【My Secret Place】昭和ノスタルジックな風情が残る東京の下町 | 立石

クリエイティブな仕事に携わっている人はどんな場所でインスピレーションを得ているのだろう。彼らに町案内をお願いしたら、まだ知らないおもしろい場所が見つかるかもしれない。

トレンドやカルチャーなど日頃から感度の高いクリエーターたちにお気に入りの場所を紹介してもらう連載企画第1回目の案内人はファッションデザイナーの清水護。

東京のファッションの中心地といえば表参道から原宿に至る青山・渋谷界隈だが清水が拠点を置くのは祐天寺。祐天寺は渋谷から代官山、中目黒という人気のエリアの先にある都心に近い閑静な住宅地である。気取らない寺町に構えた清水の店には音楽業界や映像業界で活躍するクリエーターが足繁く通う。

清水は音楽性の強いアイテムやオーダースーツなどが注目され、多くのアーティストや俳優の衣装を手掛けたりアーティストのPVをディレクションしたりなど活動の幅も交友関係も広い。

その清水が選んだ場所は、立石。立石は荒川という東京の東側、浅草やスカイツリーよりももっと東側を流れる大きな川を越えたところに位置する昭和のノスタルジックな面影が今もディープに残る数少ない町だ。

錆びたトタン、無法地帯の裏道、仕事帰りのローカルが行き交う駅前商店街。
夕日を受けてなんともいえない哀愁を帯びる。タバコと酒が似合う。

清水: 美味しいものが安く食べられるのもここに来るのが好きな理由の1つですけど、この立石の街と土地の人が持つ昭和の懐かしい雰囲気の中にある良い意味での「混沌」や「生」っぽさ「哀愁」を感じにたまに足を運んでしまいます。デザイン系やクリエティブに関わる人で立石に来る人は多いですよ。

今日は僕のブランドのお客様であり友人である俳優の勝矢氏を昼呑みに誘いました。

勝矢: 立石は初めて訪れました。味わいのある良い町ですね。ブルースがとても似合う。

東立石3丁目酒場は近所に住む地元の人に愛されている串揚げを中心とした居酒屋。

Y字路好きの清水。日本を代表する美術家の横尾忠則もY字路をライフワークにしている。

複雑に張られた電線や奇怪なメニューや貼り紙さえも絵になってしまう。

下町というのはもともと城を中心とした高台にある城下町に対して、低地にある町人などの庶民が住む町を呼称していた。それが低地か否かに関わらず建坪率の高い小さな家屋が密集し、古くからある町で住民同士のつながりが深い町のことも下町と呼ぶようになった。つまり、人々の生活が色濃く溢れる、訪れる者にとってはそそられる場所なのだ。

上述のように下町は個人経営の商店や飲食店、民家が所狭しと肩を寄せ合って生活がいとなまれている。大企業が経営するスーパーができる前、駅前はだいたい商店街と呼ばれる小さな専門店がアーケードの下に立ち並んでいた。地元の商店街へ行けば必要なものはたいてい揃った。カラの器を持って新鮮な豆腐や惣菜を買いに行けた。駅前から郊外へと生活圏が広がるにつれて大規模経営のショッピングモールが増え、そんな風情のある駅前商店街は姿を消していった。

赤いベルベッドのカウチに太陽の陽射しが気持ちよく差し込む、居心地の良い喫茶パールは立石生まれ立石育ちのママが経営する。

このレトロな街並みが広がる立石は京成線という東京の東と成田空港をつなぐ鉄道路線上にあり、スカイツリーの最寄駅である押上駅から4つ目。駅の北側・南側ともに商店街が広がり、どちらも下町らしく建物が建て込んでいる。この街並みは第二次世界大戦後に生まれた闇市から発展したものだ。そんな立石のまちを象徴するのは南口にある「立石仲見世商店街」だ。戦災で家を焼かれた浅草の飲食業者が疎開してきて露店を始めたのがそのルーツで、「仲見世」という名前も浅草を偲んで命名されたという。

最近は「昭和レトロ」ブームもあって、この立石を訪れる若者も多い。しかし、そんな立石にも再開発の計画があり、哀愁漂うこの街並みが失われる日もそう遠くはないようだ。

この連載では今後も東京のクリエーターが惹き寄せられる街やこと、モノを紹介していく。

清水護  ファッションデザイナー/プロデューサー

ギャラリーセレクトショップ
MItsuME TOKYOのオーナーであり
手がけるブランドは「anglasad」「NEW ORDER」「SAMURAI CORE」「トトノイ」。
そのほか地域創生プロジェクトとして立ち上げた「THE BEYOND AND PRODUCTS 」では、自身が愛してやまないテレビドラマの不朽の名作である「北の国から」と初のアパレルコラボレーションアイテムを発表し「北の国から ’23冬」と銘打ち、2023年7月から発売が始まる。

勝矢 俳優

数々のドラマや映画、舞台などに出演する。
人気任侠ドラマ「日本統一」では若頭の代わりに12年間刑務所で過ごした義理堅い男・斎藤浩樹を好演。
4月13日(木)放送スタート NTVドラマ「日本統一 関東編」にも出演。
自身が主催する演劇団体「独弾流GARAGARADON」では演出・脚本活動を行う。
強面な悪役からチャーミングな役まで幅広くこなす。 LDH JAPAN所属。https://www.ldh.co.jp/  

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ZEROMILE 編集部

知的好奇心旺盛なミレニアル世代に日本の情報を発信。 「好奇心が心理的距離をゼロにする」をテーマに、編集部がピックアップした情報を掲載。

Photo by Atsuki Iwasa

浅井健一やthe pillows、山崎まさよしなど数々のミュージシャンのライブフォトや、アルバムジャケット、ブランドのイメージビジュアルなどを手がける。「全てに宿るbluesをrealに記録」をテーマに作品を撮り続けている。
Instagram : @blue_devils_picture

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