
車両に足を踏み入れただけで、時代を遡るよう。
箱根にオリエント急行が存在することをご存知だろうか。しかも、その壁面装飾や照明は、1928年にフランスのガラス工芸界の巨匠、ルネ・ラリックが手がけた。パリとフランス南部を結ぶ「コート・ダジュール特急」として始まり、1976年からノスタルジー イスタンブール オリエント急行として2001年まで活躍した「PULLMAN 1ère CLASSE NO.4158」の実物のサロンカーなのだ。この格別な列車をティーサロンとして開放しているのは、温故知新の手がける「Hakone Emoa Terrace(箱根エモアテラス)」。まずは、そこだけ時が止まったような室内へと案内したい。


まるでプラットフォームのような空間に鎮座する「PULLMAN 1ère CLASSE NO.4158」のサロンカー。艶めく壁の装飾はルネ・ラリックによる「彫像と葡萄」のレリーフ。
オリエント急行は周知の通り、多くの人々の浪漫をのせてヨーロッパ各地を駆け巡った長距離寝台特急である。ことに黄金時代ともいえる1920年〜1930年には、世界中の王侯貴族や時の政治家、セレブリティーたちにとって、ラグジュアリーな旅のステイタスとされた。「Hakone Emoa Terrace」に停泊しているのは、まさに黄金期の車両で、ルネ・ラリックが手がけた総計156枚ものガラスレリーフが存在感たっぷりに艶めく。
「彫像と葡萄」と題したそれらの作品は、豊穣を映す葡萄とポージングが異なる男女のレリーフを3枚1組で構成。酒の神であるバッカスに捧げる祝祭を表現している。フロスト加工によるガラスレリーフが静謐な光を放ち浮き立って見えるのは、ガラス背面に銀彩が塗られた鏡面加工によるそうだ。

旅をクラスアップするティータイム。
細部にまで贅の限りを尽くした瀟洒な室内でいただくのは、オリジナルブレンドの紅茶とデザートのティーセット。この秋は柿や梨、いちじく、葡萄で季節の瑞々しさを添えたクリームチーズとヨーグルトのレアチーズが味わえる。カップ&ソーサーやシルバーも、オリエント急行のオリジナルのものを使っているため、まさに時代をタイプスリップしたかのようなティータイムが過ごせる。


併設されているカジュアルフレンチ「Restaurant Emoa(レストラン・エモア)」の庭先には紅葉に染まる樹々が広がる。
一方、開放感溢れるテラスで紅葉を存分に楽しみたい方には、「レストラン・エモア」での限定スイーツをレコメンドしたい。リンゴを彩った「ポム・アンシャンテ」は、ラム酒に漬けたフルーツとクリームに、カルヴァドスでソテーしたリンゴをトッピング。アンティークピンクに染まる「いちじくとリュバーブのタルト」は、果実の甘みと酸味が織りなすドラマテイックな余韻を運ぶ。「ゴーダリッチシフォン」は、ゴーダチーズを練り込んだ芳醇なシフォンに炙った柿が香ばしさを添える。樹々の恵みを一期一会の紅葉とともに味わいたい。



1枚目:洋酒が香る「ポム・アンシャンテ」
2枚目:酸味と甘さのバランスが絶妙な「いちじくとリュバーブのタルト」
3枚目:濃厚なチーズと柿のハーモニーを味わう「ゴーダリッチシフォン」
写真提供:全てHakone Emoa Terrace by 温故知新
Hakone Emoa Terrace by 温故知新
住所:神奈川県足柄下郡箱根町仙石原186-1
TEL:0460-84-2262
Web:https://emoa.by-onko-chishin.com/