里山に抱かれ静かに時がほどける宿「小樽旅亭 蔵群(くらむれ)」

北海道・小樽の市街地から車でおよそ20分。山あいの静かな温泉地・朝里川温泉に「小樽旅亭 蔵群」は密かに佇む。建築を手がけたのは、北海道の自然に溶け込むモダン建築を得意とする中山眞琴氏。小樽運河の倉庫群を思わせる低層の切妻屋根の建物を複数建て、渡り廊下でつなぐことで、まるで蔵が連なる静かな集落のような独創的な宿が誕生。2棟の宿泊棟、風呂棟、ロビー棟、食事棟の5棟が、有機的に呼応しながら、借景の里山とともに圧倒的な空間美を造り上げている。

20年以上重ねてきた宿の歴史を、今夏より、日本の歴史や文化を再解釈し、ラグジュアリーな付加価値のある宿泊施設へと昇華させる「温故知新」が舵を握る運びとなった。

建物の礎は、もともとこの地に点在していた蔵。建物の一部には百年近く前の蔵の梁や石材が使われており、確かな歴史の存在感が宿る。そのためか、敷地に足を踏み入れると、石壁の重厚さと山辺の緑が織りなす静寂に包まれ、まるで異世界を逍遥するかのようだ。

柔らかな外光に包まれたモダンなロビーにはじまり、アートや工芸品に彩られたパブリックスペース、クラシックな重厚感とモダンさが溶け合うライブラリー、低い位置に窓を据えたニュートラルな採光など、微に入り細に入り視界に映るものすべてが“物言わぬ語りべ”となって目を楽しませる。

客室はオールスイート設計。部屋ごとに趣をかえ、まるで個人の別邸を尋ねたような心地よさに満たされる。窓からは朝里川のせせらぎや山の稜線が望む。露天風呂に浸りながら樹々の揺らぎに抱かれれば、次第に日常の喧騒から心が解き放たれていくのを実感できる。

さらに食事は、地元の山海の幸を駆使し、素材の優しさが仄かに漂う会席料理に仕立てられている。その味わいはもちろん、ひと皿ごとに季節の物語を描いたかのような美しさも一緒に目で味わいたい。また、レストランでの食事中はもちろん館内のドリンクやバー・ラウンジでの飲食を、宿泊代に含めた「オールインクルーシブ」方式を採用。重ねて客室で過ごす時間を一層豊かに彩るため、ルームサービスの充実にも力を注いでいる。日本酒はもちろん、小樽や余市の土地に根差したワインなど、大人の時間を深める美酒とともに、“湯食”同源の時間を楽しみたい。

小樽旅亭 蔵群(くらむれ)
住所:北海道小樽市朝里川温泉2-685
電話:0134-51-5151
Webサイト:https://otaru.by-onko-chishin.com/

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Takako Kabasawa

クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークやブランディングも行う。着物や茶の湯をはじめとする日本文化や、地方の手仕事カルチャーに精通。2023年に、ファッションと同じ感覚で着物のお洒落を楽しむブランド【KOTOWA】を、友人3人で立ち上げる。https://www.k-regalo.info/

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