入れるんだよ。心のなかで、私も返事をする。

阿佐ヶ谷のはなまるうどんにはステージのように小高くなっている場所があり、せっかくなので、その席で食べる。座ってみると、うどんをすすっている人たちの横顔を一斉に見ることができる。いいぞ、どんどん、どんどん、すすってください。そういう気持ちにもなるし、負けじとすすってやろうじゃないの、そういう気持ちにもなる。

はなまるうどんを出て、阿佐ヶ谷地域区民センターの屋上へ行く。
買ったばかりの漫画を読む。日光を浴びる。

子どもが近づいてきては、はてな、という目をする。私は笑いかける。子どもは、はてな、の顔である。私は手をふってみる。子どもはまだ、はてな、の顔である。母親が近づいてくる。すみません、すみません、とあやまられる。なにもあやまることはない。かわいいね。そう思いながら、こちらこそすみません。と声に出す。母親に手を引かれながら、子どもは振り返り、手をふってくれた。

椅子を買いにリサイクルショップを回った。歩いて行ける距離にあるところを3軒ほどである。
すごく迷って、結局は最後に行った店で買った。

配送ではなく、そのまま持ち帰ることにした。そんなに重い椅子ではないので、タクシーに一緒に乗って帰ろうと思ったのである。店の前にタクシーを呼んでいいとも言われたけれど、方向が逆だったのと、タクシーを呼ぶアプリなどを持っていないのもあって、適当に歩いてその辺でつかまえます、と言って歩き出した。

椅子を抱えながら歩いていると、車の中のひとと目が合う。なんだかやさしい目を向けられているような気がする。新生活かい、がんばれよう。そういう目を、向けられている気がする。実際は、ただの模様替えに伴う椅子買いなのだけれど。でも、ありがとう。がんばります。誰かが乗っているタクシーばかりが横を通り過ぎ、そろそろ重くなってきたなあと困ったなあと思っていたとき、文字の光っているタクシーが遠くに見えた。手をあげようとしたそのときには「回送」とはっきり読めた。あげかけた手で、頭をかいた。近づいてきた回送のタクシーの運転手さんと目が合った。運転手さんは、すみません、というふうに頭を下げてくれた。いえいえ、と私も頭を下げた。そのあとすぐにきた空車のタクシーに乗り込み、無事家へ持ち帰った。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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