4年ぶりのオールナイト開催「六本木アートナイト2023」をレポート

2023年5月27、28日の週末2日間にわたり「六本木アートナイト2023」が開催された。

メインプログラム・アーティストに栗林隆+Cinema Caravan 、鴻池朋子を迎え「都市のいきもの図鑑」をテーマに六本木の街をフィールドにさまざまな作品を展開。4年ぶりとなるオールナイト開催ということもあり、日本人だけでなくさまざまな国の人々が集まり、2日だけの特別な展示を楽しんだ。

六本木ヒルズ

まずは、東京メトロ日比谷線の六本木駅をおりて、1c出口からメイン会場の六本木ヒルズへ。
メトロハットのエスカレーターを上がると、頭上に、バルーンアートユニットDAISY BALLOON(デイジーバルーン)による作品《乱流》が見えてくる。

スティック状のラバーバルーンを平面に編み込み歪ませることで、変動性が高く、不確実で複雑、さらに曖昧さを含んだ現代社会と自然環境の対立構造が暗喩として表現されている。不正義や不条理に静かに向き合い、内なる葛藤と和解して、変幻自在に自分自身を変化させていく、予測不能な乱流のような世界で柔軟に生きる希望を込めた作品だ。

形状の不規則さ、不安定さとは相反するカラフルな虹色が、不思議と気持ちを明るくしてくれる。

デイジーバルーン《乱流》

エスカレーターを降りて66プラザに到着すると、すぐに現れたのが、エマニュエル・ムホー《 100 colors no.43「100色の記憶」》だ。
よく見ると、一枚ずつ数字がプリントされている。一番手前の白い数字は2023、奥の紫のピースには2003とある。これらは西暦を表しており、記憶のレイヤーをイメージしているのだとか。この色とりどりな記憶の空間に人々が集まり思いを馳せる場所となるように、という思いが込められている。

エマニュエル・ムホー《 100 colors no.43「100色の記憶」》

そのままウエストウォークに足を踏み入れれば、大小島真木 + Maquisのインスタレーション《SHUKU》が。
日本には由緒の定かではない奇妙な神が多くいる。シュクは、日本の各地で、古来から名前を変えて信仰されてきた異神、または精霊とされている。とりとめがなく、変幻自在であり、何者でもない。
そんな謎の古神である“シュク” の現代的な憑座として、自然物と人工物、有機物と無機物、人間と他種が境なく混じり合った「サイボーグとしての御神体」が表現されている。

ガラスの中で生き物がうごめくかのように光るLEDと、水の音のような不思議な音が神秘的な作品だ。

大小島真木 + Maquis《 SHUKU 》

ウエストウォーク内のショップを覗きながら奥へ進むと、出口付近にピンク色のドリーミーな世界が現れる。江頭誠《 DXもふもふ毛布ドリームハウス》だ。

江頭誠《 DXもふもふ毛布ドリームハウス》

日本人にとっては懐かしいあの花柄の毛布、いわゆる「実家の毛布」がたくさん使われている。
作者の江頭誠氏は、実家から持ってきた毛布を友人にダサいと馬鹿にされたことをきっかけに、意識せざるを得ない存在になり、作品を作るようになったという。

そういえば、筆者が一人暮らしをし始めた頃、無地の毛布を探せど「実家の毛布」ほど肌触りがよく心地よい重みの毛布が見つからず、なぜ絶対にこの柄なのか、なぜ無地ではダメなのかと憤ったものだ。(結局今も納得のいく毛布は見つかっていない)

私たちが「実家の毛布」そのものに抱く印象のように、どこか浮世離れしたロココな世界観と、そこはかとないノスタルジーが漂う作品だった。

外に出ると、サントリーウイスキー 「響」ART OF HIBIKIのブースが目の前にあった。そのまま吸い込まれるように中に入ると、さまざまな原酒が美しく展示された空間や、その一部をテイスティングできるバーカウンターなどがあり、響を味わいながら、展示を楽しめるようになっていた。

コインを購入し、カウンターで好きな飲み方を指定する。

映像や、伝統工芸とコラボレーションした特別酒のボトルなどが展示されており、ウイスキーの味わいをより深めてくれる内容となっていた。

六本木の街を彩る様々な作品

東京ミッドタウンに向かう道中にも、たくさんの作品が散りばめられていた。

六本木ヒルズを出てすぐ、六本木通り沿いの空き地に、さまざまな表情の色とりどりの顔の立体が転がっていた。人の身長ほどもある大きな彫刻は、佐藤圭一の作品《 nutty nutty》だ。

佐藤圭一《 nutty nutty》

その空き地の外側の壁には、ナカミツキ《NEW MIX》が。
音楽についての考察が人を深く知ることに繋がるという考えから、躍動感のある楽器と衝動的に動く手足をモチーフにしている。
グラフィティアートのようなカラフルで大胆な作品は、六本木という街に違和感なく溶け込んでいた。

ナカミツキ《NEW MIX》

六本木の交差点には長谷川仁による立体作品《六本木のカタガタ》が配されていた。自転車を止める人、のんびり座る人など、繁華街六本木からはイメージできない生活感や、日々の営みを思わせる作品だ。
そこにあるはずだけどすぐには見えてこない「地域」と交差点を往来するする人々の表層的な「日常」を観察することで、本当の六本木が見えてくるという考えのもと制作されている。

長谷川仁《六本木のカタガタ》

六本木の交差点をそのままミッドタウン方向に渡らず、少し寄り道して外苑東通りを右折すれば、東京タワーが見えてくる。「これぞ東京」という感じの写真が撮れるので、個人的におすすめのスポットだ。

東京ミッドタウン

東京ミッドタウンでも、ギャレリア内だけでなく、ガーデンに至るまで敷地内にさまざまな作品が展示されていた。

ライトアップされたガーデンをゆったり歩いていると、不思議な光が見えてきた。
studio SHOKO NARITA Street Art Performances《 空の装置》だ。
このワークショップでは、空が赤や青に発色して見える現象(レイリー散乱)と同じ原理で作られた特殊なガラスを使って、空の光の色を作ることができる。ガラス、光、鏡の素材を自由に再構成し、自分だけの空を探す体験ができる。

1時間待ちの人気ぶりだったため断念してしまったが、この美しい装置に人々が引き寄せられるのは頷ける。

studio SHOKO NARITA Street Art Performances《空の装置》

ミッドタウン内に入って、ガレリアの1Fからふと見上げれば、鴻池朋子《皮トンビ》が吹き抜けの中を羽ばたくように展示されていた。
資本主義の下では商品化されない皮の切れ端を用いて作られており、自然は人間の営みを超えた存在であって、商品化のためにあるのではないことを伝えている。

《高松→越前→静岡→六本木皮トンビ》

最後は、オランダを拠点に1991年に設立した国際的パフォーマンスカンパニーClose-Act Theatre(クロースアクトシアター)による《White Wings》を鑑賞した。

現れたのは、3m以上の背丈の、青白い光をまとった人々。
スティルツ(竹馬の一種)で見事にバランスをとりながら、ドラムと掛け声とともにプラザ内を廻るパレードで始まった。ぐるりと一周し、プラザに溢れる観客の期待値が最高潮になったころ、いよいよ歌とダンスのショーが披露された。

蝶のような翼をもった白い妖精のような人々が妖艶に舞い、黄金の歌姫が美しく不思議な歌声で歌う。ファンタジーの世界に迷い込んだかのような幻想的なパフォーマンスだった。

オープニングセレモニーでも披露されていたのだが、日が落ちてからの時間帯のパフォーマンスは、より一層美しさが増したように思う。
観賞後は、奇妙な夢を見たときのように、しばし放心状態に陥った。

この他、国立新美術館やサントリー美術館、森美術館、21_21 DESIGN SIGHTなど、ミュージアム内でも興味深い展示が盛り沢山となっているが、オールナイトで楽しめるのでたっぷり時間をかけて回りたい。普段は見ることのできない美術館の夜の姿が見れるのもアートナイトならではだろう。

今年行きそびれてしまった人は、ぜひ来年足を運んでみてほしい。

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Orie Ishikawa

ZEROMILE編集担当。 歴史、文学、動物、お酒、カルチャー、ファッションとあれこれ興味を持ち、実用性のない知識を身につけることに人生の大半を費やしている。いつか知床にシャチを見に行きたい。

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