
誰かと別れたあとのひとりの時間は満ち満ちている。さっぱりとしたさびしさ。ひとりの軽さ。わたしは何度も振り返り、手を振った。階段や壁、角に阻まれて、決して見ることのできない、わたしの背中、あなたの背中、それぞれの丸まった背中、首すじの汗、くちびるの影。安心している。完璧なひとり。健康的なひとり。微笑をひとり。ひとりの幸福を教えてくれたのはあなたです。電車にのり、隙間に座る。すべるように走りだし、加速する。窓は暗く、小雨はここまで届かない。地下鉄だから。すぐにつく。新宿から一本だから。改札を出て、階段を上がる。閉店40分前の立ち食い蕎麦屋に入り、食券を買う。ざるそばを啜る。冷たい水を飲む。店を出る。部屋に戻るころには、頭がぼんやりしている。SNSをみる。みてもみても満たされることのないSNSをみる。突然やる気がなくなって携帯電話をほっぽり投げる。すこし眠る。眠ったのか眠らなかったのかわからない、うっすらとした眠り。起き上がり、浴槽を洗う。湯をはる。入浴剤を溶かし、顎まで沈む。ため息をひとつ落とす。ふたつ、みっつ。
