小原晩【たましいリラックス】vol.24 探究心?


一日中予定をいれると仕事をする時間がなくなるので休むことができる、ことに気づいた。
だから、何か切りのいいときには、予定をいれる。

朝起きるのはひさしぶりで、ぼんやりと身支度をする。手こずることなく、すっきりと家をでて、乗りもの酔いの薬を飲み忘れたことと、日焼け止めを塗り忘れたことを思い出す。なんとかなるか、と電車に揺られて、鎌倉へ行く。小旅行の気分である。

鎌倉についたころには、すっかり乗り物酔いをしている。半ば白目をむきながら、友人が待っている改札前へと向かい、手をふり、さっそく事情を話して、ドラッグストアに寄り、日焼け止めと酔い止めを買う。すぐに塗る、すぐに飲む。

昼食を食べにいく。すこし前から気になっていたお店である。
すこし前から気になっていたお店、というものは、去年は存在しなかった。それは、事前にお店を調べるということをしなかったからである。ふらっと行って、ふらっと入り、ふらっとたのしみ、ふらっと出ていく。そういうほうが「いい」とまで思っていた。
でも、あの日、ふらっと入った先のごはんが、あまり、なんというか、こう、うれしくなかったとき。ちゃんと調べて、おいしいものを食べたいな、と思っている自分に気づいた。それから、調べるようになった。良さそうなお店に、あたりをつけておくようになった。去年のわたしと、今年のわたしは別人だ。

あたりをつけていた、フォーの店に並ぶ。
並ぶ、ということも去年まではあまりしなかった。今のわたしは、15分なら、待てる。
フォーを食べるということも、去年まではしなかった。食べたことのないものを自分から食べようとしたことはなかった。けれど、わたしはフォーを食べてみようと思った。何やらカラダによさそうなフォー。
入るや否やハイネケンと、チキンのフォーと、春巻きを注文する。すぐにハイネケンがやってくる。呑む呑む。春巻きがやってくる。ぱりぱり。フォー。つるつる。友だちはパクチーが食べられないということで、友だちのパクチーも食べる。パクチーが食べられないのに、ついてきてくれてありがとう。

満腹のおなかを揺らしつつ、棒アイスを食べながら、森へ行く。友だちが緑のなかへ緑のなかへと入っていくさまを、後ろから眺める。このひとはこれからも生きていける、と確信する。急に現れたテーブルとベンチに腰掛け、ともだちの淹れてくれたアイスティーをのむ。友だちがいなければ、一生歩くことのなかった森である。鳥の声が聞こえる。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。https://obaraban.studio.site

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