チームラボボーダレス麻布台ヒルズ、いよいよオープン!進化した超没入空間を体験レビュー

2024年2月9日、麻布台ヒルズの「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)」がオープンを迎えた。新作を含む約50点もの作品が、更に深い没入感と、インタラクティブな体験を与えてくれる。

「さまよい 探検し 発見する」

エントランスに近づくと、「teamLab Borderless」という言葉が天井や壁に歪んでペイントされているのが見える。ある一点から眺めた時に、文字が整列しロゴが整体するアナモルフォーシスという手法で描かれており、その文字をカメラで撮影すると、まるで文字が浮かび上がっているかのように見える。

《人間はカメラのように世界を見ていない》 エントランス「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」東京 麻布台ヒルズ © チームラボ

右側の壁には、《人間はカメラのように世界を見ていない》という言葉がある。これはチームラボのはじまりから一貫して彼らが模索しているテーマに関わるもので、レンズを通して世界を撮ると、表示される面が境界になって、境界の向こう側にレンズで切り取った空間が出現するという概念を探求したものだ。人間はこの世界をどう認識しているか、認識と身体がどのように関わるのか。人々は平坦化された一連の画像のように見える空間を体験するが、それは体験と視点に応じて絶えず変化する。ミュージアムの中に足を踏み入れる前に意識しておくことで、より深い洞察が得られるだろう。

廊下をさらに進むと、地図のない美術館に入るための暗い廊下に足を踏み入れる。壁に浮かび上がる「さまよい 探検し 発見する」という言葉は、チームラボボーダレスの作品の楽しみ方を教えてくれてるヒントのようだ。

*別角度から撮影

インタラクティブな没入空間

青白くひかる階段を下り、無数の花が舞う通路を進むと、大きな円形の空間に到着する。この空間には中央に岩のような構造物があり、4つの異なる作品を体験することができる。その中の1つ«人々のための岩に憑依する滝»では、水が岩に流れ落ち足元の地面を流れていく。人が作品の上に立ったり、作品に触れると、水の流れも影響を受けて変化する。また、水とともに壁を流れてくる「蝶」や「鳥」などの漢字は、触れると文字の通り蝶や鳥が出現する。

チームラボ「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」 2018-2022 東京 お台場 ©チームラボ

入ってすぐに辿り着くこの空間は、この後に続く世界観を設定し「境界なく連続する世界」という概念を強調する。廊下で見た花のモチーフもこの場所に現れ、他の作品に影響を与えている。鑑賞者と作品の境界だけでなく、作品と作品同士も互いに境界を超えて混ざり合っていく。限りなく広がっていく世界を作りだす緻密なディティールは圧倒的だ。空間の中央に立っていると、現実の世界から離れた静かな場所に運ばれたような感覚になった。音、香り、空間を楽しみ、作品が相互作用に反応する様子を眺めているだけで、あっという間に数時間過ごしてしまいそうだ。滝のそばの緑の小道にいるかのような清々しい心地よさを感じられる場所となっている。

人間と自然の共存

廊下や広い空間を移動すると、人間と自然の関係に深く関わる無数の作品に出会う。
«花と人、コントロールできないけれども共に生きる – A Whole Year per Hour»では、四季折々の花が咲き誇っては枯れ、移ろいでいく。人々が花に触れたり踏んだりすると、花は一斉に花びらを散らし枯れてしまうが、じっとしていると花はより多く生まれる。

チームラボ «花と人、コントロールできないけれども共に生きる – A Whole Year per Hour» © チームラボ

この作品は、国東半島の花々が咲くのをみて、どこまでが自然で、どこからが人為的なのかという疑問から着想を得たという。チームラボは、そのきわめて曖昧な境界に、自然のルールに寄り添ったかつての人の長い営みを見た。自然と人間は対立した概念ではなく、心地良い自然とは、人の営みも含んだ生態系なのではないだろうかと。
私たちの周りの世界は常に変化しており、制御を超えて繰り返すサイクルがある。日常生活で認識していることではあるが、しばしばそれを忘れてしまう。訪れた人がすべて吸収したり、作品と対話したりするかどうかに関係なく、人生のサイクルの考察と、自然と人間の共存の探求のきっかけになる体験だ。

認識と知覚と存在

新作のひとつ«Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 – ワンストローク»は、チームラボの新たなアートプロジェクト「認識上の彫刻」をテーマに、認識、知覚、存在の概念にさらに深く入り込んだ作品だ。鏡によって無限に続くかのように見える空間は、無数の球体によって埋め尽くされている。

チームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境によって生み出される光 – ワンストローク》©チームラボ

球体の中には、明るさや質感、動きなどが異なる光がそれぞれ閉じ込められていて、脈動するかのように明るさを変えて空間を照らす。物質的な実体のある光と、反射によって光る、われわれの認知上にだけ存在している光が同時に視界を埋め尽くす。球体が光ると空間は完全に照らされ、それぞれの球体がカプセル化された銀河のように輝く。じっくりと時間をかけ、空間を移動する認知上の光の軌跡を辿ると、どこまでも無限の広がりを見せる荘厳な世界に飲み込まれそうになる。

もうひとつの「認識上の彫刻」«マイクロコスモス -ぷるんぷるんの光» では、暗闇の中にぼんやりと揺らめくゼリー状の光を含んだ透明な球体が走り続ける。「構成要素が空間的・時間的に離れていたとしても、全体に異なった秩序が形成され、重なり合う時、それは、宇宙か?」を模索する作品となっている。

チームラボ《マイクロコスモス – ぷるんぷるんの光》©チームラボ

レールの上を際限なく動き回り、無数の球体がシンクロしたように同時に光る様子は、催眠術のように魅惑的で個人的なお気に入りの作品だ。鏡、磨かれた金属とシンセを多用した空間音楽は、SFの世界に入り込み宇宙空間を旅しているような感覚を呼び起こす。Bubble Universe の温かみのある空間とはまた違う、神秘的な空間だ。

光の彫刻

無数のスポットライトが配されたトンネルのような「光の彫刻空間」では、いくつかの作品が異なる間隔で投影され、各作品で異なる色彩や音、光の形が現れる。
《彩色球体》という作品では、光が収束し、視界の中心に浮かぶ渦が生まれる。鮮やかな色調で輝き始め、ゆっくりと揺れる渦を眺めていると、中心に吸い込まれるような不思議な感覚が味わえる。壁から伸びる光によって形成されているにも関わらず、虹色の渦は独立して存在しているように見える。構成要素である光が外側に流れ続けていても、その一部に連続性や秩序があると一つの存在として認識されるという、知覚と存在の複雑さを強調する作品だ。

この他にも光の彫刻の作品はそれぞれ異なる魅力があり、それらの背後にある概念をより深く掘り下げることで、自分自身も深い発見を得られる。作品ひとつあたりは数分程度で終了し、次の作品が始まる。その度すっかり引き込まれてしまい、時間の感覚を忘れてその造形や色彩に釘付けになってしまうほど圧巻だった。時間の関係で全ては見られなかったが、もう一度訪れてすべての作品をこころゆくまで堪能したいと思う。

チームラボ《Light Vortex》©チームラボ

芸術、科学、技術、自然界の交差点

チームラボのバイオグラフィには” 集団的創造によって、アート、サイエンス、テクノロジー、そして自然界の交差点を模索している国際的な学際的集団。” とある。一見しただけでは、アートと自然界の交差がメインに見えるので、サイエンスとテクノロジーの重要性を見落としてしまいがちだ。
《生命は闇に咲き闇に帰る微小な光》 という作品は、暗闇に浮かぶ赤い花の咲く立方体で満たされた空間に観客を誘う。あらかじめ記録された映像を再生しているわけではなく、実際にはリアルタイムで画像が生成され、人々のふるまいの影響を受けながら、花々が誕生と死滅を永遠に繰り返していく。これを可能にしているのは背後にある複雑なアルゴリズムだ。アートとテクノロジーの融合がチームラボの世界を生み出している。

チームラボ《生命は闇に咲き闇に帰る微小な光》©チームラボ

先ほど紹介した「マイクロコスモス -ぷるんぷるんの光」の入り口には、フロアプランとその動作がリアルタイムで表示されている。このアート空間を作り出しているのは、アーティスト、CGアニメーターだけでなく、プログラマ、エンジニア、数学者、建築家など、様々な分野のスペシャリストが技術の魔法を作り出すために協力していることがわかる。

チームラボボーダレスの作品にはキャプションがなく、このような技術的側面が作品の前面に出ることはないが、teamLabのアプリを使用すると各作品の背後にある情報にアクセスすることができる。また、さらに深く作品に参加することができるので訪れる前にインストールしておきたい。

他にない体験

「EN TEA HOUSE 幻花亭」では、柔らかな光の雰囲気の中でお茶が提供され、その器の中に花が咲く。器を手に取ると花は散り、器の外へと広がっていく。チームラボの世界に滞在したまま休憩できるのが嬉しい。

来場者が自分のスケッチを海に泳がせる「スケッチ・オーシャン」も復活。特定のスペースだけでなく、境界のない館内のどこかでふいに自分のスケッチに出会うかもしれない。
「スケッチ・ハウス」では、ゲストが自分の訪問を記念してTシャツやトートバッグなどのパーソナライズされた商品を手に入れることができる。

訪れる度に異なる作品

チームラボ ボーダレスでは、散策や観察を通じてすばらしい体験を提供しているが、作品の概念や根底にあるテーマを探求すると更に深い洞察を得ることができる。ミュージアムの広さと作品の多さを考えると、全てを見尽くすにはかなりの時間が、場合によっては複数回の訪問が必要となるだろう。
しかしこの空間は、エントランスに掲げられた言葉「すべては無限の連続性の中に存在する。そして、連続していることそのものが美しい」を反映し、自然と同様に絶えず変化し続け、二度と同じ訪問はないことを保証している。

自然と接する時のように、リラックスして鑑賞することも、普段の環境から抜け出して夢のような世界に 1 日入り込むことも、より深いテーマや問いについてじっくり考えることもできる。一人で探索しても、友人や家族と一緒でも、何度でも繰り返し楽しむことができる魅惑的な体験だ。

チームラボ ボーダレスは、アートとテクノロジーが人々を結びつけ、ゲストを作品の一部にすることで、自然や世界との関係を再考させるきっかけとなることを示してきた。麻布台ヒルズへの移転リニューアルにより、境界のないミュージアムはよりイマーシブでインタラクティブな体験を提供する。再びあの世界に訪れ、さまよい探検した果てに、次は何を発見するのだろう。

森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス
公式サイト:https://www.teamlab.art/e/borderless-azabudai/

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Vince Lee

オーストラリア出身、東京在住。世界がどのように形作られているかに好奇心を持ち、過去や未来について考察を巡らせている。文化、音楽、自然に興味を持ち、レコードバー、美術館、海や山で時間を過ごすことを愛す。

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