中村鶴松さんが活躍中の「新春浅草歌舞伎」を歌舞伎初心者に おすすめする3つの理由

『絵本太功記』武智十次郎=中村鶴松 ©松竹

若手歌舞伎俳優の登竜門としても知られる「新春浅草歌舞伎」が、2025年1月2日から新たなメンバーで開幕した。中村勘三郎さんの部屋子で、中村勘九郎さん、中村七之助さんが率いる中村屋一門の中村鶴松さんもこのメンバーとして出演している。歌舞伎を観たことがない方にもぜひご覧いただきたいこの公演をおすすめする3つの理由をお届けする。
*中村鶴松さんに浅草の楽しみ方を伺ったインタビューはこちら(https://z-mile.com/experience/tsurumatsu_asakusa/)

おすすめの理由① 推しの歌舞伎俳優を見つける絶好のチャンス

2025年の「新春浅草歌舞伎」のメンバーは、中村橋之助さん、中村鷹之資さん、中村莟玉さん、中村玉太郎さん、市川染五郎さん、尾上左近さん、そして中村鶴松さんの7人。20代と10代で構成された次世代の歌舞伎界を担う花形俳優達だ。
白塗りの化粧をして扮装姿で登場すると、素顔とのギャップがあるので初心者には見分けがつきにくいかもしれない。そこで、まずはイヤホンガイドを借りて、チラシやパンフレットを手にして観劇されることをおすすめする。素敵な声や動き、表情などを観て、惹かれたら、チラシやパンフレットで俳優と役名を照らし合わせて、気になった人が誰なのかを確認する。勇ましい男の姿を演じる立役や女性を演じる女方といった役を通して、魅力を見出していただきたい。「あれは誰?」と感じることが、歌舞伎の沼への第一歩になるだろう。

ちなみに彼ら全員の屋号が異なることも興味深いポイント。屋号とは、一般的にはお店などの名前のことだが、歌舞伎俳優にも屋号がある。江戸時代は商人に倣って使われていたが、現在は敬称であり、スター性を象徴する称号でもある。橋之助さんは成駒屋、鷹之資さんは天王寺屋、莟玉さんは高砂屋、玉太郎さんは加賀屋、染五郎さんは高麗屋、左近さんは音羽屋、鶴松さんは中村屋。“大向う”といって、芝居をしている時に俳優達の動きや息遣いの絶妙なタイミングで「〇〇屋!」といったかけ声がかかって、舞台の雰囲気が盛り上がる。舞台に向かって大向こうをかけることは芝居の雰囲気を壊さないようにタイミングを見計らう必要があるので難易度は高いが、あなたの“推しと出会ったら、思い切って推しの屋号で応援してみるのもいいかもしれない。舞台で熱演している俳優たちに、「いいね!」という思いがダイレクトに伝わる機会でもあるといえるだろう。

『絵本太功記』武智十次郎=中村鶴松 ©松竹

おすすめの理由② “初役”という貴重な機会の目撃者になれる

「初役」とは、歌舞伎俳優が歌舞伎の役を初めて演じること。『ZEROMILE』のインタビューで「新春浅草歌舞伎」の舞台である浅草を案内してくれた中村鶴松さんは第1部の『絵本太功記』では操、第2部の『春調娘七種』の静御前、同じく第2部の『絵本太功記』では武智十次郎をすべて初役で演じている。

初役で演じる時は、その役の経験者である先輩の歌舞伎俳優に指導していただいて本番に臨むことが多い。そして教わったことの一つ一つをその通り体現することを目指す。観客にもその緊張感が伝わってくる。鶴松さんが「十次郎も操も、動きの意味を意識したいと思います」と語っているように、表情や手先、足先にまで彼の思いが表現されている。このようにして歌舞伎は、型や役の心というものが受け継がれてきたからこそ、今がある。

このフレッシュな「初役」の素晴らしさを実体験できるのが、現在上演中の新春浅草歌舞伎。鶴松さん以外の皆さんも初役で挑戦している。しかも第1部と第2部では同じ『絵本太功記』がダブルキャストで上演されているので、同じ役を2つのパターンで楽しむこともできる。
そして、この舞台を目撃した感動は、あなたが見出した推しが、今後同じ役を勤めた時にまた甦ってくる。

『絵本太功記』武智十次郎=中村鶴松 ©松竹

おすすめの理由③ 観劇で訪れた“浅草”が楽しめるプチ旅行

鶴松さんが案内してくれたお洒落なデザインの「染絵てぬぐい ふじ屋」、勘三郎さんや勘九郎さんを描いた扇子が手に入る「荒井文扇堂」、鶴松さんが大好きな鰻がいただける「うなぎ川松」という名店をはじめ、浅草は観光スポットとしても名高いエリア。雷門をくぐって、仲見世を通り、浅草寺へお詣りするなど、街の雰囲気によって、小旅行を味わうこともできる。

「新春浅草歌舞伎」は、通常の歌舞伎公演よりも上演時間が短いことから、開演前や終演後に街散策を楽しむことをおすすめする。
鶴松さんも浅草寺にお詣りに行くこともあるとのことだが、特別に、もう一つお気に入りスポットを教えていただいた。それは「正直ビアホール」。「ビールだけを楽しむお店で、5席くらいの小さなお店ですが、浅草らしい場所です。七之助の兄とも一緒に行くことがありますが、芝居をご覧なられた後に1杯のビールをサクッと飲んで帰るのもおすすめです」とのこと。
ちなみに今回『春調娘七種』で鶴松さんが演じる静御前は前髪のところに「ふじ屋」さんの手ぬぐいを乗せて踊っている。舞台をご覧になるときに、ぜひ注目していただきたい。

『春調娘七種』静御前=中村鶴松 ©松竹

『絵本太功記』武智十次郎=中村鶴松 ©松竹

新春浅草歌舞伎
第1部 11:00開演
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』
二、『仮名手本忠臣蔵 道行旅路の花聟 落人』
第2部 15時開演
お年玉〈年始ご挨拶〉
一、『春調娘七種』
二、『絵本太功記 尼ヶ崎閑居の場』
三、『棒しばり』

※鶴松さんは第1部の『絵本太功記』の操と第2部の『春調娘七種』の静御前、『絵本太功記』の武智十次郎を演じます。
会場:浅草公会堂
住所:東京都台東区浅草1-38-6
上演日程:2025年1月2日(木)〜26日(日)
問い合わせ:チケットホン松竹 TEL 0570-000-489
チケットweb松竹 https://www1.ticket-web-shochiku.com/t/

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Shion Yamashita

女性誌、男性誌で、きもの、美容、ファッション、人物取材や医学などの読み物、旅の取材など多岐にわたる分野の編集に携わる。2007年よりフリーランスの編集、ライターとして活動。現在は歌舞伎やバレエ、ミュージカルといった舞台芸術を中心に編集と執筆をしている。手がけた書籍には『坂田藤十郎 歌舞伎の真髄を生きる』『カメ流』『十八代目中村勘三郎』『人生いろいろ染模様』『吉田都 一瞬の永遠』などがある。
Webサイト:https://shions-room.com
X (元Twitter) :@shionyamashita

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