小原晩【たましいリラックス】vol.7 あの頃

しゃぶしゃぶ温野菜で次々と運ばれてくる豚肉や牛肉や葱やえのきやチーズをしゃぶしゃぶとしていると、なんだかすごく懐かしい感じがする。

「サッカー部の打ち上げでさ、Aがずっとアクとってくれてて『なんであたしだけがずっとアクをとらなくちゃならないの』って怒ってたことあったよね」

「好きでとってるんだとおもってたって、あんた言ってたよ」

「何それさいてい」

「ほんとむかつく」

すみませんね、と言いながら今日はわたしがアクをとる。完璧にはとりきれないけれど。
温野菜でよるごはんを食べるのは5年ぶりのことで、Aがアルバイトしていたのは8年も前のことだ。Aはわたしの数少ない友だちのひとりで、高校時代は毎日ふたりで過ごしていた。

今日はやっぱりソフトドリンク

しゃぶしゃぶ(とすき焼き)をお腹いっぱい食べたわたしたちは、ゲームセンターに入り、プリクラを撮ることとした。高校生のときは、時間ができればせっせと八王子のPIAでプリクラに勤しんでいたことを思い出す。すごく真剣だったことを思い出す。

プリクラの階までは階段でしか上がれないようになっていて、ふたりではあはあ言いながら必死で階段をのぼると、そこには真剣な顔をした女の子たちがわんさかといて、その緊張感、そのぴりぴりとした感じに、私たちはほんのりビビっていた。遊びできていい場所じゃない。
あの頃。顔にも体にもコンプレックスがたくさんあって、それをあっという間に補正してくれるプリクラにうつる自分こそがほんとうの自分だと思っているところがあった。
真剣そのものの顔をしている女の子たちのことをわたしはぜったいに馬鹿にしない。君たちはうつくしいよ。自分の手でヘアメイクをせっせとなおす女の子たちに、バレない程度に視線を送る。

プリクラの看板になっている女の子たちが誰なのかわからなくなっていることに驚いて、でもあれから10年も経ったのだからあたりまえだのクラッカーよね、とも思いながら、ポーズや表情に終始照れながら撮影を終え、ラクガキにはひとつだけ「27」と書いて終わった。

出来上がったプリクラはさすがにかわいくて、「まじたのしかった」「また撮ろ」とたくさん笑って、大満足だったのであった。

〆はカラオケへ行った。ふたりでカラオケに行くのもほんとうにひさしぶりで、お互いが曲を入れるたびに、「ああっ」とか「おお〜」とか「そうくるか」とか言って、あの頃歌っていた曲ばかりを入れて、もちろんいまでもふつうに歌えて、合いの手までかんぺきなのだけれど、わたしは高いところがまったくでなくなっていて、Aはひとりカラオケにときどき来ると言っていたからその成果かしらないけれどあの頃よりも歌が上手くなっていて、「ふん、あんた良い歳のとりかたしたね」と褒めたくなったのでそう褒めた。

終わり際、西野カナさんの『Best Friend』という曲をわたしが入れると、Aは『私たち』という別の西野カナさんの友情ソングを入れるという、他人からするときもちわるいかもしれない流れがあるのだけれど、今回は時間配分の失敗したため、『Best Friend』ぶんの時間しかなかったので、一画面ずつかわりばんこで歌って、〆た。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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