立ち食い蕎麦とワインが生み出す新潮流「VS(ブイエス)」渋谷

立ち食い蕎麦屋とワインショップが併合した店が渋谷にオープンしたと聞いて、最初に思ったことは「なんで蕎麦とワイン?」だった。酸味や甘味など果実由来の味わいを持つワインが、蕎麦と合うイメージがつかなかったからだ。しかし一口食べた時、「あっ、そういうことか。」と腑に落ちた。

VとSの出会い

2024年9月に渋谷・宮益坂エリアにオープンした『VS(ブイエス)』は、ワインショップVIRTUS(ウィルトス) と、京都の立ち食い蕎麦店SUBA(スバ)がコラボレーションした異色の空間だ。1階が立ち食い蕎麦を提供する『SUBA VS』、2階はワインショップ&角打ちの『VIRTUS VS』という構成になっており、客は蕎麦とワインという一見意外な組み合わせを堪能できる。

1階『SUBA VS』

SUBAは、2021年12月に京都・木屋町にオープンすると、スタイリッシュな内装と、独創的なメニューで瞬く間に人気店となった。そのSUBA京都店の隣には、同じくSUBAが展開するワインの角打ち「sumi(スミ)」が店を構えており、この時ワインのコンサルタントとして力を貸したのが、「VIRTUS(ウィルトス)」だった。

京都店は隣り合わせとはいえ、それぞれ独立した店舗になっているので、ワインと蕎麦を同時に味わうことはできない。VIRTUSの中尾代表は、同じ空間を共有することでそれぞれの客に対して相互にアプローチできるはずだと考えた。そうして、VIRTUSからSUBAに声をかけオープンしたのが渋谷の「VS」だ。

2階『VIRTUS VS』

「あっ、そういうことか。」

「単純に「蕎麦」というよりは、個性的で新感覚のそばを考案している「SUBA」だから一緒にやりたいと思いました。SUBAの出汁は軽やかなので、タッチが柔らかいナチュラルワインとよく合うんです。」と中尾氏は言う。

SUBAの出汁は、あっさりとした関西風で、具材によって表情をガラリと変える。この柔軟性こそ、SUBAの蕎麦が様々なワインと寄り添える理由だ。たとえば、フライドガーリックやクミンが効いた『とり天 毛沢東スパイス』は赤ワインに負けない力強さを持ち、『秋田県産三関せりと揚げ餅』は個性的なオレンジワインと抜群の相性を見せる。一口食べれば冒頭の私のように納得するはずだ。

1枚目:渋谷限定メニュー『とり天 毛沢東スパイス』1000円
2枚目:『秋田県産三関せりと揚げ餅』1500円 *季節限定

2階のVIRTUS VSのセラーには、ナチュラルワインを中心に常時1000種類以上の国内外のワインを揃えている。ボトルを購入してその場で飲めるほか、48種類以上のワインを1杯ずつ試せるディスペンサーも設置。気軽に試し、気に入ったものを購入できるというのはワイン初心者にもありがたいシステムだ。

ボトルの価格によってサーブされる量が変わるので、ガラス面には50ml、30mlなど量が表記されている。ディスペンサー用のコインを1枚550円で購入したら、気になるワインの上にあるボタンを押せば、記載されている量が自動で注がれる。

日本ではワイン好きの割合は少ないが、蕎麦は多くの人が食べるため、その人たちにワインを楽しむきっかけを提供したいと語る中尾氏。コーヒー1杯程度の値段でワインが飲めるワンコインディスペンサーの導入や、立ち食いそばというカジュアルフードと合わせたことも、ワイン初心者がハードルに感じるポイントを拭い去るために丁寧に考え抜かれたアイデアなのだ。

スペインの生産者、日本とニュージーランドの醸造家とともに造ったVIRTUSオリジナルのワイン。SUBAとのおすすめの組み合わせが提案されている。

行きつけにしたい空間

空間設計は、SUBA京都店も手がけたYUSUKE SEKI STUDIOによるもの。看板はなく、ガラス越しに見える店内は、さながらギャラリーやプレスルームのような雰囲気だ。「sacai Aoyama」や「OGAWA COFFEE LABORATORY」なども手がけていることを考えると、そのデザイン性の高さにも納得してしまう。

右端のロゴが入口の目印。

剥き出しのコンクリート、未舗装の道路のように砂利が散らばる床、カウンターを囲う木の板など、インダストリアルな要素が散りばめられている。しかしただ無機質ではなく、どこか温かみと居心地のよさを感じさせる。知らなければ到底立ち食い蕎麦屋だとは思わない空間だが、この新しいカジュアルさが、渋谷という街とそこに集う人々にはマッチする。

コンクリートのテーブルと砂利だらけの土間

友達と連れ立って訪れるのもいいし、一人でふらっと立ち寄るのもいい。気になるワインがあれば、気軽にスタッフに話しかけてみよう。行きつけのショップに立ち寄り、買い物ついでにスタッフとおしゃべりをして帰るような、そんな気軽さで訪れられる場所だ。

夜は23時まで営業しているので、仕事終わりに立ち寄って軽く一杯飲むもよし。あるいは飲んだ後に「シメのラーメン」ならぬ「シメの蕎麦」を食べに来るのも良いだろう。ラーメンと比べて、そばは塩分や油分が少なく、飲んだ後の胃にも優しい。ひょっとしたら「シメそば」が主流になる日が来るかもしれない。

VS(ブイエス)
住所:150-0002東京都渋谷区渋谷1-15-8宮益ONビル1階
営業時間:12:00~23:00(フードL.O. 22:30)
定休日:不定休
Instagram:
@virtuswine_vs
@subasoba_vs

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

Photo by Ippei Fukui

ZEROMILE編集部カメラマン兼グラフィックデザイン担当。日々のクリエイティブワークを通じて培ったスキルを写真にも生かしながら腕を磨いている。

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