北斎の浮世絵春画《蛸と海女》が新宿歌舞伎町で公開!「葛飾北斎・渓斎英泉 艶くらべ」展示レポート

以前ZEROMILEで取り上げた「豆判春画の世界」展に続いて、同会場で再び春画展が開催されている。
「葛飾北斎・渓斎英泉 艶くらべ -歌舞伎町花盛り-」と題された本展は、日本が世界に誇る浮世絵師・葛飾北斎と、その画風を慕いながらも独自の美意識を切り拓いた渓斎英泉に焦点を当てた企画展。4月4日〜5月31日の期間中、二人の浮世絵師による春画約130点以上が公開される。

第一会場の新宿歌舞伎町能舞台は、今回の展覧会のために桜色のベールで装飾されていた。アートディレクションを担当したChim↑Pom from Smappa!Groupの林靖高氏によると、春らしさと、歌舞伎町の艶かしさを表すとともに、本展覧会の目玉ともいえる北斎の《蛸と海女》の巨大なタコの足をイメージしているのだという。

期間限定公開 葛飾北斎《蛸と海女》

北斎の春画の中でも特に有名な《蛸と海女》。背景にびっしり書かれたセリフとオノマトペの現代語訳がSNS上で話題になったことがあるため、見たことがある人も多いのではないだろうか。しかし、実はこの作品が『喜能会之故真通(きのえのこまつ)』という艶本(春画本)の中の一場面だということを知っている人は少ない。

本展覧会では、さまざまな絵師による蛸と海女のモチーフを見ることができる。実はこのモチーフは北斎のオリジナルではなく、長く受け継がれてきたものなのだ。北斎の師である春章の盟友・北尾重政や、同門の勝川春潮らによる先行作品に影響を受け、この世界的に有名な《蛸と海女》が生まれた。さらには、その源流は『日本書紀』の「海女の玉取神話」まで遡る。本展覧会は、中世の能楽、歌川国芳、そして月岡芳年へと受け継がれたこのモチーフの変遷を一望できる貴重な機会となっている。
◾️《蛸と海女》展示期間
前期:4月4日〜4月12日
後期:5月1日〜5月10日

またこれ以外にも、『会本佐勢毛が露(えほんさせもがつゆ)』においては、喜多川歌麿の『歌まくら』にインスピレーションを得たであろう構図も見られた。独創的な技法で有名な葛飾北斎でも、さまざまな絵師の影響を受け、自らの糧にしてきたのだということがわかる。オリジナリティはゼロから始まるものではない。

江戸時代の性の百科全書 !! 渓斎英泉『枕文庫』

そして、そんな北斎の画風に影響を受けつつも、退廃的な美意識を詰め込んだ美人画で名をあげたのが渓斎英泉だ。年齢は親子ほど離れているが、同時代に人気浮世絵師として活躍した二人。見比べてみると、北斎の描く女性は柔らかな顔つきなのに対し、英泉の描く女性は目つきが鋭く妖艶な雰囲気を纏っている。

武家に生まれた英泉だが、その人生は波瀾万丈。幼い頃に母を亡くし、仕官先でいざこざに合い15歳で流浪の身に。20歳の頃には父も亡くなり、3人の妹を養うため、菊川英山のもとで浮世絵師として働きはじめた。苦労の多い少年期を過ごした反動か、遊郭に入り浸ったり、ふと遠くまで放浪したりと、たびたび周囲を驚かせる奇行に走ることも多かったという。
そんな経緯を知ると、英泉の描く遊女のミステリアスな眼差しは、苦界を生きる女性の心の深淵をすくいとったもののように思えてならない。

武家出身で高度な教育を受けていたこともあり、執筆活動も行なっていた英泉。そんな彼の画力と文才が存分に生かされた作品が『枕文庫』だ。四篇八冊からなる艶本で、江戸時代の「性の百科全書」とも称される。医学書風に仕立てられており、知識と好色が絶妙に融合した構成は、人々の知的好奇心をくすぐりベストセラーになった。こちらは第二会場のBONDで展示されている。

浮世絵に興味がある人にとっても春画が見られる機会は貴重であり、世界的に有名な葛飾北斎の作品であっても、現物を見たことのある人は少ない。さらに、今まで浮世絵に興味がなかった人にとっても、「性」という人間にとって普遍のテーマをあつかった春画は、知識がなくても楽しめるので、教養の入り口としてもおすすめだ。

艶本の現物を間近に見たときの「200年前、誰かがこの本を手にし、同じように楽しんでいた」という時空を超えた共感は、江戸に生きる人々をぐっと近くに感じさせてくれる。
《蛸と海女》の公開期間中に訪れるかたは、配布されている現代語訳を読みながら鑑賞してほしい。始めてこの本を手に取った江戸時代の人も、きっとあなたと同じリアクションをしたんじゃないだろうか。

葛飾北斎・渓斎英泉 艶くらべ ー歌舞伎町花盛りー新宿歌舞伎町春画展WA
会場:新宿歌舞伎町能舞台・BOND
会期:2026年4月4日(土)~5月31日(日)
前期4月4日(土)~4月30日(木)
後期5月1日(金)~5月31日(日)
*「蛸と海女」展示期間 前期:4月4日〜4月12日 / 後期:5月1日〜5月10日
Webサイト:https://www.smappa.net/shunga/

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

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