日米バーテンダーが「霧島酒造」などを巡り宮崎焼酎の魅力を探求。3月に渋谷「カクウチベース」で焼酎カクテルを公開

日本古来の蒸留酒である本格焼酎。原材料由来の独特な香り、麹を使った発酵技術は、多様な蒸留酒を知るバーテンダーからしても、その個性が明らかだ。バーテンダーの興味がローカルなものに進むなか、“最後のフロンティア”のひとつであるともいわれる本格焼酎の魅力を体感してもらうべく、宮崎県は日米バーテンダーを招致する「MIYAZAKI SHOCHU EXPERIENCE」を実施した。

Photo by Alex Day

参加したのは3人のアメリカ人トップバーテンダーと2名の日本人トップバーテンダー。宮崎を旅して作られたカクテルは3月9日・10日に渋谷のカクウチベースで開催される「MIYAZAKI SHOCHU POP-UP」にて提供される。本格焼酎をめぐる宮崎の旅で、バーテンダーは何を体験し、何を感じたか。アメリカ人バーテンダー、Alex Day(Death & Coパートナーオーナー)の写真と手記から辿りたい。

The passion and vision here is intoxicating, dancing between tradition and evolution in a way that feels like looking and tasting the future of the category.

(情熱とビジョンが人々を魅了している。伝統と進化の間でのダンスは、このカテゴリーの未来を見つめ、味わっているかのようだ)

Photo by Alex Day

1日目に訪れたのは、創業明治十八年になる焼酎蔵の「黒木本店」。麦焼酎「百年の孤独」や「中々」、芋焼酎「㐂六」などで知られる蔵だ。別蔵として作られた尾鈴山蒸留所は、黒木本店のある高鍋市から30分車を走らせた山の中。水に恵まれた豊かで美しい環境で焼酎造りがされている。

「ローカルと繋がった本質的なものが作られていると感じました。材料は彼らの土地で作られた麦やサツマイモであり、また木桶や樽にはこの山々から切り出された杉、栗や桜などの木が使われています。滝が流れる上にある蒸留所にはいつでも水の音が響いている。5代目の黒木信作氏は情熱的で、焼酎だけでなく、ウイスキーやジンを造ることで焼酎の境界線を広げ、それを焼酎の進化に繋げています」

手仕事による麹造り、地元の木材を使った木桶での発酵や熟成、その手仕事ぶりから焼酎づくりのクラフトマンシップを感じたようだ。

One of the coolest parts of Kirishima’s distillery is the natural spring it sits directly on top of. Feeding all of their production and the livelihood of the community

(霧島酒造のすばらしいところは、天然の湧き水の真上に蒸留所があるというところ。その水が地域の人に使われているところだ)

Photo by Alex Day

2日目に訪れたのは、最大規模の焼酎蒸留所である霧島酒造。霧島酒造のある宮崎県都城市は、水はけのよいシラス台地にあり、その地下には霧島山系に降った恵みの雨が貯まる。霧島裂罅水と呼ばれる水は焼酎で使われるほか、地域でも広く使われている。

「柔らかく、ミネラル感のある美味しい水です。ここでは1日に約400tの芋を仕込み、1日で一升瓶20万本分を生産している。けれども芋は手で処理したり、気温や湿度も人の手でコントロールしていたり、大規模生産でありながら、とてもクラフトマンシップを感じる。これは大手の洋酒メーカーではなかなか感じられないことです」

He was trying to evolve their shochu for her to be more interested. Very, very endearing.

(娘に興味をもってもらうために焼酎を進化させている。なんて愛らしい考えだろう)

Photo by Alex Day

霧島酒造からほど近くにある柳田酒造。ここは元エンジニアの柳田正が杜氏兼代表として蔵を守る。研究肌の柳田氏は、芋を腐らせずに熟成させる温度・湿度を割り出して、熟成した芋による蒸留を行ったり、自ら改良した蒸留機を使用するなど、オリジナルの味わいをもつ焼酎を生み出している造り手だ。また、一人娘に蔵を継がせるため、より安全に焼酎を作るための機械の改良にも取り組み、新たな味わいの焼酎生産も行う。そのことに感銘を受けたのが冒頭のAlexの言葉だ。
「熟練のエンジニアでもある柳田氏は蒸留機内の蒸気の注入を調整するという、非常にユニークな蒸留アプローチを生み出しました。作る焼酎によって蒸気を微調整し、さまざまな味わいを実現しています。またここでいれてもらったOYUWARI(お湯割り)は世界でもっともスムースな飲み物でした」

The distillery felt ancient in the most beautiful way, and while they’re making beautiful shochu in a style that they have for years.

(この蒸留所は最も美しい方法で古き時代を感じさせる。そして長年続けてきたスタイルで美しい焼酎を造り続けている)

Photo by Alex Day

3日目に訪れたのは、1834年創業の「京屋酒造」。昭和初期から使われているコルニッシュボイラーという希少なボイラー、100年以上の歴史を持つ大甕(おおがめ)での醸造など、古きものを大切に守り継いでいる蔵だ。バーテンダーの訪問に合わせ、一仕込み分残しておいてくれた芋焼酎の蒸留にAlexはとても感銘を受けたようだ。
「芋は蒸留所に着いた日に洗い、傷みを取り除き、蒸してつぶしてから米麹を混ぜて、発酵、蒸留する。ここでは蒸したての芋を食べさせてもらう体験もしました。原材料の味を活かす焼酎は特別なものであると感じます。また彼らは焼酎の可能性を広げるため、芋焼酎をベースに使ったジンも作っています。なかでも柚子を使った「油津 吟」ジンはとてもいい味わいでした」

The emphasis and obsession here is as much about farming as it is shochu making, the importance of the land, and drawing everything from the region.

(ここでは焼酎造りと同じくらい農業にこだわり、その土地から味わいを引き出すことに重点が置かれている)

Photo by Alex Day

続いて訪れたのは渡邊酒造場。家族経営で農業から蒸留までを一貫して行う渡邊酒造場が大切にしているのは“テロワール”の考え方。その土地でとれた食材、気温、蔵や土地のもつ菌、土地にあるすべてを活かして焼酎を生産している。

「私たちは農場に訪れ、大麦の畑では麦踏みを体験し、芋の畑も訪れました。訪れたひとつの畑からとれる焼酎は1.8Lボトルで2万本。この土地からそれだけの収穫量を作り、製造するのはどれほど困難なことだろうと思います。また渡邊さんは地域の環境を重視していて、発酵中に窓を開け、自然の空気が最終的な焼酎に影響を与えるようにしています。数軒先には漬物製造会社があるそうですが、渡邊さんの焼酎には少量の乳酸が含まれていることが判明したとのこと。そうしてやっていることすべてがおいしさに繋がっています」

規模やエリアの違う複数の蔵を通じて感じたのは、土地に結びついた焼酎の味わいの魅力、そして人との繋がりが深く、家族やコミュニティで守ってきた焼酎づくりのクラフト性。旅程では、土地のものを食べ、茶園や果樹園を見て、生産者と触れ合い、バーテンダーそれぞれがカクテルへのインスピレーションを胸に帰路へと着いた。

 旅からインスパイアされたカクテルとは?

宮崎での体験を経て、1月15日に虎ノ門「EDITION HOTEL」にて、メディアとバーテンダーを対象にカクテルの発表会を開催。宮崎の風土や旅の経験が反映された個性豊かなラインアップとなった。
これらが3月に開催される渋谷の「MIYAZAKI SHOCHU POP-UP」で提供されるカクテルメニューだ。

1:「Peach Boy(ももたろう)」by Vlad Novikov(Silver Lyanジェネラルマネージャー)

材料:Colorful焼酎、スモークドピーチ、ハーブ、リースリング

バーテンダー5名で旅をしたことを桃太郎とイメージを重ねて作成。華やかな香りの芋焼酎に合わせて、ピーチやハーブを組みあわせ、リースリングワインで酒精を強化。
「焼酎はワインにも似ていると思いました。芋の種類によって香りが変わるなど、原材料によって繊細に香りが変わります。新たな風味との出合いが楽しかったです」(Vlad)

2:「Ajax Oldfashioned」by Tyson Buhler(Death & Co F&Bディレクター)

材料:㐂六 焼酎、バーボン、ダークメープルシロップ、塩、ビターズ

麹のふくよかな香りがある焼酎に、香りに甘さのあるバーボン、そして味わいに甘さがあるメープルシロップを合わせて。塩味と苦みも加えたポップコーンのような風味のカクテル。
「日本に来る前から焼酎を使ってカクテルを作っていました。麦焼酎やゴマ焼酎にフルーツを合わせたり、アーモンドシロップを合わせたり、柑橘ともあわせています。今回のカクテル名は今度アスペンにお店を出すことから、現地でも親しんでもらおうと思い、アスペンにあるジャンプ台Ajaxから名前を取りました。クラシックカクテルであるオールドファッションドをアレンジしたスタイルです。」(Tyson)

3:「Egg of Columbus(コロンブスの卵)」清崎雄二郎(Bar LIBREオーナーバーテンダー)

材料:特蒸霧島 焼酎、コーヒー、ベルガモットシロップ、オレンジビターズ

焼酎にコーヒーの風味を加えたエスプレッソマティーニスタイルのカクテル。コーヒーは蒸留し透明に、中に沈んだ金柑の中には金柑ゼリーが入っているなど、驚きがある一杯。
「造り手の情熱を感じられるツアーでした。海外から日本のお酒を求めてお店に来る方も増えているので、焼酎カクテルはラインアップしていきたいと思っています。今回、蔵元さんでコーヒー好きな方と多く出合い、その相性の良さを感じました。身近なものが実はとても美味しい組み合わせだったというイメージで、カクテルはコロンブスの卵と名付けました」(清崎)

4:「Imo kind of Daiquiri(芋薫るダイキリ)」斎藤秀幸(GOLD BARバーディレクター)

材料:闇 焼酎、グァバ、ポカリスウェット、アブサン、柑橘

クラシックカクテルのひとつ、ダイキリを焼酎ベースにツイストしたもの。芋焼酎の甘みやフルーツのような風味を生かした香り高いカクテル。
「日本人バーテンダーにとっても、焼酎蔵にいく機会や知る機会は少ないですが、焼酎を知ることは蒸留について学ぶいい機会になります。今回、はじめての焼酎蔵訪問になりましたが、蔵によって造りがすべて違うところが面白かったです。焼酎に何が合うかということについて蔵元さんからもアイデアをいろいろといただきました。今回は南国のフルーツにアブサンを加えて、爽やかでありながら個性あるカクテルに仕上げました」(斎藤)

3月4日〜10日 期間限定バー「MIYAZAKI SHOCHU POP UP」

宮崎の蔵元による焼酎有料試飲、および日本人バーテンダー2名が4種類のカクテルを提供する期間限定バーは、2024年3月4日から10日まで。これを機会にいまバー業界からも注目が集まる本格焼酎の世界を体験してみては。

「MIYAZAKI SHOCHU POP UP」
日時:3月4日(月) 〜 3月10日(日)
平日 15:00 - 23:00/土曜 14:00 - 23:00/日曜 14:00 - 22:00
場所:カクウチベース POPUP 東京都渋谷区渋谷3-21-3

■Weekday 3月4日(月)〜8日(金)
宮崎本格焼酎 ストレート、水割りなどで飲み比べ(500円)
■Weekend 3月9日(土)、10日(日) 
宮崎本格焼酎 全10蔵に加え、ゲストバーテンダーによるスペシャル焼酎カクテル提供
-9日(土)17:00-18:00 清崎雄二郎(Bar LIBRE)
-10日(日)17:00-18:00 斎藤秀幸 (GOLD BAR)

参加予定蔵:柳田酒造合名会社、渡邊酒造場、霧島酒造株式会社、井上酒造株式会社、櫻の郷酒造株式会社、雲海酒造株式会社、株式会社酒蔵王手門、株式会社落合酒造場(以上蔵人来場あり)、すき酒造株式会社、宝酒造(焼酎提供のみ)

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mariko kojima

雑誌編集者、外資洋酒メーカーでの広報を経て、飲食・ライフスタイルの分野でライター、PRコンサルタントとして活動。日本テキーラ協会テキーラ・マエストロ、日本ラム協会ラムコンシェルジュ。

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