
(写真提供:Smappa! Group)
世界で初めて、カードサイズの「豆判春画」のみを300点以上展示する展覧会が、新宿・歌舞伎町のホストクラブで開催されている——。
そう聞いて一瞬思考が止まったのは、私だけではないはずだ。「なぜホストクラブで…?」という疑問が真っ先に浮かぶ。しかし、実際に歌舞伎町へ足を運び、その空間に身を置くと、少しの背徳感と好奇心が春画を鑑賞する楽しさと見事にリンクしていることに気づく。
今回は、このユニークな展覧会「『小さな愛の物語―豆判春画の世界―』新宿歌舞伎町春画展WA」の全貌と、会場で体感した空気感についてレポートしたい。
春画を求めて能舞台とホストクラブを巡る
本展は二つの会場に分かれている。まずは受付のある第一会場「新宿歌舞伎町能舞台」へ向かった。私は以前、歌舞伎町アートナイト「BENTEN」で一度訪れたことがあるのだが、初めて訪れる人にとっては入り口がわかりにくいかもしれない。マンションの1階にあるゴミ捨て場を通り抜け(!)、階段を上がった2階にある。


秘密のアジトみたいでワクワクする
会場内は、繊細な作品の劣化を防ぐために照明がぐっと落とされ、能を鑑賞する時のように舞台が薄暗い中に浮かび上がっている。展示ケースは舞台の周りだけでなく、舞台上にも座って鑑賞できるスペースが設けられている。正座やあぐらで春画を見ていると、江戸時代もこんな感じで見せ合いっこしていたのだろうか、と想像が膨らむ。


(写真提供:Smappa! Group)
もう一つの会場、ホストクラブ「BOND」へは徒歩3分ほど。今回の展覧会用に改装された店内は、アート鑑賞にはムーディすぎると感じるかもしれない。しかし、誰かと密やかに楽しむ春画の性格上、これ以上ないほど適した空間のようにも感じられてくる。


ホストクラブ「BOND」 (写真提供:Smappa! Group)
なぜホストクラブで春画展なのか? 開催の裏側
なぜこれほどのアート展が、夜の街・歌舞伎町で行われているのか。その背景には、日本国内における春画展開催のハードルの高さがある。
2015年に永青文庫(東京・文京区)で開催された日本初の『春画(Shunga)展』では、協力会場やスポンサーがなかなか見つからず、実現までには並々ならぬ苦難があった。この時、実現に向け尽力したのが世界的な浮世絵コレクター浦上満氏である。
そして、本展を主催するのは、歌舞伎町でホストクラブや飲食店を複数経営する「Smappa! Group」会長、手塚マキ氏。アーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group」とイベントを共催するなど、アート業界にも明るい人物だ。春画という日本文化を伝承し続ける必要性に共感し、歌舞伎町の街を舞台に春画展を継続的に開催する運びとなった。
今回の豆判春画展では、浦上満氏が個人所蔵する貴重な作品およそ300点が公開される。

左:浦上満氏 右:手塚マキ氏 (写真提供:Smappa! Group)
「豆判春画」に見る、日本人の性質
豆判春画の標準的な大きさは12.3 x 9cm。だいたいL判の写真程度だ。もともとは12枚や8枚1組で袋に入れられ、手頃な価格で売られていたものが多い。
豆判春画の始まりと言われているのが、江戸時代のカレンダー「大小(だいしょう)」である。各月を表した絵暦を正月に年賀状のように配る文化があり、そこに春画の要素を取り入れるようになった。新年には大名達が豆判春画を交換し合って親交を深めるなどしていたらしい。いつの時代も、仲良くなるのに下ネタは欠かせないのかもしれない。


受け付けでライト搭載のルーペが手渡されるので、小さな春画の細部まで、じっくり鑑賞できるのも楽しい。 (写真提供:Smappa! Group)
もちろん春画なので男女のまぐわいが描かれている絵が大半だが、主題以外の部分に注目することで見えてくるものがある。
一つは、今の我々とあまり変わらない現代的な感覚だ。ギンガムチェックの背景や巻物風のフチなど、お洒落なデザインの作品が多い。また、豆判春画を入れていた袋にまで絵が刷ってある点などは、現代のグッズデザインにも通じる遊び心がある。さらには古典作品の「二次創作」も多く、『忠臣蔵』や『源氏物語』、『徒然草』のパロディも人気のネタだったようだ。




1枚目:ギンガムチェックの色合いも可愛い
2枚目:両端に巻物のような縁が描かれており、配色のアクセントになっている
3枚目:右上が豆判セットが入っていた袋
4枚目:短冊型の春画。実在する和菓子の名前がつけられている
もう一つ、ぜひ注目してほしいのはクオリティの高さだ。これらは木版画であり、1色につき1版、何度も重ねて摺ることで色鮮やかにしている。1ミリにも満たない輪郭線や毛の一本一本も、木を彫り”残した”部分だ。寸分のズレもなく重ねるこの技術は、現代では再現不可能といわれる超絶技巧なのだ。

写真には写っていないが、黒い扇には角度を変えると銀色の縞模様に光る塗料が塗られている。
春画を堪能した後は、第二会場のBONDに設けられたオリジナルグッズの物販コーナーでお土産を選ぼう。春画と分からないよう工夫されたデザインで、日常的に身につけやすい。豆判春画のサイズ感を実感できるカードセットやレプリカもあるため、当時の人々のように誰かと見せ合ったり、交換するのも一興だろう。


(写真提供:Smappa! Group)
豆判春画はコミュニケーションツールだった
春画は、公共の場にはそぐわない「江戸時代のポルノ」として語られがちだ。しかし、今の価値観は普遍ではなく、時代と共に変化してきたものだ。江戸時代の性に対する大らかさというのは、日本人が性を「後ろ暗いタブー」としてではなく「みんなが楽しくなること」として、無邪気に捉えていたことの表れではないだろうか。
だからこそ、豆判春画はコミニュケーションツールとして機能し、人々を繋げていたのだ。会場のレイアウトが、人々がケースを囲んで覗き込むように設計されているのにも、「みんなで輪になって、笑いながら見てほしい」という主催者の願いが込められている。
現代を生きる我々は、変化後の価値観を常識としてインストールしてきたから、急に恥じらいを捨てたりはできないけれど、春画を鑑賞する時だけは「江戸時代に生まれていた場合の視点」を少し意識してみてほしい。そうすれば、春画を素直に、そして今までとは違う深さで楽しめるはずだ。
本展覧会は3月15日で終了するが、4月4日からは「『北斎・英泉 艶くらべー歌舞伎町花盛りー』新宿歌舞伎町春画展WA 」が開催される。興味を持った方はぜひ、そちらにも足を運んでみてほしい。
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詳細(公式Webサイト)
https://www.smappa.net/shunga/topics/1f2de0d1ab93180c98798045893d637faa00e762.html
『小さな愛の物語―豆判春画の世界―』新宿歌舞伎町春画展WA
会期:2026年2月14日(土)~3月15日(日)
Webサイト:https://www.smappa.net/shunga/exhibition/ex15.html
『北斎・英泉 艶くらべー歌舞伎町花盛りー』新宿歌舞伎町春画展WA
会期:2026年4月4日(土)~5月31日(日)
会場:新宿歌舞伎町能舞台
Webサイト:https://www.smappa.net/shunga/