【コーヒー侍の一杯を巡る旅】File4:PORTERS COFFEE 黒澤 俊さん

日本にはコーヒーの生豆から自家焙煎を探求し、その魅力を最大限に引き出す手段としてハンドドリップ方式を貫く珈琲店がある。そこで、気骨ある店主のコーヒー哲学もスパイスとなった、とっておきの一杯を巡る連載をお届けしたい。

今回は、自身のハンドドリップメソッドに再現性を持たせるため最先端機器を使う、立川市の「PORTERS COFFEE」を訪ねた。オーナーの黒澤 俊さんがディレクションするピースフルな一杯をお楽しみいただきたい。

“街”への優しさに満ちた“綺麗”なコーヒー

コーヒー“侍”といえども、人物像は十人十色。ストイックさを極める哲学者タイプや気骨ある無頼派もいれば、「PORTERS COFFEE」のオーナーの黒澤 俊さんのように情熱を内に秘めた物腰柔らかな人もいる。コーヒーの焙煎やドリップにおいては揺るぎないこだわりを貫きながら、黒澤さん曰く「立川に住まう人々が毎日飲みたくなるような優しい味わい」を大前提としている思いが人柄から滲み出る。

「そもそも興味があったのは“カフェ”というスタイルで、“コーヒー”ではなかった。カフェに対する未来予想図を描くなか、ひとまずはコーヒーのことを知らなければと思い勉強することに」。そう語る黒澤さんだが、気軽にエントリーした通信講座でコーヒーに対する先入観が一変。本気で取り組むために勤めていた会社を辞め、コーヒー専門店「宮越屋珈琲」をセカンドキャリアに選んだのは30歳を目前にした頃だった。豆の知識からドリップのノウハウまでを約2年間学び、人生の標に据えたコーヒー専門店を構えたのは2016年10月のこと。生まれ育ったエリアにほど近い、立川市に焙煎所と喫茶スペースを兼ねた店を持った。

立川という東京の西に位置するビッグタウンを選んだのは、当時この地域にスペシャリティコーヒーを扱う店がなかったため。こだわりの豆の味の風味を限りなく美味しく提供するために、黒澤さんはハンドドリップの技を磨く。その結果、カフェを携えてわずか4年後となる2020年、ジャパン ハンドドリップ チャンピオンシップ(JHDC)2020で優勝というタイトルを得る。

2023年に店舗を移転してからは、2フロアにわたり席を設けたカフェに特化した店舗をオープン。黒澤さんの理想とするドリップを、常に安定して提供できるように全自動のブリューイングマシン「BREWVIE(ブリュービー)」を導入した。サイフォンなどの抽出器具を開発するメーカーとバリスタの共同開発したマシンとあって、ヒーターの設計やお湯のサーキュラーシステム、独立ボイラーを採用するなど、コーヒーの品質を維持するための細部のこだわりが詰まったプロダクトである。さらに、湯量や抽出速度、温度などは細やかに設定できるため、パーソナライズされた黒澤流の味が再現できる。

選りすぐられた単品種を軽やかな自家焙煎で仕上げるコーヒー業界のトレンドを発信しながらも、黒澤さんが目指す味わいは“綺麗なコーヒー”である。“綺麗”という言葉の真意を尋ねると「豆の特徴となる輪郭を保ちながら、舌触りがエグ味やストレスのない口当たりのよいコーヒー」とのこと。毎朝、その日提供するすべての豆をドリップして味を確かめ、気温や湿度に応じてマシンの微調整を重ねている。取材の合間に断続的にコーヒーをいただくと、不思議と冷めても優しい風味を感じる。会話に夢中になり気付いたらコーヒーが冷めていたという経験は誰しもあるはず。それでも黒澤さんのコーヒーは味が崩れない。続いては、その焙煎のこだわりについて伺った。

“お茶”のように長時間楽しめる1杯を追求

他にはない自分だけの感性を前面に表現する道のりも険しいが、誰もが心地よく感じる範囲のなかで豆のチャームを引き出すことは、さらに難しいと想像する。黒澤さんが理想とするコーヒーは後者。立川の街に根差し、住まう人々にとって日々の口福につながるコーヒーだ。さらに、日常に楽しむコーヒーは、お喋りとともに1杯を30分〜1時間かけて楽しむことが条件として加わる。そこで、黒澤さんは「カップの底に残ったコーヒーを、最後に飲み干した時でさえ美味しさが感じられる味を目指した」という。

現在は最初に構えた店舗を焙煎所に切り替え、週3〜4回のペースで焙煎を行なっている。開店当初から伴走している焙煎機はFuji Royalの直火式1kgタイプ。その理由は「音と香りで焙煎の変化がわかりやすいため」だ。頻繁に香りを確かめながら、1ハゼ後は中浅で60〜70秒、中深で180秒を目安に豆をドロップする。甘さを感じるものから、フローラルな優美さに包まれるタイプ、ベルガモットのような爽やかさが満ちるものまで、コーヒーの穏やかな個性と出会える。

人気のブレンド「立川」は、エチオピアやブラジルなど、その都度ブレンドにふさわしい豆を厳選し、芯のある甘さと新緑を思わせる風味を表現。温度が下がるにつれてフローラルさが増し、野原に聳え立つ街のシンボルツリー“欅”の姿が立ち込めるようだ。こだわりのコーヒーと聞くと男性的なイメージが強いなか、黒澤さんが描いたコーヒーは優しい眼差しが注がれた老若男女に愛される1杯といえる。伸びやかに枝葉を広げる欅のように、この街を象徴するコーヒーを味わっていただきたい。

◾️SHOP DATA
PORTERS COFFEE (ポーターズ コーヒー)
Webサイト:https://porters-coffee.com/
住所:東京都立川市柴崎町2-11-22
電話:042-512-5511

◾️COFFEE DATA
焙煎度合い:中浅〜中深
焙煎機:「Fuji Royal」半熱風式
グラインダー:マールクーニック
抽出:ペーパー/BREWVIE
種類:シングルオリジン(7種類)、ブレンド(1種類/立川ブレンド)、デカフェ(1種類)
器:デンマーク製カップ

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

Photo by Chika Okazumi

2002年よりフリーランスフォトグラファーとして開始。2010年~2017年までロサンゼルスと東京を拠点に活動。現在は、雑誌、広告、webマガジンなどで広く活動中。
Webサイト:https://www.chikaokazumi.net

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