小原晩【たましいリラックス】vol.6 美術館へ

いきたいいきたいと思っていたのに、いつのまにか終わってしまうことがよくある。やっといけたと思ったら休館日ということもよくある。すべては自分がふわふわ生きているせいなのだけれど、これからはすこしでも興味があるなら時間をみつけて、こじ開けてでも足を運びたいと思う。

東京都現代美術館へ向かうと、はやくも西日がさしてきた。月曜日だというのに当日券は列をなしていて、私も列に加わりながらオンラインでチケットを買い、すぐに列から離れて、中へ入る。

いざデイヴィッド・ホックニー展へ。
展示は三階からで、薄暗くて細いエスカレーターをのぼると、展示が始まっている。

ホックニーさんは現在ノルマンディーを拠点にしているというので、Spotifyにてノルマンディーと検索し、でてきた『フランス組曲 I.ノルマンディー』という曲をAirPodsで延々と聴きながら鑑賞する。

私は美術にうとく、ホックニーさんのことを今日まで知らなかったのだけれど、彼は「どのように見るのか、どのように描くのか」を大切にしているのだという。どのように見るのか、どのように書くのか。自分の仕事に重ねて、こころのなかでつぶやいてみる。

ホックニーさんは年代によって、画材もタッチもどんどん変わってゆく。フォトコラージュもするし、ipadを使ったりもする。その画材だからできることを自分の目によって見つけ、やってのける。彼のこれまでをたどりながら、私は自由を知る。こころの水たまりに光がさしてくる。とらわれないことのすばらしさ。生きることのおもしろさ。この絵が好きだ。この絵は胸がつまる。ホックニーさんの絵は、人生は、いま、日本で生まれ育ち、海外へ行ったこともなく、どこまでも無学な私を元気づける。

いろんな方法で、好きなモチーフについて何度でも書いていいのだ。どのように見て、どのようにかくのかということに、これから私はたまらなく向きあっていきたい。


今回の展示で、日本の人にメッセージはあるかと聞かれたホックニーさんは、ただ唯一のアドバイスとして、ビーヨアセルフ。あなたらしくいてください。と言っていた。ホックニーさんにいわれると、感無量としかいいようはない。私は完全にホックニーさんがだいすきになってしまった。

ホックニーさんのグッズをたくさん買って、帰りはうどん屋さんに寄って、ビールものんだ。
これからもきっと生きていける。どんな出来事も、どのように見るのか、どのように書くのかだ。

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小原晩

1996年東京生まれ。作家。歌人。2022年3月エッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』、2023年9月『これが生活なのかしらん』(大和書房)刊行。 https://obaraban.studio.site

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