
HOTEL IL PALAZZO提供
窓を持たないペルシャレッドのトラバーチン(石灰岩)と、鮮やかな緑青色の梁。福岡の繁華街・中洲の対岸に位置する春吉の街並みの中で、「HOTEL IL PALAZZO(ホテル イル・パラッツォ)」の外観は存在感を放っている。
1989年、イタリアの建築家アルド・ロッシとインテリアデザイナー内田繁のタッグにより、「日本初のデザインホテル」として誕生した同ホテル。2023年秋、約7年の構想期間を経て、現代の宿泊ニーズに応える「Re-Design」プロジェクトとしてリニューアルオープンした。
当時の思想を継承しながら現代的にアップデートされた館内デザイン、シンボリックな地下ラウンジ、天井高4mを誇る客室など、現在のホテルの全容を紐解く。
日本初のデザインホテル、その思想を受け継ぐ「Re-Design」

HOTEL IL PALAZZO提供
1989年、地域開発の一環として誕生したHOTEL IL PALAZZOは、内田繁がアートディレクションとインテリアデザインを担当し、アルド・ロッシが建築設計を手掛けた。エットーレ・ソットサス、ガエターノ・ペッシェ、倉俣史朗ら世界的なクリエーターが参加したことでも話題を呼び、ホテルという枠組みを超えた都市の文化拠点として注目を集めた。
2016年にいちご地所が同建物を取得し、いちごグループのワンファイブホテルズによる運営のもとでリニューアルが実現。「Re-Design」と名付けられたこのプロジェクトでは、過去の設計を単にそのまま復元するのではなく、開業当時の理念やデザインボキャブラリーを尊重しながら、現代に求められる快適性や機能を再構築している。
「建築は数十年で壊すものではなく、都市の資産として受け継がれるもの」というロッシの思想に基づき、象徴的な外観ファサードは美化清掃にとどめ、当時の姿をそのまま継承している。
アートと寛ぎが交差するラウンジ「EL DORADO」

青のエントランスを突き進むと、一輪のバラが宙に浮いているように生けられている
エントランスに入ると、階段ではなくスロープにしたこのアプローチは、外の喧騒と日常を色彩によって断ち切り、ホテルという特別な異界へと意識を没入させるための視覚的境界線。青い坂を下り、左手のエレベーターで地下へ降りると、天井の高い地下空間、ラウンジ「EL DORADO(エル・ドラド)」が広がる。
かつてのイル・パラッツォを思わせるリズミカルな列柱空間の奥には、イタリアの伝統的な中庭をイメージした間仕切りのない空間で、レセプション、バー、レストランなどの機能が集約されている。



高い天井と間仕切りのない開放的なラウンジ
このラウンジ内には、同ホテルの歴史を物語る象徴的な2つの作品が据えられている。一つは、1989年の開業時にアルド・ロッシが手掛けた日本酒バー「エル・ドラド」の黄金の酒棚。かつてホテルのアイコンでもあったこのモニュメントをラウンジ内に移築し、空間を引き締めるシンボルとして再生させている。
そして、このモニュメントと対をなすように設置されているのが、内田繁の代表作である水のアートインスタレーション「ダンシング・ウォーター」だ。外の光が入らない地下空間に自然の移ろいを取り入れる意図で配置され、水面の微細な揺らぎが空間に穏やかな落ち着きをもたらしている。かつてこのホテルを創り上げた2人の巨匠の作品が、同じ空間に並び立つ点も大きな特徴だ。

外界からホテル空間への切り替えを意識したレセプションカウンター
なお、ラウンジは宿泊者専用ではなく、一般の利用も可能。朝食からホテルメイドのパンを中心としたランチビュッフェ、軽食やドリンクが楽しめるラウンジタイムまで、時間帯ごとに異なるスタイルで営業している。
内田繁のデザイン思想を受け継ぐ、開放感のある客室空間
外観や共用部の鮮やかな色彩とは対照的に、客室はすっきりとしたミニマルなデザインで統一され、プライベートな寛ぎを重視した空間に仕立てられている。


デラックスキング(バルコニー付)
今回取材した「デラックスキング(バルコニー付)」は、開業当時にフロントロビーやレストランなどのパブリックスペースとして使われていた2階エリアを客室へと改装した特別な一室。もともと共用部だった構造を活かしているため、通常の客室にはない約4mもの豊かな天井高を誇り、圧倒的な開放感を味わえる。また、窓の外には2階客室限定となるプライベートバルコニーが備わっており、外の空気を感じながら穏やかな時間を過ごせる。
室内には、内田繁のデザイン思想を受け継ぐインテリアが随所に配されている。デスクチェアには内田の代表作であるパイプ椅子を現代風にRe-Designした特注家具が採用され、ソファには開業当時のカラーパレットを取り入れた。ベッドルームと水回りを仕切る扉が一枚のすっきりとしたパネルのようにデザインされているなど、日本の伝統的な建具を思わせるミニマルな工夫も施されている。
黒を基調としたシックなバスルームには、ゆったりと浸かれる大型の円形バスタブを設置。客室のアメニティとして、博多の老舗「Chocolate Shop」とコラボレーションしたオリジナルのナイトキャップショコラが用意されており、季節ごとの限定フレーバーとともに旅の余韻を楽しめる。

ホテルが位置する春吉エリアは、天神や中洲、博多へのアクセスが良好で、周辺には屋台街をはじめとする飲食店が多く集まるエリアだ。那珂川沿いの散策など、福岡の街歩きの拠点としても適している。
現在の宿泊者はアジア圏を中心に約7割がインバウンドとなっており、建築やデザインに関心を持つ旅行者や、ホテル滞在そのものを目的に訪れるゲストに選ばれている。また、9月よりホテル初のベーカリーブランド『PALAZZO PANE(パラッツォ パーネ)』が新たに誕生し、宿泊にとどまらず、食やカルチャーを通じて地域と旅行者が交わる拠点としての展開が続けられている。

アーチ天井に光が重なる廊下
HOTEL IL PALAZZO(ホテル イル・パラッツォ)
福岡県福岡市中央区春吉3-13-1
Webサイト: https://ilpalazzo.jp/