DJとしてファッションシーンで活躍しながら、着物のプロデュースも手掛けるなど多彩な顔を持つマドモアゼル・ユリアさん。アートや建築にも精通したユリアさんが、お気に入りのスポットを訪ね、その場面と響き合う着物のコーディネートを語る連載。第9回は、2025年2月に待望の全館再開館を果たし、話題を呼んでいる横浜美術館へ。港町のモダン建築に着想したユリアさんの着物姿とともにお届けする。

展示室がある3階の回廊からグランドギャラリーを眺めて。
“ヨコハマ”という街に開かれた美術館
国際貿易港として日本の表玄関とされる港町・横浜に、現代美術を幅広く鑑賞できるアートの殿堂が誕生したのは1989年のこと。モダニズム建築の巨匠と謳われた、建築家・丹下健三が手がけた初めての美術館としても注目を集めた。
そんな美術館が2021年3月から大規模工事のため休館し、2025年2月8日に全館リニューアルオープンを迎えた。「グランドギャラリー」でDJをした経験もあるというユリアさんも待ちかねていたとあって、春爛漫の喜びを携えて来館。

心地よい日差しが降り注ぐグランドギャラリーにて。
リニューアルの大きな目玉は、建築家・丹下健三が「誰でも気軽に立ち寄ることができ、用途を限定しないスペースにしたい」という構想から、最も心を注いだエントランスホール「グランドギャラリー」だ。長年閉じられていた屋根のルーバーを修理し開放したことで、自然光が降り注ぐ明るく開放的な空間へと生まれ変わった。

圧倒的なスケール感で来館者を迎える吹き抜け「グランドギャラリー」の大空間。ガラス張りのルーバーからは心地よい陽光が降り注ぎ、その最頂部は約16mにも及ぶ。
そんな、丹下健三へのオマージュを礎に、建築家の乾久美子氏が率いる乾久美子建築設計事務所が、空間に新たなエッセンスを注ぎ、「じゆうエリア」をデザイン。階段上のステージにはライブラリー等を設け、展覧会にリンクする関連本や横浜を深く知る書籍や写真集が自由に眺められる。一見するとソリッドな御影石の中に含まれる、ニュートラルなピンクやベージュを抽出した、多彩なサイズのテーブルが空間に優しいリズムを刻む。


1枚目:グランドギャラリーに設えたライブラリースペース。
2枚目:御影石の色を抽出し柔らかなピンク色を軸に据えた、「じゆうエリア」。
リニューアルオープン記念として開催されているのは、「おかえり、ヨコハマ」展だ。古代から現代までの横浜を「みなと」でつなぎ、展示は8章立てで構成されている。横浜市歴史博物館の協力を得て、1859年に開港する以前の縄文期からの土器や江戸期の浮世絵の展示にはじまり、文明開化に華やぐ調度品や西洋風の掛け軸なども展示。さらに、第二次世界大戦を前後する港町の風景画や写真に収められた裏舞台のカルチャーも紹介。






写真は「おかえり、ヨコハマ」の展示風景。開催期間:2025年2月8日(土)~6月2日(月)。全8章で構成されている「おかえり、ヨコハマ」展を、カメラの存在を忘れてユリアさんも楽しんだ。
第7章では『横浜博覧会(YES’ 89)』開催にあわせて開館した横浜美術館の建築摸型や美術館のメインの所蔵品などもお目見え。第8章ではデジタルアートやアートの未来を見つめる奈良美智の作品とメッセージなども公開。多彩な見所に溢れている。


1枚目:美術館の建築模型に興味津々のユリアさん。
2枚目:子どもの視線で楽しめるよう、解説を低い位置に設置するなど、さまざまな工夫が凝らされている。画像はルネ・マグリットの作品。《王様の美術館》1966 (いずれも横浜美術館蔵)。



同時開催中の「コレクション展」。横浜市内の土を用いて創作された、横浜ゆかりのアーティスト・淺井裕介さんの《八百万の森へ》 (2023年、横浜信用金庫創立100周年記念寄付による購入)も特別紹介。9枚のパネルからなり絵画は、位置を組み替えて7パターンに構成できる。
ヨコハマ・ブルーを基調に装って

外国人の土産品として人気が高かった裃姿の掛け軸。五姓田芳柳(伝)『外国人男性和装像』(制作年不詳、横浜美術館蔵)。
この日のユリアさんの装いは、「海と空の開けた港町からイマジネーションを膨らませました」と語る清々しいブルーの着物と帯をコーディネート。着物は、染織作家・本郷孝文さんによる「熨斗目(のしめ)」と呼ばれる柄付の紬。「熨斗目」とは、袖下から腰に掛けて、縞や格子模様を織り出した、士分以上が礼装の大紋や裃の下に着た小袖のこと。第2章の展示室で、五姓田芳柳(伝)『外国人男性和装像』の掛け軸を眺めるユリアさんは、その装いから、描かれた武士の装いにシンパシーを感じたよう。
さらに、帯留めには港町を象徴する、帆船のモチーフを添えて。「今回は横浜の壮大な歴史を巡るということで、仄かな光を感じさせる彫金細工の帆船で、過去さえも照らすイメージで選びました」(ユリアさん)。髪には貝から削りだした笄(こうがい)をあしらい、海の物語を幾重にも重ねた。



大海原を感じさせる抽象柄の帯が装いを一層モダンな印象に。草履の鼻緒にまでブルーをさりげなくあしらって。

左右対称に長く伸びるファサードをもつこの建物では、外壁の「フォルス・ウィンドウ」(にせ窓)ほか、あちこちに丸や四角のモチーフを見つけ、今回の展覧会のシグネチャー・モチーフにもなっている。

MADEMOISELLE YULIA
(マドモアゼル・ユリア)
10 代から DJ 兼シンガーとして活動を開始。DJ のほか、着物のスタイリングや着物 教室の主催、コラム執筆など、東京を拠点に世界各地で幅広く活躍中。2023年には友人と着物ライフをお洒落に彩るブランド【KOTOWA】を立ち上げる。YOUTUBE チャンネル「ゆりあの部屋」は毎週配信。
OFFICIAL SITE :https://yulia.tokyo
Instagram : @MADEMOISELLE_YULIA
◾️今回訪れた場所はこちら
横浜美術館
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
電話:045-221-0300
公式URL:https://yokohama.art.museum/