20年以上クラブDJとして活動するDJ SHUNSUKEが、渋谷のディープなカルチャースポットを紹介する連載【Shibuya Deep Dive】。記念すべき第一回となる今回は、DJ SHUNSUKEにとっても思い入れの深い場所「next. records」を尋ねた。

かつて世界一のレコード街と呼ばれた渋谷宇田川町。中でも「シスコ坂」と呼ばれる小道はレコードショップCISCOの名前が使われている坂であり、CISCOを始め多くのレコードショップが並ぶエリアだった。
そんなシスコ坂に、音楽フォーマットの変化により激減したレコードショップの中でも「オリジナルの12Inchシングルレコード」に強いこだわりを持ち営業を続けるレコード店がある。それが「next. records」だ。
20年以上前の開業当時からアナログレコードを買いあさるクラブDJから一目置かれ続けるこのお店。オーナーの今本さんにnext. recordsのこれまでのこと、これからの事をインタビューをした。

next. records店主 今本さん
SHUNSUKE:
レコードブームだった2000年頃にnext. recordsを開店されたそうですが、そもそもレコード店を始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
今本:
もともと趣味でレコードを集めてたんです。CDでは手に入るけど、レコードではなかなか見つからない曲ってあって、そういうのをコツコツ集めてました。そんな時、友人の兄に「海外にレコードを買いに行くけど一緒に行かない?」って誘われて。実際行ってみたら、日本では見かけないレコードが山ほどあって衝撃でしたね。それ以来、定期的に買い付けに行くようになりました。
SHUNSUKE:
そこからどうやってビジネスに繋がったんですか?
今本:
その友人の兄が大阪でレコード店を始めて、今のnext. recordsのビジネスパートナーが店舗の運営を担当することになったんです。最初はあまり売れなかったらしいんですけど、東京から来たお客さんが大量に買っていくようになって、「これは通販をやるべきじゃないか、手伝ってくれないか」って声をかけられて。当時、自分は広告デザインの仕事をしてたので、カタログを作って通販部門の担当を始めたんです。96年くらいですね。
その後、大阪の姉妹店のような形で渋谷で「Boon Coon Records」と言うレコード店をやっていた今のnext. recordsのビジネスパートナーから「忙しくて買い付けに行けないから手伝ってくれないか」と声がかかって。タイミングも合ったので上京して、話し合った結果、その店を閉めて二人でnext. recordsを立ち上げました。

SHUNSUKE:
そのとき借りたのが、宇田川町にあった旧店舗の場所なんですか?
今本:
そうです。実は物件探しが本当に大変で…当時「Boon Coon Records」は公園通りにあったんですけど、やっぱりレコードといえば宇田川町が聖地。だから「next. records」をやるなら絶対宇田川町で、ってこだわってました。でもそのエリアは空きが出てもすぐに大手に押さえられるような状況で、なかなかチャンスがなかったんです。
SHUNSUKE:
そんな中で、どうやって今の場所を見つけたんですか?
今本:
たまたま旧店舗が入っていたアパートで、前の店の内装をそのまま引き継ぐ形で入れることになって。ようやく理想の場所でスタートが切れました。オープン後は今のパートナーが買い付けメインで、僕も行くことはありましたけど、彼は2週間買い付けて帰国したらまたすぐ次…っていう超ハードスケジュールで、本当に体が心配でしたよ。


12インチシングルの魅力
SHUNSUKE:
12インチシングルにこだわったセレクトをされてますよね。その理由ってどこにあるんでしょうか?
今本:
最初は普通にアルバムを買ってたんです。でも全部の曲が良いとは限らなくて、シングルに興味を持ち始めたんです。そしたらアルバムとは全然違うバージョンが収録されてたりして、「これ、すごいぞ」と。12インチシングルって、独特のエディットが魅力なんですよね。しかも、一度売り切れたら再プレスされないことも多くて、それもコレクター心をくすぐるんです。

SHUNSUKE:
US盤のイメージもありますけど、UK盤も買い付けてたんですか?
今本:
そうなんです。ヨーロッパでもたくさん買ってました。当時、UK盤って日本にあまり入ってきてなかったんですけど、現地だとレアなバージョンも安く簡単に手に入った。そういうルートが、結果的に店の強みになったと思います。
SHUNSUKE:
ジャンルも幅広く扱ってますよね?
今本:
ジャンルにはあんまりこだわってなくて、こだわりがあるとしたら「12インチシングルがあるかどうか」だけ。ヒップホップからU2、プリンス、ハウス、テクノ、ジャズまで、全部扱います。でも12インチシングルがなければスルーします。
SHUNSUKE:
音楽自体が好きというより、12インチシングルが好き?
今本:
そうなんですよ。たまに「音楽好きでしょ?」って言われるけど、実はそうでもなくて。いい曲でも12インチシングルが出てなければ一気に興味がなくなる(笑)。アルバムにもライブにもそこまで惹かれないんです。結局、僕が好きなのは音楽というより“12インチシングルそのもの”なんですよね笑


市場の変化
SHUNSUKE:
最近のレコード人気についてどう感じていますか?
今本:
メディアの影響は大きいですね。かつてレコードを買っていた世代が、子育てなどを経て再び戻ってくるケースも多いです。そういう人たちは音楽の聴き方を自分なりに持っていて話が早い。一方、最近初めてレコードに触れた人は、流行から入る人が多くて、選び方が表面的になりがちです。
SHUNSUKE:
定番曲ばかり選ばれがちというか。
今本:
そう。代表曲だけで終わってしまうのはもったいない。もっと掘ればいい曲はたくさんあります。昔は知らない曲を探すのが楽しかったし、そういう曲を紹介して「なにこれ、かっこいい」って言われるのが嬉しかった。今でもそういうやりとりができると本当に嬉しいですね。レコード屋さんならではの方法で、ヒット曲以外の魅力も伝えていきたいと思っています。

next. recordsの今後
SHUNSUKE:
これからのnext. recordsの展望について教えてください。
今本:
実店舗はなんとか工夫してやってこれましたが、最近は9割が外国人という日もあるほど、海外のお客さんが中心です。うちを狙ってきてくれてる方もいるみたいです。ただ、国外からの通信販売購入者はまだ弱くて、そこを強化していきたいと思っています。eBayやDiscogsでも海外からレコードって買えますけど、お店の存在が伝わりにくい。ちゃんとnext. recordsで買ったって分かってほしい。だからそういう既存の販売方法に乗るんじゃなくて、自社発送でしっかり12インチシングルを届けたいんです。

SHUNSUKE:
海外でも12インチの需要があるんですね。
今本:
ありますね。最近はオーストラリアやアジア圏からの来店も増えていて、日本の中古レコードの質と量が注目されてるんですかね。あとはDANNY KRIVITやDIMITRI FROM PARISのような世界的DJは今もレコードを探しに来ます。彼らは来日したらふらっと寄ってくれます。うちのお店の存在を認識してくれてる。今後はそういった「うちの店だから!」っていうお客さんにもっとアプローチしていきたいです。
SHUNSUKE:
アナログレコードに興味を持ち始めた方へ、何かメッセージがあればお願いいたします。
今本:
レコードってアルバムのイメージが強いと思うんですけど、好きな曲の12インチシングルもぜひ聴いてみてほしいです。リミックスとかインスト、ダブが入ってたりして、「同じ曲でもこんなに違うんだ!」って発見があるんですよ。「アルバムで持ってるからいいや」じゃなくて、一歩踏み出してみるとめちゃくちゃおもしろい世界が広がってます。音の鳴りも違うし、体験としても全然別物。だからこそ、ちょっとでも興味があるなら、ぜひ一回手に取ってみてほしいですね。

今本さんと話してるうちに欲しくなって結局レコードを購入するDJ SHUNSUKE
next. records (ネクストレコーズ)
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町11-11 柳光ビル本館 2F
TEL 03-5428-3501
営業時間 13:00 - 20:00
Webサイト:https://nextrecordsjapan.net/ja
instagram:@next_kj