大阪府柏原市のぶどう栽培の歴史は古く、かつては「全国一のぶどう産地」として知られた。宅地造成が進んだ今は規模を縮小するも、高台辺りは一面にぶどう棚が連なる。この地で、ワインづくりを営むのがカタシモワイナリー(カタシモワインフード株式会社)。大正3年(1914)創業の、西日本で現存する最古のワイナリーだ。

カタシモワイナリーの社屋
苦難続きであった代々のワインづくり
瓦葺きの邸宅がひしめく隘路沿いに、同社の社屋がある。その隣に、国の指定文化財となったワイン貯蔵庫が立っている。重厚な扉を開け、細い通路をくぐって地下に下りる。ひんやりとして薄暗い空間に、ワインやブランデーの瓶が積まれている。古いものだと昭和 16年醸造のヴィンテージもあるという。

貯蔵庫の上の階が小規模なミュージアムになっており、主に大正時代に使われた醸造機材が安置されている。こちらは、柏原市の指定有形民俗文化財だという。5代目の高井麻記子さんが、当ワイナリーの歴史について語ってくれた。
高井さんによると、初代当主・高井利三郎氏はぶどうの一大農家であったという。その頃は、ワインを醸造するという発想はまだなく、商品作物一筋。「海外ではぶどうを使ったお酒がある」と知り、ワインに目を向けたのは、息子の作次郎氏の代からであった。もっとも、正確な製法は未知の世界であり、日本酒の蔵元と共同で試行錯誤を重ねながら、独自のワインを生み出していった。

大正時代に使われた醸造機材が並ぶミュージアム
高井家がワインづくりに力を入れたのは、年ごとの収穫が不安定で収益もそれに連動する状況へのリスクヘッジという面があった。ワインであれば、いったん作れば長期保存ができ、安定した収入源になる。しかし、製造・販売体制が整って間もない大正12年(1923)に関東大震災が起きる。それで、在京の大きな仕入れ先が倒産してしまい、事業の縮小を余儀なくされた。その後も、室戸台風で畑の過半が壊滅するなど苦難が続く。他方、この地ではワイン醸造元が多数勃興し、一時の隆盛を見た。ただそれも戦後は衰退し、今では数えるほどしか残ってない。
歴史ある風土から生まれる銘酒
それだけに、カタシモワイナリーのワインは、時の試練を乗り越えた者だけが生み出せる芳醇なエッセンスに満ちている。現在、約60種類もの商品ラインナップがあり、ベルリーナワイントロフィー2025で金賞を受賞した「利果園 白 堅下本葡萄」をはじめ、世界が認める銘酒は1つ2つにとどまらない。それが、ここから歩いてすぐの、決して広くはないぶどう園から誕生するというのは、少し不思議な感興をおぼえる。

カタシモワイナリーの今年の新酒
高井さんに、そのぶどう園を案内してもらった。住宅地を抜けると視界が開け、ぶどう棚が姿を現す。11月も後半だと収穫はほぼ終えており、枯れつつある葉があるばかりだが、筆者を待っていたかのようにぶどうの房が僅かに残っていた。高井さんにすすめられ、何粒かを口に放り込む。スーパーの生鮮食品売り場にあるぶどうとは違う、ワイルドで甘みのある味が広がる。聞くと、マスカット・ベーリーAという、生食にもワイン用にもなる品種なのだという。
ふと、猛暑であった今夏の記憶がよみがえり、温暖化の影響について尋ねた。高井さんは、「影響は、めちゃくちゃあります。暑さでブドウの実が次々と干からびていくんです。でも、“絶滅危惧種”とは別に、糖度が抜群に上がってピカイチなブドウもありましたね。今後は、品種改良をして暑さに強いぶどうを育てなくてはなりません」と答えた。地震や台風ばかりが敵ではなく、常に課題と試練がつきまとう事業なのだろう。
高台をほぼ登り切ったところで振り向くと、ぶどう畑の先に住宅街が見渡せ、そのはるか向こうには世界遺産の百舌鳥・古市古墳群が望見できる。

昭和 30年頃までは、家並みもほとんどなく、一帯はほとんどぶどう畑で占められていたそうだ。そして、時代をさらにさかのぼった奈良時代、ここは広大な伽藍配置の智識寺という寺院があり、聖武天皇はここの大仏に感銘を受け、東大寺の大仏建立を決意したという。それも今では痕跡をとどめるだけであり、無常を感じざるを得ない。
たこ焼きと相性抜群のワインも
高井さんが最後に案内してくれたのが、ワイナリーの社屋向かいの直売所だ。2つの大棚に様々なワインが陳列販売されている。中心の価格帯は千円台~三千円台とリーズナブルで、軽い驚きをおぼえる。秋深まる今は新酒が出る時期で、やはりこれらが一番の売れ筋。棚にはもうほとんど残っていない。

どれを買おうか迷っていると、「これはいかがですか?」と、高井さんは助け舟を出してくれた。その名は「tako-cham(たこシャン)」。瓶内発酵のスパークリングワインで、なんと大阪名物のたこ焼きと相性が良いという。
「あと、迷われる方には試飲セットがおすすめです」と誘われ、ひとまずそちらを注文した。運ばれてきたのはグラスに入った3種のワイン。説明書きには、「利果園 マスカット・ベーリーA 2022」「華やか香るネオマスカット&リースリング」「大阪デラウェア2024」の名称とともに、短い解説が添えられている。

飲んでみると三者三様。それぞれに素晴らしさがあったが、特に印象的なのは「利果園」だ。香りと味わいが重層的で、一言では形容できない深みが、人生の蹉跌で乾いた心をそっと潤してくれる。ほろ酔い気分となるなかで、温暖化に負けずに育った将来のぶどうは、どんなワインになるのか…さらなる期待に心が弾んだ。
カタシモワイナリー(カタシモワインフード株式会社)
住所: 〒582-0017 大阪府柏原市太平寺2丁目10番5号
営業時間(直売所): 平日10:00~18:00、土日祝 10:00~17:00
定休日: 年末年始
ウェブサイト: https://kashiwara-wine.com
Instagram: @katashimowinery
X: @@KatashimoWinery