マドモアゼル・ユリアの 【語るキモノ】Vol.3 特別編 世界の港町を訪ねて

DJとしてファッションシーンで活躍しながら、着物のプロデュースも手掛けるなど多彩な顔を持つマドモアゼル・ユリアさん。アートや建築にも精通したユリアさんが、お気に入りのスポットを訪ね、その場面と響き合う着物のコーディネートを語る連載。今回は国内外の海辺の街を訪れたユリアさんのプライベートショットを公開。それぞれのオケージョンのテーマを秘めた、3都市3様のコーディネートをお目にかける。

オリエンタルな意匠を纏いヴェネツィアへ

格調高い水辺の庭園を想起させる訪問着でガラディナーへ

イタリアが最も心地よい季節を迎える4月。マドモアゼル・ユリアさんが訪れたのは、地中海貿易によって発展を遂げ “アドリア海の女王”と謳われた水の都ヴェネツィア。旅の目的は、雑誌『和樂』(小学館)での取材。「ヴェネツィア・ビエンナーレ2024」のエキシビションとし開催されているハイジュエラー「ブチェラッティ」の展覧会「The Prince of Goldsmiths(金細工の魔術師)」を巡るという内容だ。

艶やかな華文の帯は、まるで「ブチェラッティ」の作品のよう。帯留として用いたブランドの貴重なアーカイブコレクションのブローチとも響き合って。指元にはブランドの真骨頂ともいえる精緻な細工のリングが煌めく。

海洋国家として繁栄を極め、西洋と東洋の文化が交錯したヴェネツィアは、多彩な芸術のエスプリを引き寄せ合い、今なお独創的なムードを放つ。そこでユリアさんが纏った着物は、豪奢な花を色とりどりに染めた訪問着である。

「ヴェネチェアの建築やイタリア伝統の文様などを調べるなかからイメージを膨らませました。この着物に描かれている紋章のような花のモチーフは、ルネサンス期の教会建築にみられる“ローズウィンドウ”と呼ばれる窓ガラスの形状を彷彿とさせます。アーチ状の花のシルエットも、ヴェネツィアに400以上あると言われる橋の曲線美のよう。アクセントカラーとして目を惹くターコイズブルーも、運河や心地よい海風を感じさせます」(ユリアさん)。

鱗紋の刺繍半衿やターコイズブルーの伊達衿など、コーディネートの細部にまで水の都への物語が宿る。

華麗なる訪問着で向かったガラディナーの翌日は、きりりとした紬姿で「The Prince of Goldsmiths」の展覧会場へ。アドリア海の澄んだ海の色を、濃淡のブルーの絹糸に託したかのような紬は、運河沿いを歩くだけで周囲の視線を引き寄せる。

寄せては返す漣を思わせるブルーのグラデーションが美しい紬の訪問着。「八ツ橋」をモチーフとしたべっ甲の帯留も、120以上の島々に運河と橋を巡らせたヴェネツィアらしい断簡に。

合わせた帯はクラシカルな帆船の染め帯。「海洋貿易で栄華を極めたヴェネツィアを物語ります」(ユリアさん)。日本特有の着物にグローバルな物語を込めた着こなしは、ビエンナーレを訪れた世界中の人々の記憶の一片に刻まれたことだろう。

ブランドの貴重なアーカイブである「オペラバッグ」を、高揚感に満ちた視線で見つるユリアさん。金属の表面に刻まれた平行なエングレービングが繊細な光沢を放つピアスも「ブチェラッティ」の逸品。取材の模様はこちらから。

カンヌ映画祭では“鳴り物”の振袖姿でDJナイト

カンヌ映画祭の「JAPAN NIGHT」では、着物姿でDJを披露。 写真提供:YUSUKE KINAKA

南仏コート・ダ・ジュールの高級リゾート地であるカンヌ。毎年5月に開催される国際的な映画祭で世界中から映画人が集結し、街はひと際華やかなオーラに包まれる。ユリアさんがDJとして招かれたのは、日本の映画と文化を世界へ打ち出すとともに、海外の映画業界のクリエイターとの交流の場としてMEGUMIさんにより企画された「JAPAN NIGHT」だ。音楽で場の一体感を繋ぐ役割を担うとあって、ユリアさんが選んだ着物は鼓や笙といった日本伝統の楽器をダイナミックに染めた振袖である。

「楽器と一緒に描かれている人物が、あたかも音楽に合わせて踊っているようにも見えます。9年ぶりに開催された日本主催のパーティに相応しい一枚だと考えました」とユリアさん。

ピスタチオグリーンの地色が落ち着いた印象を放つ大人の振袖 (1枚目)
主催者のMEGUMIさんはシックな黒一色のシックな振袖姿で(2枚目)

鼓や笙など日本の伝統楽器が躍動的に描かれている。

振袖の文様もさることながら、コーディネートで遠目にも際立ったのは、日本を象徴する「赤」の効かせ方だ。贅沢な鹿の子絞りの技法を駆使した深紅の長襦袢や帯揚げが、シックな地色の振袖を艶やかに演出。さらに、注目したのは艶やかな日本刺繍を施した半衿である。実際に纏っている際には全体像が見えず、ユリアさんに尋ねると「雄鶏」の文様だという。果たしてその意図は?

「ルコック(雄鶏)は、フランスのシンボルバード。この半衿は刺繍の手仕事の美しさに一目惚れして購入したのですが、なかなか登場の機会がなく、このような晴れの舞台で日の目を見ることが叶って嬉しいです」と語る。
ユリアさんが奏でるビートに合わせ、雄鶏の鳴き声が高らかに響きわたるシーンを思わず想像してしまう。

存在感のある刺繍衿を、黒の伊達衿が引き締めた絶妙なカラーバランス。

アートに溶け込む大胆な幾何学柄で横浜へ

最後にお届けする港町の着こなしは、7月に横浜で開催された現代アートフェア「TOKYO GENDAI」。世界のアートシーンを牽引する69のギャラリーが集結し、エキサイティングな異文化交流が展開された。この日も着物姿でのDJを依頼されたユリアさんは、涼やかな夏衣で登場。

ファインアートの祭典では、作品を邪魔しないように着こなしにも配慮。

「着物と帯で縞×縞の遊び心を装いました。大胆な配色のようで、幾何学的なモチーフならファインアートにも溶け込むと考えました。柄行が端正なぶん、帯にはビビッドな赤を効かせて大人のマリンルックのような雰囲気を演出」とユリアさん。
茄子紺と生成り色の横段を市松模様のように仕立てた織りの着物が、横浜というノスタルジックな港町に似合う。

ディテールのこだわりは、帯まわり見られる。日本における西洋文化の玄関口として多くの汽船が行き来した横浜をイメージして、緻密な彫金細工による帆船の帯留を選んだ。帯結びは、帯枕を使わない小粋な角出し結びで、お太鼓も小さめにまとめることで、見る人に軽快な涼やかさを感じさせる。きりりとした装いに、夏の暑ささえも凜として感じられるようだ。

帆船の帯留が、さりげなく港町らしいコーディネートを演出。

別名“銀座結び”とも呼ばれる瀟洒な帯結び。

写真提供:マドモアゼル・ユリア

MADEMOISELLE YULIA (マドモアゼル・ユリア)

10 代から DJ 兼シンガーとして活動を開始。DJ のほか、着物のスタイリングや着物 教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活躍中。2023年には友人と着物ライフをお洒落に彩るブランド【KOTOWA】を立ち上げる。YOUTUBE チャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。

OFFICIAL SITE :https://yulia.tokyo
Instagram : @MADEMOISELLE_YULIA

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

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