かつて谷崎潤一郎は著書『陰翳礼讃』の中で、日本家屋の陰影や、陶器の器がもつ静かな美しさについて語った。柔らかな光の中で食事を楽しむ時間は、日本ならではの美意識のひとつだろう。東京・押上の「ろくろと米 ととと」は、器を自ら作り、そのまま食事を楽しむことができる、五感を使った少し珍しい体験を提供している。

古民家をリノベーションした店舗
食事の前に土に触れる時間
外から見ると民家のようで、うっかり通り過ぎてしまいそうな佇まいのお店は古民家をリノベーションして作られている。日本家屋ならではのぬくもりある空間で、土に触れて器を形づくり、その余韻のまま食事が楽しめる新感覚の体験コースが、今、若い女性を中心に人気を博している。
現在提供している食事つきコース体験は、「【カウンター陶芸】ミニろくろ+お昼/夜のお食事コース」「【カウンター陶芸】手びねり+お昼のお食事コース」の3つ。今回私たちは「ミニろくろ+お昼のお食事コース」に参加させてもらった。ミニろくろ体験では、小皿やお猪口など、片手に収まるサイズの器を作ることができる。
はじめに全体に向けて流れや注意事項の説明があり、そのあとは早速陶芸体験がスタート。ろくろは思っていたよりも速く回り、はじめのうちは少し触っただけで大きく変わる繊細さに戸惑ったが、日常のあれこれを忘れ、ただ土の感触に集中する時間は思いのほか心地よく、気づけば粘土の成形に夢中になっていた。

スタッフの方が丁寧に指導してくれるため、初心者でも安心。分からないことや作りたい形があれば、その場でアドバイスしてもらえる。実際、これまでの参加者の約8割が陶芸初心者だそうだ。私自身もろくろを使った陶芸は初めてだったが、1時間ほどの体験で小皿2つとお猪口1つを作ることができた。サイズも小ぶりなので、少しくらい形が崩れてもそれもまた個性と楽しめるのもミニろくろならではの魅力だろう。
成形が終わったら、サンプルからつけたい色を選ぶ。中にはひび割れのような模様が入るものや砂粒がつくものなどそれぞれに個性があり、目移りして中々決められなかった。同じ色を選んでも、焼き加減や形によって仕上がりは一つひとつ異なる。
色を選んだら焼き上がりの際に識別するため、裏面にサインを入れる。体験はここまでで終了。あとはお店のスタッフが焼き上げて仕上げてくれる。発送の目安は3~4か月後。この期間に、完成した作品を700~800℃の窯で素焼きした後、釉薬を塗り再び1200℃で本焼きをする。冷ますのに3日かかるのだそう。「忘れたころに届くので受け取りをお忘れなく」とスタッフさん。


1枚目:成形を終え乾かした器
2枚目:色見本
体験は時間内であれば作り放題のため、作りたい形に何度でもチャレンジできる。基本料金には1つ分の焼成・持ち帰りが含まれており、2つ以上焼いて持ち帰りたい場合は、1つにつき+1,000円で追加することが可能だ。
なお、完成した作品の発送は日本国内のみ対応している。海外在住の方はその場で作る体験のみ楽しむか、日本国内で受け取れる住所を指定する必要があるため注意が必要。
「ろくろ」と「米」で至福のひと時を
陶芸体験が終われば、炊きたてのご飯が待っている。土鍋で炊いたご飯と、日本各地の郷土料理が楽しめる仕様。お重の内容は季節で変わり、取材時は「和牛すじ重」または「めんたいこ重」のどちらかを選択できた。食事で使用されている食器類はもちろん陶器で、スタッフさんが焼いた一点物だ。自分で器を作ったあとに陶器の食器で食事を楽しむことで、陶芸の余韻をそのまま味わえるのもこの店ならではだろう。



1枚目:陶京和牛すじ重
2枚目:陶京めんたいこ重
3枚目:土鍋ご飯
また、“米”つながりで日本酒にも力を入れており、和食と合わせて楽むことができる。おすすめの日本酒は「大盃MACHO(マッチョ)」シリーズで、雄マッチョ、ゴリラマッチョ、などユニークなラベルが並ぶ。遊び心ある名前の由来は、精米歩合からきているという。日本酒は通常60〜70%ほどまで米を磨くことが多いが、この酒はあえて80%も米を残している。その“マッチョさ”と、ボディビルダーの掛け声「切れてるよ!」を重ね、キレのある味わいを表現したネーミングだそうだ。
今回は「日本酒3種飲み比べセット」とみかんの果実酒を注文。マッチョシリーズの中から「マスクマッチョ」と「キングマッチョ」、シーフード系の料理と合わせるとおいしいという「十勝特別純米吟風」をいただいた。注文した日本酒は、お店で焼いた手作りお猪口の中から好きなものを選んで提供してもらえる。
マスクマッチョはすっきりとした辛口。キングマッチョはほんのり甘く、吟風はめんたいこと合わせて飲むとマイルドになり呑みやすかった。おすすめを聞くことができるので、好みの日本酒が楽しめるだろう。



1枚目:マッチョシリーズ
2枚目:果実酒みかん味
3枚目:呑み比べセットお猪口3杯(880円)
カウンター陶芸のほかにも、本格的なフリースタイル陶芸(電動ろくろ)体験も開催しており、陶芸経験者の方やミニろくろを楽しんだお客さんがチャレンジしに訪れるそう。ミニろくろに比べ、花瓶や壺、湯呑のような大きいサイズのものが作れる。
陶芸で土に触れたあとに楽しむ食事は、どこか特別に感じられた。自分で作った、世界にひとつだけの器があるだけで、食事の時間に小さな楽しみが加わる。難しそうと構えず、気軽に訪れてみてほしい。いつもとは違う充実した時間を過ごせるはずだ。

店内の様子 カウンターが10席
コース(※完全予約制)
■【カウンター陶芸】ミニろくろ+お昼のお食事コース
(毎週火~日曜日:12:00、毎週水~日曜日:18:30)
料金 ¥7,300(時期により料金が変動する場合あり。)
時間12:00~14:30
ろくろ1時間+食事
■【カウンター陶芸】手びねり+お昼のお食事コース
シフト制不定期開催
料金 ¥8,000(時期により料金が変動する場合あり。)
時間11:30~14:30
手びねり2時間+食事
■【カウンター陶芸】ミニろくろ+夜のお食事コース
料金 ¥12,000(時期により料金が変動する場合がございます。)
時間18:30~20:30
ろくろ1時間+食事
■フリースタイル陶芸(電動ろくろ)
※食事なし
シフト制不定期開催
料金お一人様:6,000円(作品1つの焼成代・消費税込)
ろくろと米 ととと
住所:〒131-0033 東京都墨田区向島4丁目30-14
営業時間:OPEN 11:00 CLOSED 21:30(L.O.21:00)
定休日:月曜日
ウェブサイト:https://rokuro-tototo.jp/
Instagram:@rokurotokome.tototo