小原晩【たましいリラックス】vol.12 部屋をかたづける

どこかへ出かける時間がない、とか、そもそも出かける気力がない、とか出かけたとしても仕事の用事、とかで、今月はどこへも出かけていない。
そういうときのたましいリラックスはどこにあるのだろう。もちろん、部屋のなかにある。

部屋をかたづけるのだ!

学生時代、テスト期間中にこそ部屋の模様替えや片付けに勤しんできた皆さんなら、もうお気づきだろうか。やらなければいけないことから目を逸らしたいのである。意外に思われるかもしれないが、兎にも角にも目を逸らすことは、創作の場合、悪いことでもないように思われる。案外、そのことばかりを考えてむんむんと時間を過ごすよりも、他のことをしながら鼻歌でも歌っているほうが、あれっ、と、こぼれるように思いつくことも多いのだ。

①台風が去ったあとのような本棚をしずめる。
うちに大きな本棚はないので、小さな部屋の至る所に本がある。
壁に備え付けられた棚には漫画が、りんご箱のなかに詩歌と積読たちが、小さな本棚にはとくに好きな作家の本が、積み上げるタイプの本棚にはなんとなしと置かれた本が、机の上には近々、頭のなかで点になりそうだと思っている本が、ベッドサイドテーブルには眠りにつきやすそうな本がある。置き場所の方向性を把握しながら、ばらばら置かれている本たちを、それっぽいところへ戻してゆく。私だけがわかればいい文脈へ戻してゆく。

②コロモ変え
もう夏のように暑いのでニットやコートをしまう。いつの日か無印良品で買っていた、衣類を入れられそうな収納用品にぎうぎうと詰め込む。冬の私は少し怒るだろうけど、理解もしてくれると思う。奥のほうから、しわしわになったTシャツが発見される。ほらね、前もこうやって、ぎうぎう押し込んでいるし。この夏もよろしくね。

③勢いづいてきたので、床やら照明やら水回りやらの掃除をすませる。
生きているだけでこんなにほこりや汚れがたまるなんて。床を水拭きしながら、ため息がでる。めんどうくさすぎる。もしかしてほんとうに毎日、掃除機をかけて床を拭いてトイレ掃除をしてお風呂掃除をしなければならないのか。いくらなんでもそれはむりだろう。飽きちゃうよ。ぶつぶつ文句を言いながら、部屋はきれいになってゆく。あらためて自分のなにもできなさにため息が出る。それでも、手を止めず、ただ動かせば、部屋はきれいになってゆく。

④洗濯をすませる
夏用のブランケットを洗いにコインランドリーへいく。コインランドリーへ到着すると、じゃぶじゃぶ洗われている様子をショートヘアの女の子がしゃがんでじっと見ている。女の子の横を通り過ぎて、真っ青のブランケットを洗濯機のなかへ放り込む。近くのコンビニへ行って、ホットコーヒーとティラミスを買う。コインランドリーの前に置かれたベンチに座り、もってきた本をひらく。音楽をきく。風がふく。コーヒーを飲む。ティラミスをたべる。ごくらく、ごくらく。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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