
蓼藍で染めた絹糸、その清雅な艶めきに魅せられる。
約30年前からインドに渡り、織物を作り続けてきた真木千秋さん。この4月に、代官山ヒルサイドテラス・ヒルサイドフォーラムにて、テキスタイルアートの企画展「CHIAKI MAKI & ganga maki〜Voice of Nature」を開催。北インドはヒマラヤの麓に構えた工房「ganga maki(ガンガ・マキ)」にて、自然と密接に過ごす日々から生み出されたテキスタイルアート約40点が日本で初お目見えする。

「ganga maki」を象徴する月や星を映す大きな水瓶。
染織の源流を求め、2009年に真木さんが辿り着いたのは北インドのヒマラヤ山麓デラドゥン。そこに構えた「ganga」工房で約17年に及ぶ創作活動を歩んだのち、より大地に根差した素材の力を求め、2012年に新たな土地を得る。建築空間を設計したのは、世界的に知られるインドの建築家ビジョイ・ジェイン主宰の「スタジオ・ムンバイ」だ。3000坪という広大な土地を訪れた建築家ビジョイ・ジェインは、周囲の景観や大地の起伏を日々観察。建物の中心に月や星を映し出す池のような水瓶を作ることを決め、その周りに木陰をもたらすように2年がかりで木の苗を植えた。さらに、土や石、石灰や煉瓦、竹に至るまで、工房から半径2km以内の素材にこだわり、伝統的な手法を周囲の環境と調和するように設計。新工房「ganga maki」が完成したのは着工から5年後の2017年である。現代の時間の流れと反比例しながらも、自然がもたらす素材を伝統の手法を用いながら現代に生かすという建築の在り方は、真木さんの創作活動とも通じる。



ganga maki工房の建物は土からなる。機械化に頼らず、伝統的な道具で糸巻きをする様子に、染織の原風景をみるようだ。
「織物は暮らしの中で生き、使われるものがいちばん愛おしい」と考え、衣服やストール、インテリアファブリックなど、用途のある織物づくりを続けてきた真木さん。「ganga maki」の敷地や周囲に広がる農地では、芭蕉や苧麻などの繊維植物、インド藍やインド夜香木、ザクロ、メヘンディ(ヘナ)といった染色植物を自家栽培している。工房の内部では、“ずり出し”と呼ばれる手法により、生糸が手挽きされ、藍甕(あいがめ)の中では藍がふつふつと発酵。さまざまな家蚕や野蚕の繭、遊牧民の村で手刈りされたウールなど、天然繊維から糸を紡ぎ、染め、織る──。素材となる植物を育て、日々収穫し、素材にしていく暮らしを重ねるうちに、何気ない工程の中で「美しい」と感じる瞬間が連続して現れるようになったという。



1枚目:藍の刈り取りをする真木千秋さん。
2枚目:工房の農地に育つ糸芭蕉は1000本をゆうに超える。
3枚目:染料となるマリーゴールド
「アートと呼ぶには、少し気恥ずかしさがありますが、素材づくりの副産物のような気づきが“創造の種”となり、次第に織物や繊維が“造形”をなすようになりました」(真木さん)。インドの職人と共に生み出されたこうした作品を、2024年12月に「スタジオ・ムンバイ」でアート展として発表し、2025年1月にはデリーの「Art Motif」でもエキシビションを開催。そして、このたび「Voice of Nature」展に臨む。




自然と暮らしながら糸を紡ぎ、染め、織る──淡々とした工程の中から“ハッとする”瞬間を掬い上げ、真木さんはテキスタイルの世界へと投影した。
インドで好感触を得たエキシビションを、東京でも企画した理由を尋ねると「一人のアーティストとして強いメッセージを打ち出したいというよりも、作り手として日々の暮らしの中で気づいてきたこと、そして今、どのように物作りと向き合っているのかを、日本で見ていただきたいと思った」と真木さんは語る。
たとえば、工房にとって大きな仕事のひとつは、藍を育て、藍を染めること。土を耕し、種をまき、育ったインド藍を収穫し、その水瓶で藍の葉から泥藍を作る。「ganga maki」の布づくりの根底ともいえる藍の営みからは、気候の移ろいや土地の呼吸を含む作品「Indigo Galaxy(藍の銀河)」が誕生。また、作品「Sadred Skirt(聖なるスカート)」は、工房の敷地に根を下ろし、すくすくと育つ糸芭蕉の木から想起。自然の生命力と偉大さを、大地(Mother Earth)の衣=巨大な巻きスカートとして創出した。

「Indigo Galaxy」(ビーマル・ヒマラヤウール、直径150 ×160×高さ50cm)。藍の色が生まれる循環を、ゆらぎを含んだ螺旋でイメージ。



「YURAGI」(1枚目)・「藍島」(2枚目)・「Sadred Skirt」(3枚目)。ganga makiの真髄ともいえる藍を染める営みが、多彩な作品に。
「人が意図して“作る”というよりも、自然の営みと手の仕事が重なったときに、いつの間にか形になっているものがある」──そんな感覚を、真木さんは大切にしている。透き通るような“自然の声”が織りなす、テキスタイルアートのオーケストラを是非ご覧いただきたい。




1枚目:作品の仕上げにかかる真木千秋さん。
2枚目:「Himalayn Cloud」(手紡ぎヒマラヤウール、直径85×98 × 高さ43cm)。ふくふくした毛足が空気を含み、雲のように静かに佇む。触覚が呼び起こす温度と余白が、素材そのものの気配を浮かび上がらせるよう。
3枚目:「Dancing Basho」(芭蕉・苧麻、縦140 ×横 120 × 奥行20cm)糸。芭蕉の木を余すことなく使いきってきた芭蕉紙を茜で染め、敷地内の苧麻(ちょま)の繊維で格子を織り、漉き上げた。
4枚目:「Plant Breath」(手挽き絹 ・野蚕タッサーシルク・苧麻、縦385 x横 272cm)。植物の色と気配が布の中に静かに重なり、光とともに呼吸するような表情に。

会場構成と展示デザインは、真木さん(左)と長年交流のある建築家の中村好文さん(右)が手がける。
写真:井島健至
CHIAKI MAKI & ganga maki 「Voice of Nature」
展示会期:2026年4月2日(木)〜4月12日(日)
展示時間:11:00〜19:00(最終日4月12日のみ11:00~17:00)
展示会場:ヒルサイドフォーラム (代官山)
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町18-8 1階
入場料:一般800円(学生500円)
●会期中のギャラリートーク
4月4日(土)14:00〜15:00
真木千秋と石垣昭子、中村好文による鼎談。今回のアート展に縁の深い染織家と建築家のお二人を迎え、3者それぞれの視点が交差する縦横無尽なトークセッションを繰り広げる。
定員:60名
申込:https://forms.gle/mQ95SKwBVuZnKfNj9
(申し込み締め切り3月31日)
4月7日(火)18:00〜19:00
「ganga maki」を設計・建築 した「スタジオ・ムンバイ」主宰、建築家のビジョイ・ジェインさんをゲストに迎えたスペシャルトークを実施。
申込:https://forms.gle/gNvbnYyEgmgVV59SA
定員:60名
(申し込み締め切り3月31日)
お問い合わせ
「Voice of Nature」展事務局
https://www.itoito.jp/Exhibitions/2026/von/von.html