ギャラリーを周りながら現代アートと東京を満喫できる 1DAY プラン | ART WEEK TOKYO

多様性のある国際都市・東京は、近年、アートの街としても知られるようになっている。そして2021年秋から「アートウィーク東京」がスタート。広く点在するギャラリーをバスで巡るという、東京ならではのアート鑑賞を体験してみた。

アートの街としても注目の東京

蒸し暑い夏が過ぎると、東京は過ごしやすい季節を迎える。晴れの日が多く移動も苦にならないので、観光するには最適である。この大都会には名所やレストランなど多くの見所があり、それぞれ魅力的なのだが、近年はアートの街としてもにわかに注目を集めていることをご存知だろうか。とくに2021年からは「アートウィーク東京」というイベントがスタート。その機運はますます高まっている。

そのアートウィーク東京は、日本の現代アートをさまざまな側面から紹介することで、日本と世界を芸術で結ぶ、というもの。21年はコロナ禍にありながら、4日間で2万人以上の人々が訪れており、世界のアートシーンからも注目を集めている。

東京のアートシーンは、街のあちらこちらにギャラリーや美術館が点在するという、世界でも珍しい特徴を持つ。それを踏まえて、それらを無料のバスで繋ぎ、アートを鑑賞していくというのもアートウィーク東京の楽しさのひとつである。またギャラリーやアートだけではなく、移動時に車窓から見える街の風景も楽しめるという、とても魅力的なイベントでもあるのだ。

第2回となる22年のアートウィーク東京は、「アートバーゼル」と提携することで、より国際的にパワーアップしている。会場も、第1回から参加する、東京国立近代美術館、森美術館、東京都写真美術館、アーティゾン美術館、ワタリウム美術館、東京オペラシティアートギャラリーなどに加え、2023年から国立新美術館、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、資生堂ギャラリー、銀座メゾンエルメスフォーラムなどが参加。東京を代表する美術館が出揃った。

またギャラリーも、東京の現代アートシーンに貢献してきた東京画廊+BTAPやオオタファインアーツから、新進の無人島プロダクション、TakeNinagawaまで、充実したスペースが揃う。さらには、現代美術家・村上隆率いるカイカイキキギャラリーも参加するなど、東京ならではのバラエティに富んだラインナップとなっている。

美術館、ギャラリーは広域にわたって存在する

先に述べたように、それらの美術館、ギャラリーは広域にわたって存在するので、シャトルバスが用意されており、10:00~18:00の間、15分間隔で運行されている。ルートは6つ設けられていて、運行状況やルートマップ、会場案内などは、アートウィーク東京の専用アプリで手軽にチェックすることができる。もちろん無料なので、誰でも手軽にダウンロードできる。

『ゼロマイル』は、このアートウィーク東京を紹介するにあたり、A~Fまである6ルートの中からCルートを選んで、実際に参加してみることにした。 

https://www.artweektokyo.com

シャトルバス

Cルートを選んだ理由は、出発点の東京都現代美術館が東京の中でも上質なホテルが集中する中央区、港区から近いということ。徒歩で行ける場所にあるホテルも多く、タクシーに乗っても大体15分以内に行けるからである。そしてもうひとつが、東京都現代美術館の目の前には皇居があり、その一角である皇居東御苑をまず観たいからだ。ここにある美しい二の丸庭園や、かつて江戸城があった場所の風情を感じ、そこから美術館巡りをスタートさせるのもいいのでは、と考えたからだ。


その皇居東御苑だが、ここはかつて15代に渡って君臨した将軍、徳川家の居城だった場所。現在も皇居の一角という重要なところだが、皇居付属庭園として一般に開放されている。江戸城は1457年に太田道灌という武将によって築かれ、その約130年後の1590年に当時有力な武将だった徳川家康の城となった。そして約10年後に日本を平定し将軍となった徳川家によって拡張され、以後260年間、日本の政治の中心となっている。もちろん日本一大きな城でもあり、総構周囲は16kmもある。現在のような皇居となったのは1869年からである。

地下鉄大手町駅のすぐ近く

皇居東御苑へは大手門から入る。ここはかつて江戸城の正門であったところ。現在は東京有数のビジネス街でもある大手町に隣接し、地下鉄大手町駅のすぐ近く、東京の鉄道の玄関口でもある東京駅からも歩いて数分という場所だ。

大手門

渡櫓門 (提供:宮内庁)  大手門の内側に設けられた門で、門の上の渡櫓(わたりやぐら)の中から侵入者を狙い撃ちできる仕組みだ

苑内に入ると当然ながら高い建物がまったくなく、空が広い。いわゆる庭園なので当時の建物はほぼ残っておらず、現存するのは富士見櫓くらいとなっている。櫓は、戦時に周囲の警戒・物見として使われていたものだ。ただ石垣はそのまま残っており、改修した時代によって石の形や積み方が異なる。古い時代は石に丸みが残っておりやや雑な感じだが、新しい時代のものはより直線的で、キッチリ隙間なく積まれている。こういった石積みの技術の違いを見るのもおもしろい。

富士見櫓(提供:宮内庁)  関東大震災で倒壊したが、大正14年(1925)に修復された

隙間なく積まれた石垣(提供:宮内庁)

見所は、やはり二の丸庭園や雑木林、竹林など、日本的な庭園の佇まいであろう。とくに二の丸庭園は、京都・二条城二の丸庭園などの名庭を手がけた茶人・小堀遠州が1630年に造成したものを、当時の図面を元に忠実に再現している。

奥に進むとかつて城のシンボルである天守閣が築かれた天守台が残っており、その面前には芝生地(大芝生)が広がっている。ここには大奥と呼ばれる将軍の寝所が置かれた建物があり、江戸城の中でもとくに重要な場所だった。直近でもその大芝生で、今上天皇が即位継承に際して行う宮中祭祀「大嘗祭」が行われているなど興味深い広場だ。

天守台からの眺め(提供:宮内庁)  手前が大奥跡、奥が本丸大芝生。高層ビル群と重なる景色が、過去と現在が地続きだということを示しているかのようだ。

古の江戸城に想いを馳せながら、北桔橋門をくぐり東京国立近代美術館へと向かう。ここは隣接する北の丸公園内にあるので徒歩で。北の丸とはかつて江戸城の一角だったところで、同じ敷地内には日本武道館も存在する。

近現代の美術作品を随時コレクション

東京国立近代美術館は、1952年に開館。近現代の美術作品を随時コレクションし、常時展示した日本で初めての美術館。その数は、絵画、彫刻、水彩・素描、版画、写真など、実に1万3000点以上に及ぶ。22年のアートウィーク東京開催時は、「大竹伸朗展」が開催されていた。

大竹伸朗は1980年代初めにデビューし、絵画、彫刻、映像、絵本、インスタレーションなど、さまざまな分野の作品を制作してきた現代美術家。彼の作品の特徴は、平面や立体を問わずいろんなものを貼り付けたり、剥がしたりと、コラージュしながら何層にも重ねられ、量や密度を増して作られる、その「密度」の濃さにある。
今回の展示は、06年に東京都現代美術館で行われた「全景1955-2006」以来の大規模回顧展。初期の作品からコロナ禍に制作された最新作まで、約500点の作品が一堂に会しており、絵画などのモノとノイズミュージックなどの音で構成された不可思議な空間だった。

朝スタートして皇居東御苑、東京国立近代美術館をまわると、ほぼお昼時。ランチを取る場合は近代美術館内にある「ラー・エ・ミクニ」がオススメだ。三國清三シェフがプロデュースする、フレンチとイタリアンの融合をコンセプトとした料理が堪能できるレストランだ。人気の本格派フレンチ「オテル ドゥミクニ」(22年12月閉店)のレストランだが、カジュアル路線なのでそれほど重くなく、ランチには程よい。店内は道路側が全面ガラス張りになっていて、皇居の樹々を眺めながらの食事は、料理の味だけでなく、心もリラックスさせてくれる。

Cルートは東京の東側、下町をまわる

ランチを終えると、いよいよバスに乗ってCルートを巡回する。Cルートは東京の東側、都心と下町を結んでおり、我々は下町方面へと向かう。ひとつ目は日本橋三越前エリアのタグチファインアートだが、時間の都合でパスし、まず向かったのは、次の墨田区江東橋にある無人島プロダクション。建物は大きくないが、黒い木造建築は小さな工場と民家が混在し、バラエティに富んだ建物が並ぶこの地区でも一際目を引く。

取扱作家は八谷和彦、八木良太、Chim↑Pom、風間サチコ、臼井良平、朝海陽子、田口行弘、松田修、加藤翼、小泉明郎、荒木悠の1組と10名。アートウィーク東京期間中は、臼井良平の「路上の静物」を展示。ペットボトルなどのプラスティック製品を、ガラスで再現した彫刻作品が、街の風景から切り取られたシチュエーションと組み合わされ、独特の世界観をつくり出していた。

臼井良平の作品  水が入っているかのような気泡も計算の上、ガラスで作られている

無人島プロダクションを後にすると、次は最近アートの街として知られる清澄白河のカナカワニシギャラリーに向かうのだが、この区間はバスではなく徒歩で行きたい。なぜなら、江東橋という地名でもわかるように、この辺りは水路が多い。無人島プロダクションは水路=大横川沿いだし、江東橋から目的の清澄白河までは南にまっすぐ大横川が走っている。カナカワニシギャラリーも水路に近いところにあるからだ。

清澄白河は、緑が多く風情のある街並みが都会の喧騒を忘れさせてくれる、と近年人気のスポット。水路沿いにゆったりと徒歩で街の雰囲気を味わうのもオツである。ギャラリー間は距離にして約1kmというところで、ゆっくり歩いても15~20分といったところだろう。

モダンな空間にコンセプチュアルな作品

カナカワニシギャラリーは小名木川から50mほど入った4階建てのビルの1階にある。コンクリート打ちっぱなしの外壁があるモダンな空間には、コンセプチュアルな作品が並ぶ。
この日は「フィンセント・ファン・コッホの自画像」のダウンロード画像を、オリジナルと同寸法のキャンバス地にヒストグラムで描いたという作品を展示。コンセプトは「現代の写真とは何か?」ということだった。ギャラリーが取り扱うのは、若手日本人作家から国際芸術祭等で活躍する海外の作家まで幅広いようだ。

カナカワニシギャラリー

今回のアート散策は、同時に街の雰囲気を味わうことも目的のひとつ。この清澄白河は、アートだけではなく、コーヒーの街としての顔も持つ。そもそも清澄白河にアートギャラリーが増えたのは、この地が水運の拠点で倉庫が多かったことに大きな要因がある。運搬に便利な上、柱がなく天井が高い倉庫は、ギャラリーにもってこいの空間だった。輸送の中心が水運から陸運に変わったことで、空き倉庫が増え、ギャラリーに変わっていったというわけだ。
そんな倉庫には焙煎機の排煙ダクトが設置しやすいというメリットがあり、さらに水路側にそのダクトを向けることできるということもあって、多くの本格派カフェが店舗を構え、注目を集めてきたのだ。
そして、多くのカフェが軒を連ねる清澄白河で、我々が選んだのが2012年にオープンしたThe Cream of the Crop Coffeeだ。大横川沿いにある倉庫を利用したカフェで、巨大な焙煎機が鎮座する店内は、カフェというよりも焙煎工場の一角でコーヒーを飲むという感じだ。まさにこの地区のカフェの特徴を象徴している店構えである。

大きなガラス張りのファサード

カフェで一服すると、次は同じ清澄白河のサトコオオエコンテンポラリーへ。ここは2016年に設立された現代美術を扱うギャラリー。大きなガラス張りのファサードは、路上から中を窺うことができるほどである。これは「街の人々や社会の記憶にのこる場所として存在する空間を目指すこと」を意識して設計されたという。
当日の展示は、名画の特徴を繰り返し自作に用いることで、その個性を不可視化していく塩原有佳と、その対局の仕事をすることで個性を可視化していくという石井祐果という若手による二人展だった。サトコオオエコンテンポラリーは、国内外のアーティストと協働し、展覧会を実施しているのだという。

サトコオオエコンテンポラリー

そして最後は、この地区がアートの街と呼ばれるキッカケとなった東京都現代美術館へと向かう。ここへも歩いて数分の距離である。東京都現代美術館は、木場公園の北辺に位置する公立美術館で1995年にオープンしている。約5500点の収蔵作品があり、現代美術コレクションを中心に大規模な国際展をはじめとする特色のある企画展示を行なっている。展覧会では、絵画、彫刻をはじめ、ファッション、建築、デザイン、アニメーションなど、幅広いジャンルを扱っているのが大きな特徴だ。また、美術図書室の蔵書は約27万冊を揃えており、美術に関する情報提供、教育普及を目的としたワークショップや講演会なども盛んに行われている。

モダンで魅力的な建物

https://www.mot-art-museum.jp

このモダンな東京都現代美術館は、ファッションシューティングのロケ場所やラグジュアリーブランドのイベント会場としても利用されることが多い、魅力的な建築物でもある。2015年にマイケル・ジョーダンが来日し、「エアフォース1」誕生30周年の記念イベントを開催したのもこの美術館であった。

アートウィーク東京期間中は、「MOTコレクション」展を開催。“コレクションを巻き戻す”と題した展覧会は、1960年代へと遡り、75年に都美術館の新刊が開館し、作品収集や企画展が本格化する頃までを、館の歴史や作品の展示をめぐるエピソードとともに辿っている。さらに75年~90年代にかけては、リチャード・ロングや遠藤利克らの作家たちとの関わりから収蔵された作品を展示していた。

『ゼロマイル』の2022年アートウィーク東京散策はここで終了した。ただバスのルートはこの後、同じ地区のハギワラプロジェクツ、大手町のSMBC Private Wealthと続くので、それぞれそこに寄ってもOK。東京都現代美術館で終わっても、都合の良い場所までバスで行くのがいいだろう。

今回のアートウィーク東京ではCルートを選択したが、他にも5ルートある。そのルートを見ると、六本木、表参道、新宿、銀座から、目白、駒込、根津、巣鴨まで、東京の主要エリアの多くをカバーしていることがわかる。

冒頭に「東京のアートシーンは、街のあちらこちらにギャラリーや美術館が点在する」と書きながら、少々大袈裟かな、とも思っていたが、よくよく調べ、こうやって巡ってみると、あながち間違いではないようだ。1 日かけてゆっくりとルートを 2、3 選択し周れば、それだけでけっこう多くの東京を観ることができる。アートウィーク東京は、今後も秋の開催を予定しているので、東京を訪れる際はこの時期を選べば、アートと街散策の旅が楽しめる。是非、オススメしたい。

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Ryoji Fukutome

編集者・ライター。ファッション誌の編集に携わり、「エスクァイア日本版」副編集長を経てフリーに。2011年には「GQ Japan」シニアエディターを務める。毎年スイスのジュネーブ・バーゼルで開催される時計の見本市に参加。時計ブランドの本社や工房を取材することも多く、ブランドが持つ文化や時計の魅力を寄稿している。

Photo by Shiho Yabe 矢部 志保

ドイツでの日本語教師を経て、ポートレート、ライブフォト、旅写真を手がけるフォトグラファーとなる。渡辺貞夫、田原俊彦、香取慎吾など多くのミュージシャンのジャケット写真、アーティスト写真を撮影。BTS、BIGBANGやクインシー・ジョーンズなど海外アーティストの撮影も多数。趣味は料理とDIY。奈良県出身。
Instagram @shihoyabe

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