小原晩【たましいリラックス】vol.4 人生の打ち上げ

渋谷でともだちと待ち合わせた。午後三時である。

まずはともだちの行きたい店へついてゆき、透け透けの青ニット、グレーニット、ピンクニットを試着しているともだちを見てたのしむ。「青すぎる」「それがいちばん似合ってる」「それは二番目に似合ってる」と野次を飛ばす。青すぎるニットを試着したともだちに「新しいです」と店員さんは野次を飛ばしていた。

グレーニット(透け透け)を買ったともだちと、次はどこへ行くか話し合うため、紅茶のおいしい店へゆく。あたたかいミルクティーを飲みながら、結局は世間話をしてしまうのはなぜだろう。ミルクティーのせいだろうか。

次はどこへ行くか決まらないまま外へ出て、私たちはLOFTへ吸い込まれた。二階のコスメ売り場を練り歩き、はじめてクッションファンデーションを買う。ひさしぶりにチークを買う。使いこなせるはずのない美しいアイシャドウパレットを買う。すごい買うじゃん……わたし……とすこし興奮する。きょ、今日は人生の打ち上げなんだ。だからいいんだ。気にするな。打ち上げろ。打ち上げろ。打ち上げろ。

勢いづいた私たちは、以前からわたしが気になっていた香水を買いに、スクランブルスクエアへ向かった。
めあてのお店で、めあての香水を嗅ぐと、なんだかこれは違うんじゃないか。そういう気持ちになり、眉間に皺がぐっとよる。ためしに他のものも嗅ぐけれど、うーん、こういう匂いが好きなんだっけ。と思いながら、右の手首と左の手首に、それぞれ違う香水をふってもらう。香水は肌に馴染むと香りが変わったりするから、ということですこし時間をおくために他のお店をまわる。

化粧品売り場で、真っ青のラメと、パープルのカラーマスカラを試すともだちを見てたのしむ。下まつげに試そう! ということになったのだけれど、ともだちは、もともとボルドーのカラーマスカラをつけていたので、まずは落とすところから。なのだけれど、販売員のおねえさんが手こずり、ほんのすこしの気まずい感じになったので、おねえさんのまつ毛のカールを褒めてやり過ごす。あまりにもうまくとれないものだから、販売員のおねえさんAが販売員のおねえさんBを呼んできて、代わりにやってもらう。のだけれど、伝達がうまくいってなかったようで上まつげをごっそり落とされているともだち。気まずい。気まずすぎる。息をとめて笑いをこらえる。ともだちは平気な顔をしている。さすがである。

おねえさんAが急いで走ってきて「下まつげだけですっ」と言いにくる。「あら失礼しました」と落ちつきはらっているおねえさんB。ともだちは真っ青のラメだけ買っていた。
その後、わたしは香水を買い、ともだちはイヤーカフも買った。散財、散財。

そろそろご飯へ行こうと歩いて奥渋へ。予約もしていないし入れるわけがないと言いながら一応アヒルストアをのぞいたら、空いていたので、嬉々としてカウンターに座る。何やら素敵そうなワインをぐいぐいのんで、ウフマヨ、パテ、アボガドとタコ、空芯菜、おいしいパンを食べる。


酔いもそこそこにアヒルストアを跡にし、コーヒーをのみにいく。わたしはお酒をのんだあとの、あたたかいコーヒーがほんとうに好きだ。店内は空いていなかったので、テラス席に座る。小雨が鎖骨に降る。すぐに止む。ほっとする。コーヒーをのみおわっても、まだひとりになりたくなくて、すこし歩く。ともだちは付き合ってくれる。公園のブランコにふたりでこしかける。歌いながら、ブランコを漕ぐ。


夏が終わる頃には 全部がよくなる 全部がよくなる 全部がよくなる 君がそのまま そのままそばにいてくれたら いつか終わる頃には 全部がよくなる 全部がよくなる 全部がよくなる

ほぼ祈りみたいに他人のつくった歌をうたう。ふたりで歌う。思いきり漕ぐ。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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