
吹き抜けのラウンジの壁を埋め尽くす巨大な本棚
旅先では思いがけない出会いがある。時にそれが人であり、モノであり、偶然手に取った本ということもある。そんな知的好奇心の扉を開くブックオーベルジュが、2018年8月にオープンした「箱根本箱」である。書店でもなく、図書館でもなく、ライブラリーを有する旅館やホテルとも異なる。同館のキャッチフレーズを借りるならば“本をテーマとしたインタラクティブ・メディアホテル”という全く新しい形の施設なのだ。


1枚目:本棚には、中に潜り込める秘密基地のようなスペースもあり、遊び心に溢れている。2枚目:館内の至る所に本と向き合うスペースがある。写真は2階のラウンジ。
本が置かれているのはラウンジに限らない。通路やレストラン、ライフスタイル&アルチザンショップなど、パブリックスペースの至る所を満たしている。すべての本は自由に手に取り、心ゆくまで読み耽り、購入することもできる。まさに、本と一緒に暮らしているような、一冊の本との距離感がぐっと近くなる仕掛けがそこかしこに散りばめられているのだ。
その蔵書は新刊、古書、洋書や絵本まで約1万2000冊に及ぶ。暮らしに彩りを添える「衣・食・住・遊・休・知」を切り口に、プロジェクトメンバーが本をセレクト。加えて、本をこよなく愛する各界の第一線で活躍する著名人の選書「あの人の本箱」が、本のバリエーションにスパイシーな個性と奥行きをもたらしている。
ゲストルームは全18室。全室に強羅から引き込んだ無色透明の温泉露天風呂をもうけた。家具の配置も異なり、ひとつとして同じ部屋がない。本箱の配置も定期的に変わるため、何度訪れても新たな一冊と出会える。


1枚目:本棚をパーテーションに、ベッドとリビングが分けられたコーナースイート
2枚目:テラスツイン


大浴場は無色透明な美肌の湯と、 乳白色の硫黄泉の2つの泉質が楽しめる。
“ブックオーベルジュ”と謳っている「箱根本箱」のレストランは、単に地産地消を掲げた食の表現にとどまらない。箱根という土地を再解釈し、東海道の宿場町カルチャーや、歴史からインスピレーションを得たメニューを構築。振る舞われる一皿に知的発見を添える関連本も、レストランに設えた本棚に並ぶ。
さらに、“食後に本をじっくり読めるように”という配慮から、ダイニングではノンアルコールドリンクのペアリングにも力を注ぐ。四季折々のハーブやフルーツに加え、森に抱かれたこの土地らしい「樹々と野菜」のマリアージュも展開。ここで出会った一冊の本が、旅の余韻として箱根で過ごした時間を蘇らせてくれることだろう。

ダイニングの壁には、ロシア人のアーティスト、エカテリーナ・パニカノーヴァさんが古書をキャンバスに描いた作品が。
写真提供:箱根本箱
箱根本箱
住所:神奈川県足柄郡箱根町強羅1320-491
電話:0570-001-810
ウェブサイト:https://hakonehonbako.com/