この春「マティス 自由なフォルム」を見るべき3つの理由

東京・六本木にある国立新美術館で、アンリ・マティスの大回顧展「マティス 自由なフォルム」が始まった。世界的にみても、この展覧会でしか見られない・体験できない・買えないモノやコトが詰まっている貴重な展覧会だ。絶対に見に行くべき理由をご紹介しよう。

アンリ・マティス《花と果実》1952-1953 年 切り紙絵 410×870cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse

アンリ・マティス(1869-1954)は、北フランスに生まれ、パリで学んで画家としてデビューし、人生の後半を南フランスで過ごした20世紀最大の巨匠のひとり。さまざまな画風に挑戦した絵画だけでなく、彫刻や装飾芸術、そして晩年は色を塗った紙をハサミで切り取って紙に貼り付ける「切り紙絵」に取り組んだ。この展覧会では、作品のほとんどがフランス・ニースにあるニース市マティス美術館から貸し出され、150点あまりが展示されている。

右:ニース市の観光ポスターにもなった《ザクロのある静物》1947年
左:《仰向けに横たわる裸像》1946年 ニース市マティス美術館蔵 
©Succession H. Matisse

見るべき理由① 晩年の切り紙絵の大作《花と果実》をガラス越しでなく、直接見られる!

本展の最大の目玉は、展覧会に合わせて修復された縦4.1×横8.7mもの切り紙絵の大作《花と果実》だ。この作品はほぼ門外不出で、美術館がオープンした1963年以来、これまでに1回しか美術館外に出されたことがなく、今回が2回目だという。

そもそもこの展覧会は本来2021年に開催される予定だったが、パンデミックで延期。この《花と果実》は本展のために修復され、修復後、日本のこの展覧会で世界初公開されるはずだったのだが、延期により、まずはニース市マティス美術館のエントランスホールに新たに設けられた巨大ガラスケースに収められて展示された。

ニース市マティス美術館のエントランスホールでは、ガラスケースに収められて展示されている。

アンリ・マティス《花と果実》1952-1953 年 切り紙絵 410×870cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo: François Fernandez

そして、晴れて来日した国立新美術館では、本家ニース市マティス美術館のようにガラスケース入りではなく、なんとそのまま展示されている(トップの画像参照)。この展覧会のディレクターを務めた前ニース市マティス美術館館長のクロディーヌ・グラモン氏に聞くと、「ガラスケースはあまりに大き過ぎて日本に運ぶことができなかったので、今回はガラスなしで展示することになりました」とのこと。そして、「おそらくこの作品は、今後ほかの美術館に貸し出されることはないでしょう」とも教えてくれた。ということは、ガラス越しでなくこの大作を見ることができるのは、将来的にもこの展覧会だけ。本展終了後は、たとえニースまで出かけたとしても同じ状態で見ることはできない。私は2023年3月にニース市マティス美術館を取材し、両方の展示を見ているが、やはり本展のようにガラス越しではない展示のほうが、作品との距離感がより近いと感じられた。

マティスの切り紙絵と手書きのテキストがプリントされた書物

『ジャズ』(1947年刊行)ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse

見るべき理由② マティス最晩年の作、ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部を1/1スケールで再現

ニースから車で約30分の中世の村ヴァンスに建つロザリオ礼拝堂は、マティスが最晩年に精力を傾けたもの。本展では、マティス自身が「一生の仕事の集大成」と語ったこの礼拝堂の内部を1/1スケールで展示。ステンドグラスや壁画はもちろん、床のタイルから祭壇に置かれたキャンドルスタンドまで、マティスが隅々まで制作し、デザインしたとおりの空間を再現し、展覧会のフィナーレを飾っている。

ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部の展示風景。ステンドグラスを通した色とりどりの光が床を彩る。

この展示のすごいところは、1日の光の移り変わりを3分間に凝縮して壁や床に投影しているところ。ステンドグラスを通した色とりどりの光が、白いタイルに描かれた壁画に映ったり、床を斜めに横切ったりする1日の変化を見ることができるのだ。これは、たとえ現地に足を運んでも見ることができない、この展覧会だけの特別な体験だ。

マティスは、ステンドグラスやタイル壁画だけでなく、祭壇上のキャンドルスタンドや入り口の聖水盤など、あらゆるディテールを制作した。司祭がミサを行う際に着用するカズラ(上祭服)も、切り紙絵の手法でデザインした。

左《黒色のストラ(頚垂帯)のためのマケット》、中央《黒色のカズラ(上祭服)のためのマケット(正面)》、右《黒色のカズラ(上祭服)のためのマケット(背面)》 
ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse

見るべき理由③ フランスでは買えない、さまざまなミュージアムグッズに注目!

展覧会の会場を出てからも、お楽しみは続く。マティスの作品を活かしたさまざまなミュージアムグッズが並ぶショップでは、足を止めずにはいられないだろう。

《花と果実》をモチーフにしたラップトップケース4,180円(税込)

これらは実は、フランスではまだ作ることができない。フランスでは著作権の原則的保護期間が死後70年に設定されているためだ。日本では保護期間が死後50年のため、2004年以降、マティスの作品は、日本においてはパブリックドメインとなっている(もちろん、商業利用や出版などについては、遺族で構成されるマティス財団への許可が必要)。

マティスらしい色合いのボールペンと、《花と果実》の花のモチーフをかたどったクリップ。奥にはマティスが使用したパレットが表紙にプリントされたスケッチブックも。

もし、あなたがこの展覧会の開催期間中に東京にいるという幸運に恵まれているのなら、迷わず国立新美術館に足を運ぶことをおすすめする。マティスが取り組んだ絵画、デッサン、彫刻、装飾芸術、そして実際に使った家具やパレットなど、バラエティ豊かな作品を飽きることなく見ながら彼の芸術家人生を辿り、展示のラストにヴァンスのロザリオ礼拝堂で最高潮を迎え、さらにミュージアムショップで盛り上がる。きっと「来てよかった」と思えるだろう。

マティスはデッサンを大量に描いたことでも知られている。

右:《ポンパドゥール夫人》1951年
左:《自画像》1944年 ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse

「マティス 自由なフォルム」
会場:国立新美術館 企画展示室 2E
会期:2024年2月14日(水)〜5月27日(日)
休館日:火曜日 *ただし4月30日(火)は開館
開館時間:10:00〜18:00 *入場は閉館の30分前まで
観覧料:一般2,200円ほか
https://matisse2024.jp

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Naoko Ando

(株)世界文化社、(株)日経BP社にて男性誌、婦人誌、ライフスタイル誌の編集に携わり、2010年フリーランスの編集者/ライターとして独立。おもにアート、旅、インテリア、デザイン、建築の分野で活動中。近著に『マティスを旅する』(世界文化社)がある。noteにてコラム「旅とアート」を公開中(https://note.com/esperluca)。

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