“現代の空間に合う”民藝品が一堂に会する京都の骨董屋「YAMADA MPD ART CLUB」

広大な京都御所の東側を、「寺町通り」という街路が南北に走っている。この通りは通称「寺町美術通り」と呼ばれ、古美術や古道具などを扱う店が多く集まっている。近年、古い物の価値が改めて見直され、海外旅行者もよく見かけるようになった、ちょっとした穴場だ。このエリアで、主に古いうつわを販売する店があると聞き、訪れた。店の名は「YAMADA MPD ART CLUB」という。

扱うのは有名・無名の作家による民藝の品

店主は、山田尚人さん。山田さんの祖父も、「山田萬宝堂」という骨董・古美術店を営んでいたが、継承者がないまま逝去。しばらく倉庫のようになっていた店舗を、山田さん夫婦が数年前に蘇らせた。

店の外観はガラス張りで、骨董屋と聞いてイメージする印象とはだいぶ違う。中に踏みいれると、店内はけっして広くはないが、白く塗られた壁の低い位置にうつわを並べる棚があって、開放感がある。

「YAMADA MPD ART CLUB」の外観

この店が取り扱う品は「民藝」。無名の職人たちが作った生活道具を、美術評論家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎といった人たちが民藝と名付け、そこに健全な美があると提唱した。1926年に民藝運動というムーブメントが始まり、戦後しばらくしてブームになるほど注目された。そうした民藝品の中でも、山田さんが取り扱うのは、江戸時代から大正時代にかけての名も無きうつわ。そして、民藝運動を主導した作家たちの作品である。

店内で陳列された民藝のうつわ

民藝は「凄く洗練されたカルチャー」

山田さんが民藝に惹かれたのはなぜだろうか?

「京都に、民藝運動を世に広めた1人である河井寛次郎がいます。ある日、京都近代美術館で行われた彼の展覧会を見に行って衝撃を受けました。民藝という言葉は既に知っていましたが、深く知らなかった自分にとっては、世間での認識と展覧会で見たものとは、何かが違うなと思いました。そこで、民藝って何だろうと疑問がふくらんで、どんどんのめり込んでいきました。祖父の骨董屋であった建物を生かし、この店を始めたのは2021年10月のことです」

ひと口に民藝といっても多種多様。山田さんは、数あるなかから、どのようなこだわりをもってセレクトしているのだろうか?

「民藝や骨董と聞くと田舎臭いものだと思われがちですが、僕はそれらを凄く洗練されたカルチャーだと感じており、現代の空間に取り入れると面白いものや、合うものを精選しています」

古いうつわは、実は洗練されたものと語る山田さん

名もないうつわであってもルーツがある

言うまでもなく、店の品をすべてここで紹介することはできない。そこで、店のコンセプトがぱっとわかる3点の紹介をお願いすると、山田さんは、説明書きもなにも添えていない壺を取り上げた。

「これは、江戸時代後期の丹波焼です。塩を入れる壺なのか、ともかく日常的な雑器として作られたものです。雑器ゆえに、現存しているものは意外と少ないです。墨流しという技法を用いていて、抽象的な模様が入っています。特定の模様を描こうと思って描いているわけではないので、1個1個がまったく異なるのです。抽象的な装飾があることで、存在感は増します。そうしたところが、楽しいなと思いますね」

「こちらの陶板は、河井寛次郎が晩年の1951年頃に作ったものです。これにも抽象的な模様がありますが、モチーフは花です。拈珠(ねんじゅ)とか菱花(りょうか)と呼ばれたりしますが、釈迦が説法の中で花をつまんで見せたというところが由来になっているようです。河井寛次郎らしくデフォルメされた花はポップで斬新。また造形も鳥居などに掲げられる扁額(へんがく)に由来していると思われます。民藝の精神を持ちながらも、仏教的な思想と深く関わっています。この作品は民藝のエキスをたっぷりと吸い込み、自分の作品の血肉とした河井寛次郎の表現として象徴的な物だと思います。ただ、そうした事を抜きにしてもトレードマークのような模様も造形もただただ格好良いです」

「それからこちらは、明治時代の終わりから大正時代にかけて製作された小皿で、同じものが何枚かあります。印判手(いんばんで)という技法で作られたものです。この技法は、デザインを切り抜いた型紙を器の上に押し付けて転写するもので、当時こうしたうつわが大量に生産されました。現代のプリント技術があれば同一のうつわがいくらでも作れますが、当時は手作業だったので、同じ型紙を使っていても少しずつ模様がずれました。一見同じようでも微妙に表情が違っていて、味わいがありますね。いろんなパターンがあって面白いし、価格帯も比較的低めで、骨董がこれからという方にもおすすめしたいです」

山田さんは、現代のうつわには全て何かしらのルーツがあると語る。食卓に古いうつわを並べ、そのルーツに思いを馳せたり、現代のうつわと古いうつわを混ぜながら食事をすると、歴史の中にいる自分にも気がつき、心がほっとあたたまると語を継いだ。

現代のわれわれは、希少で古いものだからこそ価値があると短絡的に考えがちだ。しかし、そもそも「価値とは何か?」というところまで考えはじめると頭がフリーズしてしまう。そんな思考の行き詰まりに、涼しい微風を送り込んでくれる不思議な佇まいを、この店は持っている。骨董や民藝への関心が少しでもあるのなら、一度訪ねてみるといいだろう。

YAMADA MPD ART CLUB
住所: 〒604-0992 京都府京都市中京区寺町通竹屋町上る藤木町22
営業時間: 11:30~18:00
定休日: 火・水曜日、臨時休業あり
ウェブサイト: https://yamadampdartclub.com/
Instagram: @yamadampdartclub

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Takuya Suzuki

老舗翻訳会社の役員を退任後、ライター、写真家、ボードゲームクリエイターとなる。神社仏閣・秘境めぐりをライフワークとし、撮った写真をInstagramに掲載している。@happysuzuki

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